校長室
ぶらり途中テロの旅
リアクション公開中!
終章 無事に終結を迎え、運行を再開した蒸気機関車。 煙を吐き出し、野を越え山を越え、たどり着くその先まで。 列車はもう止まることはないだろう。 五号車のプールも、貸切から開放へと変わっていた。 「一流の女は、一流の場所が似合うものよ」 「懸賞が当たったくらいでどや顔しないの」 そう言って乗り込んだのはもう何時間前だったか。 今ではプールサイドのデッキチェアで寛いでいる二人の女性。 トレードマークの水着。セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。 ちょっとだけセレブ感を出したのか、今年の新作である。 「あーあ、途中まではいい感じで勝ってたのに……」 「調子に乗るからよ」 今し方まで楽しんでいたカジノ。 神様の恩恵でも受けたのか、バカラ、スロット、ルーレットと連戦連勝していたセレンフィリティ。しかし、ポーカーに手を出したのが運の尽き。 心理戦に負けず嫌いは不適。当然の様に負けが嵩む。 「でも、セレアナが居てくれて助かったわ」 冷戦沈着、一切表情を読ませず、着実に勝ちを重ね、負けを取り返してくれたセレアナ。 「身包み剥がされなかっただけましよね」 纏うは水着のみ。これ以上剥がされては堪ったものではない。 「まったく、セレンフィリティは……」 今回は何とかなったから良かったけれど、一歩間違えれば恥ずかしい思いをしていた二人。 「機会があれば、またやってみたいわ」 それでも懲りずに、次を示唆する。 こうなった恋人を止める手立てなど、セレアナは持ち合わせていない。 それなら、別方向から攻めてみる。 止めさせるのではなく、勝たせるほうへと。 手に持つカクテルを一口啜り、アドバイスを授ける。 「勝負事はね、熱くなりすぎたら負けよ」 俄かに先程の事件香る台詞だった。 「えー先程見えましたのが、巨大機晶姫です。とても大きかったですね。続きましては前方をご覧ください。あら可愛い、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)ちゃんでございます。なんちゃって♪」 外で起きた騒動などには動じず、ツアーガイドをしている詩穂。 「特別限定販売の【妖精スイーツ】。どうぞ、お買い求めください」 車内販売も兼ねていた。 「あ、ゲルバッキーちゃん」 (詩穂か) ガイドもいつのまにか六号車。旅も終わりが近いのかもしれない。 「そうだ、詩穂ちゃん特製の『ブッシュ・ド・ノエル』を味見して貰えません?」 お土産として販売するつもりのそれは詩穂の手作り。 機関車型に作られ、この旅の思い出には最適だと思う。 (ほう、旨そうだ) 「頑張ったもん!」 胸を張る。 (…………) 「うぅ、そんな悲しい目で見ないでよね……」 (……それはいいとして、問題は味だな) 一口噛み付く。 (ふむ、中々いける) 「よかった! これって、販売しても大丈夫だよね?」 ゲルバッキーのお墨付きを貰うことができた詩穂。早速車内販売に加える。 「詩穂ちゃん特製、お土産に最適な『ブッシュ・ド・ノエル』。どうぞ、お買い求めください!」 「一つくださーい!」 「はーい!」 直に掛かる声。幸先の良いスタートだ。 (私も残りを頂こう) 二口目を食べようとした矢先、 「もふもふがいっぱい! ここは天国だよ!」 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が抱きついてくる。 (ぬげふぅ!?) 抗議の声も馬耳東風。 「ああふわふわー気持ちいいー」 もふもふスキー。幸せな顔で毛並みに顔をうずめるレキ。 「あ、それって、もしかしてご飯中だったのかな?」 傍らに置いてあった食べかけのケーキを発見。 (試食で貰ったのである) 「そっか。それなら、ボクが食べさせてあげる!」 ケーキを一口分手に取ると「あーん」と差し出す。 (はいはい、少しっくらいモフったくらいでもう恋人気取りですか、あるある) と言いつつ口を開くゲルバッキー。 「たんとお食べてね」 はぐはぐ、咀嚼する。 (二人はもうラブラブってヤツですねー) どう見てもペットに餌をあげる光景にしか見えないが、本人がそう思っているならよしとしよう。 そこに、「あれ? ここってペット車両じゃない?」と、疑問を口にしながら歩いていきた雲入 弥狐(くもいり・みこ)。隣には西村 鈴(にしむら・りん)も一緒に居る。 「ペットがたくさんじゃん!」 「もしかして、あたしってペット扱いなのかな?」 鈴に聞いてみるが、目は動物達に釘付け。 「あぁ……ネコにイヌに、アルパ、アルパカっ!?」 違和感を覚えた鈴。 「ペットよね、ペット。うん、そう、ペッ……ト?」 (ここにはペット以外の動物もいる) レキにまた抱きつかれたゲルバッキーが答える。 「あ、そういうことね。でも、アルパカとは……」 視線を向けると、その円らな瞳に吸い込まれていく。 「あぁ、ダメ、目が、離せないじゃん……」 動けなくなる鈴。対して弥狐は、 「ふかふかのイヌだー!」 レキと同じくゲルバッキーに抱きついていた。 (……これがモテキか) 「可愛いなぁ……うーん、ねぇ、ネコは?」 ようやくアルパカに解放された鈴は奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)の飼っている猫を探した。 「ここにいるのだけど……この子達も馴染めるかしら? 少し心配だわ……」 二匹の猫を抱え、佇んでいる沙夢。 「それに、名前もまだないからどう呼ぼうかしら……」 これだけペットが多いと、名前がないと困ってしまう。 好奇心旺盛な黒いネコと甘えん坊の薄紫色のネコ。未だ無名の二匹。 (私が名を与えよう) 「あなた、喋れるの?」 (テレパシーでな) ゲルバッキーは二匹の猫を見て、 (黒い方が『タッカ』、薄紫が『プリム』) 由来は黒いタッカ・シャントリエリと紫のプリムラから。何気に花にも詳しいゲルバッキー。 (ここでボケないこの感じ。どう?) 「ボクは良い名前だと思うよ!」 賛成するレキは二匹の猫を撫でる。 「いい名前じゃん」 「あたしもそう思うよ!」 鈴と弥狐も同意見。 「うん、そうね……それじゃあ、あなた達は今日から『タッカ』と『プリム』ね」 にゃーと鳴くタッカとプリム。 その時、弥弧はあるものを見つけた。 「わあ、大きなペットがいる!」 指差すのはチムチム・リー(ちむちむ・りー)。ふかふかの巨体。 「チムチムはゆる族であってペットじゃないアルよ!」 「そうなの?」 「もふもふなのは否定しないアルが」 「私のパートナーだよ」 もふるレキ。 「あたしも、もふもふしていい?」 「いいよ!」 「やったー!」 もふる弥弧。 「チムチム、役に立つアル」 無邪気な笑顔に囲まれるチムチム。本人もまた、笑顔に癒されている。 「そういえば、さっきのアルパカは?」 先程まで鈴と視線を交わしていたアルパカの標的は、麗華・リンクス(れいか・りんくす)へと変わっていた。 「もしかして、これが恋という物……な訳は無いか」 (麗華か) 「クソ親父か。色々聞きたいことがあるが、今はまあいい」 昂る感情を抑え、 「問題はお嬢なのだ」 (優希?) 「そうだ」 話題に上がった六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)。視線を巡らせば、直に見つけることが出来た。 「もふもふが一杯です。次は誰をもふもふしましょう?」 (ほう、優希はあの騒動を取材に行っていないのか?) 「その通りだ。どうやら、五月病にかかってしまったらしいのだ」 機晶姫たちと同じ五月病。そちらは既に解決されたのだが、優希は未だ五月病状態。 「こんな事ではいつまで経っても二流止まりなのだが……」 (私にどうしろという?) 「お嬢のもふもふ相手になるんだ」 つまりは楽しませて解消させてくれと言うことらしい。 (仕方あるまい。娘の頼みを聞くは父の務め) 「恩に着る。ただし、礼をするのは今回だけだ」 (反抗期の娘さんを持つお父さんは大変よねー) 「イラっとくる……」 優希の元へ歩いていくゲルバッキー。 「あれ? ゲルバッキーらしき犬さんが居ますけど……この時期にこんな所に居る訳が無いですよね」 自問自答の自己解決。 「飼い主の方は見かけませんが、毛並みもいいし、可愛いし……思いっきりもふもふしますっ!」 言葉にした通り、思いっきり抱きつく。 「ぎゅーっ!」 (ぐぅっ!?) 勢い余って力を入れすぎている。しかし、ゲルバッキーは抗議の声を上げることが出来なかった。 「もふもふー、気持ちいいー」 顔をぐりぐりお腹に擦り付ける優希。 (ぎゃぅ!?) 「エネルギー充電中ですー」 なぜなら、締め付ける力が強すぎたから。 (う、きゅう……) 「あれ? 寝ちゃいましたね」 本当は伸びたのだが、優希は気にしない。 「私も眠くなってきちゃいました……ふあぁ」 欠伸を手で押さえ、 「起きたらお仕事に行きます。そうします。ええ、絶対」 ゲルバッキーを枕に。 「私は夢の世界に旅立ちます」 すやすやと寝息を立て始める。 「おやすみなさい」 終点のヴァイシャリーまであと少し。 良い旅を!
▼担当マスター
Airy
▼マスターコメント
公開が遅れてしまい、誠に申し訳ございません。 ご無沙汰しております。 ゲームマスターのAiryです。 シナリオ『ぶらり途中テロの旅』にご参加頂きありがとうございます。 いかがだったでしょうか? ほのぼのした中に起きた騒動。 いつものAiryですね、すいません。 参加していただいた方、読んでいただいた方に楽しんで貰えれば幸いです。 それでは短いですがこの辺で。 またお会いできることを願って。 Airy