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今年もアツい夏の予感

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今年もアツい夏の予感
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リアクション

 さてその頃……。
「はーやれやれ……何だって掃除しなきぇいけねぇんだか。ま、フレイがやりてぇっつーのならいいけどさ……」
 葦原明倫館からやってきたベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は、悪態をつきながらも真面目に掃除に取り組んでおりました。彼は大切なパートナーであるフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の付き添いでやってきたのですが、いつの間にか巻き込まれ、率先してプールの底を磨き始めていました。
「尖った物が落ちているかもしれないから、足元に気をつけろよ。変な虫もまだ潜んでいるかもしれないし、ビーチサンダルじゃ心もとないよな」
「うわぁ……、ほらほら、見てください。虹が出来ましたよ……!」
 ベルクの心配をよそに、フレンディスはホースから水を撒き散らしその光景をしばし楽しんでいるようでした。いつでも天然鈍感世間知らずのポヤポヤ忍者の彼女は、ホースの先を指でつまむと水の勢いが増してピューッと吹き出るのが面白くなったらしく、口をベルクの方に向けてきます。
「うわっ、ちょ……お前、こっちに向けるな! ……まあ、俺はいいが、水が自分にかかったら衣装スケスケになるぞ、……いいのか……? というか、むしろやれ」
 ベルクは飛んでくる水をかわしながら、ニヤリと口元に笑みを浮かべます。
 羞恥心が強く、人前……特に殿方の前に肌を晒したくないフレンディスは、水着の上からパーカーを纏い下にはパレオという姿なのですが、水を自分からかぶってしまったりしたら、そんな気遣いも台無しになります。肌が露わになるわけではありませんが、濡れてスケスケのピチピチになった美少女の姿は、ある意味肌見せよりもエロっぽいかもしれません。
「はっ……、そうでした! 遊んでいる場合ではなくて、お掃除を頑張らなくてはいけませんでしたね」
 すぐに我に返ってデッキブラシを手に真面目に掃除を始めるフレンディス。ベルクはちょっとだけ、チッと舌打ちをしてしまいます。惜しかったです、口は災いの元(?)。言わなければいいシーンが見れたかもしれませんが……。
「本当に……今日は良い天気で大変掃除日和ですね。皆様に喜んで使って頂けるよう精一杯綺麗にしたいものです。皆様にもご協力して頂けて、そしてその一員として協力できて私、嬉しいです」
 フレンディスはプール掃除を重労働だとは思わずに、皆と一緒に力を合わせて楽しむイベントとして取り組んでいる様子です。青空の下、日の光をいっぱいに浴び表情は生き生きしています。
 そこへ……。
「……」
 あまりのベタさにベルクは思わず半眼でスルーしてしまいましたが、そんなフレンディスの背後から見知った顔がこっそりと近づいてくるのがわかりました。両手をわきわきさせながらフレンディスの胸を狙って忍び寄ってくるのは、林田樹のパートナーの一人、新谷 衛(しんたに・まもる)です。彼女はいい胸を狙って女の子を物色していたのですが、こちらに気づいてやってきたのです。
「おぱーい、おぱーい!」
「きゃああああああっっ!?」
 衛に背後から胸をわしづかみにされたフレンディスは悲鳴を上げます。羞恥による錯乱で涙目のまま硬直し呆然と立ちつくしてしまいます。
「はいはい、ナイスおぱーい!」
「ぎゃああっっ、痛い痛い! 頭割れるって……!」
 ベルクはギリギリと衛の頭を力任せに握り、フレンディスから引き剥がします。ううう……、と胸を両腕で隠しながら涙目のまま睨みつけるフレンディス。
 ですが、その程度で懲りるような衛ではありません。すぐさま、隣で黙々と作業を続けていたレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)に狙いをつけて寄っていきます。
「おぱーい、おぱーい!」
「……おお、衛ではないか。貴様も掃除にやってきていたのか。それにあれは……?」
 衛に胸をまともに揉まれたレティシアはようやく気づいたように、顔を向けてきます。彼女は、動きに支障が無いという理由でシンプルな白いビキニ姿を惜しげもなく晒しながらプール掃除に協力していました。スタイルもなかなかのものですが全く周囲の目を気にした様子はありません。
「ふむ……、林田一家は全員揃っているようだな」
 視線を移すと、さらに向こうから緒方 太壱(おがた・たいち)も手をぶんぶんと振り回しながら駆け寄ってくるのがわかりました。
「おーい、フレンディス〜! 俺だ〜! コレも何かの縁だ、プール掃除が終わったら一発ヤら……」
 そんな台詞も途中のまま、太壱はカキーンというジャストミートの快音とともに、場外へ消えていき星になりました。
「やりました、サヨナラホームランです」
 球ではなくドタマへの直撃で特大アーチを放ったのは、衛や太壱とともに林田樹のパートナーの一人であるジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)でした。演出効果とは言え、あの打撃では、本当に人生にサヨナラしていそうなサヨナラホームランでしたが、まあ大丈夫でしょう、きっと……。
 ジーナは、林田樹とともに【ハウスキーパー】のスキルで真面目にプール掃除してしたのですが、二人の姿が見えなくなったので探しにきたのです。
「ああああ……、太壱さんが……」
 あんまりな予想外の展開に、フレンディスは目をぱちくりさせたまま絶句していしまいました。
「ふむ、戦う相手が一人消えたな。手合わせはまた次の機会にしよう」
 レティシアは興味を失った様子で言って、まだ胸を揉み続けている衛に声をかけます。
「……それで、満足か?」
 それは、精神にダメージを与えるに充分なくらいに冷え切った言葉でしたが、脳みそと神経が残念な衛は全く通じずむしろ褒められたかのように満足げな笑みを浮かべます。
「これはいいおぱーい! 見目麗しいおねえっさ〜ん! 今すぐオレ様とお茶しな」
「こーのーばーかーたーれーっ!」
 第二打席目のジーナは野球バットで衛を撲殺しにかかります。
「その胸に対する執着はワタシへの当てつけかっ、当てつけかぁ〜っ! ナンパしやがってないで、とっとと掃除なさ〜いっ!」
「ああああ……ジーナさんっ、衛さん動かなくなってるんですけど……」
 オロオロと止めるフレンディスに、何も問題のないかのごとくジーナはいい笑顔を浮かべます。
「燃えないゴミを片付けただけです。お掃除、楽しいですわね……」
「はい……。私も頑張ります!」
 ジーナの笑顔に、フレンディスはすぐに気を取り直して微笑み返しました。
「いてて……、なんか川を渡って向こう側へ行った気がする」
 場外へ消えたはずの太壱がどこからともなく戻ってきます。
「ほらほら、見てください。虹が出来るのですよ」
 フレンディスは思い出したように、もう一度ホースで水を撒き散らし始めます。
「……むう、やったな。これでもくらえ!」
 正面から水をかぶったレティシアが、もう一本のホースで今度はフレンディスに向けて水をかけ始めます。
「うわっ、冷たいです! ですが……ふふ、負けませんよ!」
 フレンディスとレティシアは太壱やジーナを巻き込んで水かけ合戦を始めてしまいました。
「まあ、スケスケになっていいなら、それでいいんだけどよ……」
 ベルクは突っ込みますが、もはやその台詞は誰も聞いていません。彼女らがしばし遊び始めたので、ベルクは仕方なく一人掃除を続けます。そんな彼に、ぷぷぷっと笑い声が聞えてきます。
「ねぇねぇ、今どんな気持ちですかー? エロ吸血鬼、思いっきりハブられていますけど、どんな気持ちですかー、ねぇねぇ……ぷぷぷっ」
 含み笑いをもらしたのは、水遊びが好きなのかプールサイドで可愛く尻尾振って待機していたフレンディスのパートナーの忍犬、忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)です。彼はフレンディスの前では、行儀のよい忠犬なのですが、幸い今彼女はこちらを見ていません。一人プール掃除をすることになったベルクを見下した表情で偉そうに言います。
「ふふん……エロ吸血鬼が、ざまぁ。この僕のためにいっぱい働くといいですよ」
「……なあ、俺って普通に握力だけで缶コーヒー中身ごと縦に握りつぶせるんだが、信じるか……?」
「ぎゃあああっっ、痛い痛い! 頭割れますって!」
 ベルクに頭をガシリと掴まれたポチの助は、何とか逃れようと暴れ始めます。
「迷惑だから、少し大人しくしてろ……」
 腹いせも兼ねてベルクはポイっと豆柴をプールの中へと放り込みます。
「下等生物の癖に生意気だぞー! どちらが上位の存在か、その身をもって教えてやる!」
 怒ったポチの助が突進してきました。それを余裕の表情で迎え撃つベルク。あっという間に戦闘が始まります。

 そう言うわけで、特にハプニングもなく、掃除は行われているのでありました。



「はぁ〜、まったり……」
 羽切 緋菜(はぎり・ひな)は、またプールサイドでお茶を飲んでいました。
「緋菜さん、さっきから働いている場面が少しもないんですけど?」
 パートナーの羽切 碧葉(はぎり・あおば)が注意をしにやってきます。
「私が働かないことで、他の誰かが働くことができる。それって素敵な世界だと思わない?」
 のほほんと眠そうな目で眺めながら緋菜はプールを指差します。
 プールにはすでにすごい数の労働力が投入されているのでした。
「まさか、金属の兵士たちまでプールに入れるとは思わんかったわ」
 ワンピース水着の上からパーカーを羽織った姿の奏輝 優奈(かなて・ゆうな)は『メカ優奈隊』に『特戦隊』、『兵長・スサノオ』といった手下たちを大勢引き連れて、掃除にやってきていたのでした。全員に掃除用具を備えさせ数にものを言わせる人海戦術で、早く掃除を終えようとしていました。
 優奈自身もスキル『両手装備』に『ゴッドスピード』で、いつもの倍の早さです(?)。
「高速掃除や。……ん?」
 そんな倍速(?)優奈のすぐ脇をすごい速さで過ぎていく人影がありました。
「あほな……。赤くないのに三倍速やて……?」
 優奈が目を丸くするのも無理はありません。その少女、蒼空学園生の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は腕時計型加速装置の『アクセルギア』を身につけて掃除しているのでありました。蒼空学園指定のスクール水着姿の美羽は他には何も身につけず健康的な脚線美を惜しげなく披露しています。
「やるやん。そやけど、ほんまの速さいうのは、目盛りだけでは測られへんねんで。しかも兵力(?)ではこっちが上や」
 優奈は面白そうに笑みを浮かべるとサクサク清掃を続けます。
「あら……あなた、この私に勝負を挑む気?」
 優奈に気づいた美羽がさらにペースを上げ、掃除の範囲を広げます。
「ああ……、陣取りしている場合じゃないと思うんだけど」
 美羽に背を向けてはいるものの、ちらちらと視線だけで見ていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が邪魔にならないように片隅に寄りました。彼は、美羽の水着姿がとても気になる様子ですが、とても純情な性格のためまともに見れないようで俯き気味です。
「二人とも元気だな。しかも真っ白な肢体が日の光に輝いて……いやいや、何を言っているんだ僕は……?」
 コハクは邪念を振り払うように首を横に振りながら何とか掃除に専念しようとしています。
「お茶を汲むだけの簡単なお仕事はじめました」
 プールサイドで見ていた緋菜が、休んでいる間に猛烈な勢いで掃除をしていく優奈と美羽にお茶を手渡しています。それを飲みながら作業を続ける二人。
「……いや、マラソンの給水ポイントじゃないんだからさ」
 コハクが小声で突っ込みます。
「そんなところで固まってないで、一緒に掃除しましょうよ、コハク」
 水道のホースを手に美羽がやってきます。放水された水が、日の光にキラキラと輝いています。
「ほらほら、水がこんなに綺麗だよ」
「……美羽の方が綺麗だよ」
「……何か言った?」
「別に」
 コハクがもじもじしていると、美羽は彼の手を引いてプールの中央辺りまで連れて行きます。
「あ、あわわ……大胆過ぎだよ。みんなが見てる……」
「困らないわ」
 美羽は楽しそうに笑いながら、ダンスを踊るようにコハクを連れて掃除をはじめました。
 そんな二人を見つめる優奈の肩に、スサノオがぽんと手を載せます。
「……あほか。うちかて充分に間に合うとるわ」
 そうして、優奈たちはまたキビキビと作業を続けます。
 見てるだけの緋菜の肩に碧葉が微笑みながらぽんと手を載せました。
「……5分後くらいに本気出すから」
 まったりとお茶を飲みながら緋菜は言ったのでした。