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リアクション
●朝野姉妹の、とある一日。
朝野 未沙(あさの・みさ)の朝は早い。
まだ朝日も昇る前、辺りが薄暗いうちからベッドを抜け出す。
「ほら、美羅、未那、起きて起きて!」
真っ先にやらなければならないのは、二人の妹達を起こすこと。
「むにゃ……あ、お、おはようなの」
朝野 未羅(あさの・みら)の方は一声掛ければ目を覚ます。まだ眠たそうだけれど、起きなければ、という意識は見て取れるのでそんなに心配しない。
けれどもう一人、未那の方はというと。
「んー……むにゃ……んー……」
朝は弱いらしい。どうにも目を覚まさない。
「ほら未那ちゃん、朝のおつとめの時間だよ!」
起きて起きて、と未沙に揺さぶられ、ようやくうっすら目を開ける。
「んー……あ、おはよう……姉さん」
「さ、ほら、お掃除お掃除!」
未沙の音頭で漸く起き出してきた朝野 未那(あさの・みな)は、ふぁー、と大きなあくびを一つ。
それから、先に起き出していた二人に続いて、お揃いのメイド服に袖を通す。
朝野姉妹、ただいまメイド修行中。
メイド修行の為、ハウスキーピングをすることを条件に、あるお屋敷に下宿させて貰っている三人は、朝から掃除に、朝食の支度にと大忙しだ。
掃除は手早く、抜かりなく。朝は玄関周りを中心に、埃を払い、屋敷が今日も一日美しくあるよう磨きを掛ける。
掃除が終われば朝食の支度が待っている。屋敷に住む主人達の分と、自分たちの分と、結構な量だ。
メニューはトーストとハムエッグ、トマトサラダにミルクを添えて。前日のメニューや今夜予定しているメニューとの兼ね合いも考えて、栄養バランスにもこだわっている。
家人たちの朝食の給仕を済ませてから、やっと自分たちの朝食だ。
それから大急ぎで制服に着替えると、三人は小型飛空艇に乗り込んで学校へと向かう。
普段は蒼空学園に在籍している三人だが、現在は機晶技術や空戦について学ぶため、シャンバラ教導団へ一時的に籍を置いている。
メイド修行中、ではあるけれど、本業は学生だ。学業を疎かにすることはできない。
三人はそれぞれに、座学や実習など、今日の時間割とまじめに向き合う。
放課後は落ち合って、一緒に帰る事が多い。夕飯の買い出しもしなくてはならないし。
屋敷近くのマーケットに立ち寄って買い物を済ませると、いよいよ三人は忙しくなる。
「さ、まずはお掃除から!」
きゅ、とメイド服のエプロンを腰に結ぶと、未沙は掃除用具一式片手にいくつもある部屋を回る。
未那と手分けして、個人の部屋やお風呂など、朝は掃除しなかった箇所を念入りに。ついでに、各部屋のベッドメイクも済ませてしまう。
その間に、美羅は洗濯機を回している。
学校が遠いこともあって、朝の時間はあまりあれこれ仕事が出来ない。だから自然、帰宅してからの仕事量が多くなる。
「うーん、お洗濯も楽じゃ無いですねぇ」
家人の分と、自分たちの分、洗濯物も結構な量だ。二回目の洗濯機を回して、やっとの事で干し終えた頃にはもう夕飯の支度が始まっている。
三人で分担して、主菜、副菜、汁物……と手早く支度を整える。勿論、テーブルクロスは真っ白に、シルバーはぴかぴかに、テーブルに飾るお花も新鮮なものを。
お支度が調いました、と家人達を呼びに行き、静々と給仕を行う。
そして、家人の食事が終わった後、自分たちの食事と、その後片付け。
そこまで済ませて、やっとのことで自由時間だ。
「うーん、今日も疲れたぁ」
メイド服を脱いで、シワを伸ばしてハンガーへ。大きく伸びをして、部屋着に着替えた。
それから、未沙は教科書を開いて今日の復習。その間に美羅はお風呂。
いち早くお風呂を済ませた未那は、いそいそとベッドに潜り込んでいる。
最後にお風呂に入った未沙が上がってくる頃には、屋敷はすっかり寝静まっていた。
「おやすみなさーい」
先に寝息を立てていた妹達にそっと声を掛け、未沙は布団に潜り込む。
明日もまた、日が昇る前に起きるのだ。
朝ご飯は何にしよう、そんなことを考えながら、未沙はそっと目を閉じた。