リアクション
模擬戦闘 『続いては、模擬戦が行われます。今回はバトルロイヤルとなっておりますので、乱戦が想定されています。ですが、その前に、パワードスーツのパフォーマンスをお楽しみください』 シャレード・ムーンのアナウンスが、会場に響き渡った。 「さあさ、みなさん、出番ですよ。頑張ってください」 フィアーカー・バルのパワードスーツ輸送車両の中から、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が各車両に指示を出した。 フィアーカー・バル、リトルシルフィード、クラッシャーズの輸送車両のコンテナが次々に開き、中から合計七機のパワードスーツが飛び出してくる。 「いってらっしゃーい」 留守番のメフォスト・フィレス(めふぉすと・ふぃれす)が、リトルシルフィードの輸送車両の中から、メインである鳴神裁(物部九十九)たちに告げた。 『では皆様方、模擬戦前の余興として鳴神裁とPSラインダンサーズの華麗なる舞をお楽しみください』 クラッシャーズの輸送車両の設備を使って猿渡 雉秋(さわたり・ちあき)のアナウンスが周囲に響き渡った。 空中に飛び出したパワードスーツが、中でドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を纏った鳴神 裁(なるかみ・さい)(物部 九十九(もののべ・つくも))を中心にして、乱舞しながら地上に着地した。それぞれのパワードスーツは、ど派手な羽根の頭飾りと、色きらびやかなスカートを腰につけている。 『ボクたち、PSラインダンサーズ!』 一列にならんだパワードスーツの中央で鳴神裁(物部九十九)が高らかに名乗りをあげた。そのパワードスーツは他の機体とは違って、鳴神裁の持っているイコンシルフィードを小型化したようなデザインをしている。 なにか、演出や衣装を考えた魯粛子敬が思いっきり間違いをしでかしているようだが……。 軽快な音楽の流れる中、七機のパワードスーツが、一列にならんだり、複雑に位置を入れ換えたり宙を飛んだりしてラインダンスを披露していった。 「これで、少しは教導団のパワードスーツにも平和利用の方法があるんだって分かってもらえたら幸いだぜ」 重厚なパワードスーツでの軽快な踊りという、血反吐を吐くような訓練の日々を思い出しながらトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が言った。 「ああ、こんな使い方もできるっとことを、観客の目に焼きつけてやるぜ。残念なのは、この男前が装甲に隠れて観客の目に映らねえってことだな」 軽々とミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)のパワードスーツを肩の上に持ちあげながらテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が言った。 「……」 これでアピールできるならと思ってはいるものの、何か間違っている気がしてしようがないミカエラ・ウォーレンシュタットであった。だが、他の教導団員から練習のときに後ろ指をさされながらも会得したダンスを無駄に終わらせるわけにはいかなかった。 「ここだ、ここが決め所だぞ。みんな、かけ声だ。ヤッ!!」 「ヤッ!!」 猿渡 剛利(さわたり・たけとし)に声をかけられて、黒墨 弥助(くろすみ・やすけ)が素直に声を合わせて決めポーズを作る。 「いいぞいいぞ、見よ、この華麗なるダンスを。こうしてアピールすれば、いつか未来におけるパワードスーツの不遇な扱いも変化するってものだぜ」 のりのりで、三船 甲斐(みふね・かい)もポーズをとってぴったりと息を合わせた。 「こ、これも、パワードスーツの新たなニーズなのか……」 中継された映像を見つめながら、伯慶がちょっと絶句していた。 PSラインダンサーズが踊りを披露する中、模擬戦に参加するイコンたちが次々と演習場に進入してくる。 「各校のエース級パイロットの腕前、分析させてもらうよ」 演習場近くの観覧席で、平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)が入場してくるイコンたちをじっと見つめていた。 先頭を切って現れたのは、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)とエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の乗るシュヴァルツ・zweiだ。ジェファルコンをカスタマイズした漆黒の機体で、均整のとれたスリムな装甲騎士を思わせる。両肩のフローターから広がる光条はやや不安定で、赤い羽根毛のように柔らかく広がっている。ビームサーベルとソードブレーカーの二刀流は、実体剣の戦いでは侮れないだろう。 『頑張ってくださいよ。私の本体をイコンのメモリに組み込んでいるんですから、少なくともコックピット内の魔法防御ぐらいはあがっているはずですからうまくやってください』 ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)が、サポートナビとして外部からグラキエス・エンドロアに通信を入れてきた。 本来であれば、ロア・キープセイクも一緒にイコンに乗りたかったのだが、残念ながらシュヴァルツ・zweiは二人乗りだ。せめてもと、自分の本体であるメモリカードをイコンに搭載させている。イコン自体の性能にはなんの寄与もできないだろうが、コックピットにいるグラキエス・エンドロアを多少は守る力はあるだろう。本来は、元のメモリカードに戻って一緒に行きたいところだが、いったん人間体となってしまった魔道書は、本体とは同一の存在でありながらすでに別個体でもある。元の魔道書の形に戻ることはできなかった。 続いてソニックウェーブを轟かせて戦闘予定域に入ってきたのが柊 真司(ひいらぎ・しんじ)とヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の乗るゼノガイストだ。こちらもジェファルコンをベースとした機体だが、より重装甲でがっしりとしたシルエットとなっている。両肩にはビームシールドを装備して、守りも堅い。スラスターは背部に回してエネルギーウイングは通常は低出力で展開している。武器も、大型のビームサーベルと銃剣つきビームアサルトライフルと火力も申し分ない。 『――模擬戦といえども、戦いだ。勝ちに行くぞ』 『――もちろんです』 情報伝達の速さと秘匿性を重視して、柊真司とヴェルリア・アルカトルが精神感応で意志を交わした。二人共パイロットスーツに身をつつみ、模擬戦とはいえ実戦の身構えだった。 三番手は、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)と織田信長の乗る六天魔王だ。 腕を組み、マントをはためかせながら、嵐の儀式につつまれた六天魔王がゆっくりと宙を進んでいく。 ヴァラヌス鹵獲型を二足歩行の人形に改造するという無茶なカスタマイズをしている割りには、比較的バランスがとれている機体だ。 「今回、信長がいつも舞っている舞のモーションを攻撃パターンに取り入れてみたんだが……」 「ほう、それは面白いことを考えたものだ。舞こそは、静にして動、動にして静。攻防へのつなぎ目のない流れるような動きが可能なはず。自分に合った新型イコンをと思っておったが、案外と答えは近くにあるのかもしれぬな」 桜葉忍の言葉に、織田信長がいたく興味を示した。 「とにかく、今回それを確かめてみよう」 自分の組んだパターンデータを信じて、桜葉忍が言った。 さて、もう一機いるはずなのであるが……。 ふいに、演習場の中央にイコンが現れた。 遮蔽を解いたアペイリアー・ヘーリオスだ。パイロットは、無限 大吾(むげん・だいご)と西表 アリカ(いりおもて・ありか)である。 プラヴァー・ステルスをベースとした機体の遮蔽機能は他のイコンにとって大きな脅威だ。 重装甲に被われた機体にはプラヴァーの面影はまったくない。遮蔽フィールドを解除したばかりの機体は、インテークやフィンを開放し、エネルギーバイパスを再構築させているところだった。遮蔽時の推力低下を補っていた両肩のウイングスラスターが閉じて、本来のスラスターに役割をバトンタッチしている。 多彩な武器を搭載した機体は、オールラウンドに活躍できる物であった。 「各部、異常ないな」 「各種武装OK、ウイングスラスター出力問題なし、レーダー正常に稼働中、システムオールグリーン。うん、いつでも行けるよ!」 無限大吾に聞かれて、西表アリカが元気よく答えた。 「性能は申し分なし。後は、俺たちがそれを使いこなせるか……だな。バトルロイヤルだ、油断したら一撃でもってかれるぞ」 「分かってるって!」 無限大吾の言葉に、西表アリカがちっちゃな胸を張った。 最後に残るのは……物部九十九に憑依された鳴神裁がドール・ゴールドを着たまま乗っているリトルシルフィードのパワードスーツだ。だが、たった一機のパワードスーツで巨大なイコン同士のバトルロイヤルに混ざろうというのは無謀ではないのだろうか。 『なるべくここからサポートはするから頑張るのだよ』 「うん、勝機ならあるよ♪」 メフォスト・フィレスの言葉に、自信満々で鳴神裁(物部九十九)が答えた。 |
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