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第一章 城へと至る世界

 「ここで仕事だ」
「うえ!?みんなの前で寝るの!!」
「アニス、来る前に説明しただろ」
「ぅ〜……聞いてない」
 頬を膨らませアニス・パラス(あにす・ぱらす)が抗議する……が、佐野 和輝(さの・かずき)はお構いなしにみんなの中へと入っていく。
「ぅ〜、そうだ」
 閃いた様に手を叩く。
「和輝にそこに座って?」
 トントンと床を叩き、場所を示す。
「? これで良いか?」
 「……とう♪」
 和輝の脚の間にするりとアニスの小さな身体を滑り込ませる。
「にひひ〜♪ここなら安心して寝れるよ〜♪」
「全く……」

 杜守 柚(ともり・ゆず)がふと傍らの海に尋ねた。
「海くんって異世界好きなの?」
「……」
 柚の質問に海は言葉を失っていた。
「……誰に聞いた?」
「涼司さんが言ってたけど……」
 顔に手を当てて、急に疲れた顔になっている。
「柚、あの人の言う事は信じなくていいからな」
「わ、わかった……」

 「あ、それと……海くんも優しいから協力してくれますよね?」
「あ、ああ……」
「柚、笑顔が怖いよ……」
 傍にいる杜守 三月(ともり・みつき)が顔に手を当てていた。

 「まあ、それはそれとして……」
「海、一緒に寝ようよ!柚もそれで良いよね?」
「ああ……オレは構わないが――」
 ちらりと傍らの柚を見やる。
「え/ / / ……あ……うん。わ、私も良いよ……」
「じゃ、決まりだね!あっちが空いてるから其処にしよう」

 「お待たせ」
 火村 加夜(ひむら・かや)がこっちだよと涼司に手を振った。
「悪いな、わざわざ来てもらって」
「ううん、良いの」
 「ヤッホー、涼司」
「ルカさん、ダリルさん」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が此方に向かってヒラヒラと手を振っている。
「涼司が現場に出てくるのって久しぶりよね」
「まあな……」
 少し照れた様子で髪をクシャッとかき上げた。
「待ってるのに飽きた?それともロマンを求めて?……あ、火村さんと寝たかったのか」
 口に手を当てて、ルカは嬉々と笑う。
「ば、ち、違う!」
「 / / / / 」
 慌てふためく涼司に、
「きゃー涼司が赤くなってる♪」
 加夜は顔を赤くし、耐えられず明後日の方へ顔を逸らした。
「その表現はどう見ても誤解を生むぞ」
 呆れた様子でダリルは肩を竦める。相変わらずクールだ。

 一通り弄って満足したのか、
 「じゃ、ルカ達はもう寝るね!」
 さらりと ルカ達は体育館の端っこへと向かっていく。
「はい、向こうで会いましょう」

 「わ、私達も……」
 先程の余韻があるのか、少し恥ずかしそうに加夜が告げた。
「あ、ああ……」

 現実世界の残留組の赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)クコ・赤嶺(くこ・あかみね)は皆と少し離れた位置から彼らが眠りに付くの見ていた。
「どうだ?」
 壁にもたれ掛かった霜月は声の主へと振り向き、少し驚いた顔を見せた。
「涼司さん」
「疲れる方で悪いな」
「慣れているから大丈夫よ」
 クコがヒョコッと霜月の隣から顔を出した。
「ええ」
 そう言って霜月は苦笑する。
「涼司さんは寝なくて良いんですか?」
「もう寝るさ」
 もたれていた壁から背を離し、元居た場所へ戻っていった。
「……良い夢だと願ってます」
「ああ」

 「悪い、待たせたな」
「良いよ……」
 加夜の隣に涼司はそっと座った。
「お休み……」
 頭が触れそうな程、肩を寄せ合い目を閉じた。
「ああ、お休み……」

「カッパー」
「こら、邪魔しちゃ駄目だよ」
 『ティータイム』を使い、鬼龍院 画太郎(きりゅういん・がたろう)がお茶を霜月達に入れて来てくれていた。
「あ、あの……ご、ごめんなさい」
 顔を紅くさせてネーブル・スノーレイン(ねーぶる・すのーれいん)が霜月の元に駆けてきた。

 画太郎の行動に面食らったが、直ぐに笑顔になる。
「……ありがとう」
「美味しく頂くわ」
「カッパー!」
 ペコッとネーブルは頭を下げる。
「えっと……身体を宜しくお願いします」
「早く寝てあげなさい。みんな待ってるわ」
「は、はい」
「ほら、私達も早く寝よ!」
「カッパ」
 画太郎の手を取ると、体育館の端のほうへ静かに走り出す。

 「先生みたいね」
 ポツリとクコが呟いた。
「修学旅行の?」
「ええ、勝手に出て行かないように生徒達を見張ってるの」
 眠りにつく参加者を見守る様はどう見ても、修学旅行の先生だった。
「そうだね」

「私たちも寝る?」
「涼司さんたちが帰ってきたらね」