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新入生とパートナーには友達が少ない?

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新入生とパートナーには友達が少ない?

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プロローグ

 
 花も綻ぶ桜の季節。
 花びら散る蒼空学園のカフェテリアにて、着々とお茶会の準備がなされていた。



「アルセーネさん、今日はクッキーを持ってきたんです」
「まあ、ありがとうございます! 見た目も可愛くて、美味しそうですわね」
「そう言ってもらえると僕も嬉しいな。これ、柚の手作りなんだよ」
 お茶会の準備をしていたアルセーネ・竹取(あるせーね・たけとり)に、杜守 柚(ともり・ゆず)は持参したクッキーを手渡す。
 柚のパートナーである杜守 三月(ともり・みつき)の言葉を聞くと、アルセーネは驚いたように柚を見た。
「この量をですか!? 大変でしたわよね?」
「いえ。それよりも、私たちもアルセーネさんのお手伝いをしてもよろしいですか? ねえ、三月ちゃん」
「そうだね。アルセーネに準備を任せきりにするわけにはいかないしね」
 二人の申し出に、アルセーネは笑みを浮かべた。


 お茶会の話を聞いたヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)は、パートナーであるセリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)に連絡を入れていた。
『――果物に……他にも肉や野菜? ずいぶんと量があるな、ヴァイス』
「ああ。みんなの食べたいものを聞きながら焼いていこうかと思ってさ。クレープだったらデザートにでも、それか小腹が空いた人のためにスナッククレープも作れる。応用が利くし、その分楽しめるかと思うんだ」
『突発なんだから、もっと手軽な物にすれば良いのに。まあ、いいか。前に教わった通りの、生地の材料を買って行けば良いんだな?』
 半分呆れ、半分感心交じりに溜め息を吐きつつも、セリカはヴァイスの頼みを受け入れる。
「よろしく頼むぜ」
 調理室から皿を拝借しつつ、ヴァイスはセリカとの通信を切った。


「え、お茶会?」
「カフェテリアで新入生との交流会みたいなものをやろうと思ってな。良かったら来ないか?」
 蒼空学園を訪れていた五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)に声を掛けたのはアキレウス・プティーア(あきれうす・ぷてぃーあ)
 東雲はアキレウスの誘いに逡巡する。
「けど、俺たちはイルミンストール魔法学校の生徒なんだけど……」
「学校は関係ないぜ! 自由に参加してくれて構わない!」
「面白そうだし、参加しちゃおうよ! 東雲」
 東雲のパートナー、リキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)が参加を催促する。
 リキュカリアの言葉に、東雲は首肯した。
「リキュカリアがそう言うなら……そうだね。分かった、俺たちも仲間に入れてくれないかな?」
「よし、了解した。それじゃあ自分が案内してやるよ!」
 お茶会のメンバーが増えたことに笑みを浮かべるアキレウス。
 張り切ったのか、東雲の手を掴むと自らの俊足を活用して勢いよく走り出した。
「って、ちょっと! そんな早く走ったら、東雲の体がー!!」
 同じく手を引かれたままに声を張り上げるリキュカリア。
 横には、顔色を青くした東雲が併走する姿があったのだった。


 蒼空学園で待ち合わせをしていた南天 葛(なんてん・かずら)木賊 練(とくさ・ねり)
 葛はダイア・セレスタイト(だいあ・せれすたいと)ヴァルベリト・オブシディアン(う゛ぁるべりと・おびしでぃあん)を、練は彩里 秘色(あやさと・ひそく)を、とお互いにパートナーを引き連れて再会していた。
「ねえ、今日蒼空学園のカフェテリアで、交流会という名のお茶会をやるらしいよ!」
「お茶会?」
 練の唐突な言葉に、葛は首を傾げる。
「先ほど、ここの学園の方に誘われましてね。なんでも、学校は関係なく誰でも参加可能で、皆で交流をして仲良くなるのが目的だそうです。それで、木賊殿は南天殿と一緒に参加をしたい、と」
 秘色が練の言葉を補足するように説明する。
「へえ、面白そう! お茶会ってことはお菓子とかもいっぱいあるのかな。ねぇダイア、う゛ぁる、参加しても良いかな?」
 説明を理解した葛は、途端に瞳を輝かせた。
「そうね、いろんな人と仲良くなれるなら、それも良いかもしれないわね」
 ダイアは優しい声音で賛同する。
「別に、行きたきゃ勝手に行けば良いじゃねえか」
 ヴァルベリトも同意を示すように言葉を返す。
 しかし、言い方が悪かったのか葛の表情に不安が浮かび上がった。
「う゛ぁるは、楽しみじゃないの……?」
「べっ……別にそうは言ってねーよ! ほら、参加するんだろ? さっさと行くぞ!」
 慌てたように返しながら、ヴァルベリトはさっさと歩き出す。
 練はその後姿を見ながら、楽しげに笑みを浮かべた。
「素直じゃないねえ」
「う、うるせぇ!」
 悪態を吐きながらも、ヴァルベリトの肌は仄かに赤く染まっている。
 そんな彼の後を歩きながら、一向は蒼空学園のカフェテリアに向かった。

「お茶会の参加者かな? 会場はこっちだよ!」
 葛や練たちを出迎えたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)。パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)と先に会場へと到着していた為、お茶会会場の準備を手伝っていたようだった。
「なんだ、今日は大分人数がいるな。俺の作った茶菓子が足りれば良いのだが」
「心配ねぇだろ。結構な量を用意したんだろ?」
 ダリルの呟きに、カルキノスは気楽な調子で応える。
「そうだな。それに、他にも茶菓子を用意してくれている人間が居るのだ。あまり悩まんでも良かろう」
 淵はカルキノスに同調する。
「まあ、そうだな」
 二人の言葉に、ダリルはようやく得心がいったように頷いた。
「ダリルも納得したみたいだし。さあ、もうしばらくは準備みたいだから、こっちで座って待っててくれるかな?」
 カフェテリアの端へと誘導するルカルカ。
 そのルカルカに、ダイアが申し訳なさそうに声を掛けた。
「ただ待っているだけじゃ、私たちも申し訳ないです。何か手伝えることはありませんか?」
 ピタリと足を止めると、ルカルカは考えを巡らせた。
「うーん、そうだね……――」



 少しずつ賑やかさを増していく、蒼空学園のカフェテリア。
 稀に、風が小さな桜の花弁を会場内に落としていく。
 そんな、穏やかかつ笑顔の満ちる空間では、皆の絆がきっと深まることだろう。
 誰もがその予感を胸に抱き始めていた――。