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壊れた守護獣

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壊れた守護獣

リアクション

「……やらせはしない」
 武たちに迫った火の鳥たちは『プリザード』によって一蹴された。あまりのできごとに驚きを隠せない武。
「平気か?」
「は、はい。おかげで助かりましたっ」
「敵に背を向けるなよ。あっという間にもっていかれるぞ」
「……すいません。気をつけます」
「だが、先ほどの攻撃は悪くなかった。だから次は任せて、下がっていてくれ」
「は、はいっ」
 武を助けたのはグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)だった。武に一度下がるように言ったのは、自分の攻撃に巻き込まないためだ。
「守護獣……詳細はわからないが俺よりも何倍も強いのだろう。それであっても、己の暴走を止めることができない。なら俺に止められる道理がどこにあるんだ」
 自分の中に宿る狂った魔力。今もグラキエスを蝕み続ける。やがて、グラキエス自身をも蝕んでしまうかもしれない。グラキエスはバーンと自分を重ねて見ていた。
「いつかは、俺もああなるのか……」
 動こうとしないグラキエスにバーンが攻撃をしようとする。それを【小型飛空艇ヴォルケーノ】での爆撃、自身の『弾幕援護』で制するはグラキエスに同行していたウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)だ。
 しかし爆撃では有効なダメージを与えられずバーンから反撃を受ける。それを『サイコキネシス』でギリギリに反らして更に爆撃。
 バーンが多少なりとも防御に回ったところでグラキエスの元へと移動するウルディカ。
「……」
 ウルディカは何も言わない。しかし、言わんとすることを察したグラキエスは口を開ける。
「すまない。だが、どうしても見過ごせなかった。守るべき者たちをその手にかけようとする、この暴走を」
「……話は後だ。こいつを片付ける」
「ああ。だから下がっていてくれ」
「……了解した」
 素直に従うウルディカ。だがその心中は穏やかではなかった。
 ウルディカは気づいたのだ。自分が”グラキエスに力を貸す”より”危険から遠ざけ守られる”立場である、と。あの日のカフェでの約束が、自分では果たせないということに。
(俺では役不足だと言うのか……エンドロア)
 その言葉を、戦いの場に命をかけるグラキエスに問いかけられないウルディカだった。
「行くぞ、ドリー・バーン。これ以上お前を汚させはしない。全力で、行く―――――――!」
 グラキエスの周りが異様なオーラを放ち始める。自身の心身を消耗するかわりに絶大な魔力を供給する【魔力解放】。更に【大帝の目】で死角をなくし、『行動予測』で敵の動向を見逃さない。

―――――クエエエエェェエエ! グエェェェェェェォオオオオッッッ!

 バーンが悲痛の叫びを上げる。グラキエスから発せられる異常な魔力の端々に強い悲しみを感じているのだ。堪らず、叫び続けるバーン。
 その隙をグラキエスは見逃さなかった。『奈落の鎖』をバーンの足に絡みつかせ行動を鈍くさせる。そのままゆっくりとバーンへ近づく。
 行動を狭められたバーンは片方の翼からありったけの火の鳥を飛ばす。
 だが、グラキエスは動じることなく『ブリザード』と『グレイシャルハザード』で撃ち払っていく。そしてバーンの眼前へと立った。
「終わらせる……」
 グラキエスの魔力が更に膨れ上がり、臨界点を突破するところで『クライオクラズム』をバーンに叩き込む。その威力たるや絶大。周りの景色が歪むほどに。
 辺りが静かになる。
「終わったか……せめて安らかに眠ってくれ」
 グラキエスがそう呟いてバーンの元から去ろうとする。が、しかし。

―――――ッッ!!

 声にならない嘶きを上げてバーンが体を立ち上がらせた。あれだけの魔力と強い悲しみをもってしてもバーンを仕留め切れなかったのだ。
「っ! このっ!」
 さすがの事態にグラキエスも対応が遅れる。がむしゃらに炎を纏った嘴で地面を抉るバーン。その攻撃がグラキエスに当たるか当たらないかほどの一瞬。
「……させん!」
 間一髪のところでウルディカが助けに入る。更に、鉄心たちと武たちもグラキエスを守らんと戦線を展開する。
「先ほどの恩、返させて頂きます!」
「援護をすると言ったからな」
 言葉を残して風前の灯のバーンへと向かう。駆けつけた契約者たちも続々とバーンへ向かい攻撃を展開する。最早、バーンに抗う術はない。
「……助かった。ありがとう、ウルディカ」
「……エンドロア。一つだけ言わせてくれ」
「何だ?」
「俺は、守られるだけの立場には甘んじない。だからエンドロア、お前もそう信じてくれ」
「……」
「答えはいい。さあ、最後の一仕事だ。行くぞ」
「……ああ」
 短い会話。だが、二人にとっては何よりも大切な会話だった。

 グラキエスや武、鉄心らの働きにより弱ったバーンを駆けつけた契約者と協力し、ようやく倒すことに成功するのだった。
 だが、一度倒れたはずのバーンがまた体を起こす。その光景はまさに不死鳥を彷彿とさせた。各員が更なる戦闘に備えようとする。しかし事態は思いもがけない方向へと展開する。
『我が名はドリー・バーン。良くぞこの暴走を止めてくれた、礼を言う』
 暴走していたはずのバーンが喋ったのだ。驚く契約者たちを差し置いてバーンは続ける。
『……どうやらタイニーは自我を取り戻したようだが、ドランとタートはまだか。厄介だな』
「や、厄介って何がですか?」
 武が恐る恐る聞いてみる。
『タートは四体の中でも一番弱きに属するが、堅子な守りは随一。旋律にて一時的に弱らせなくてはなるまい。それはまだいい、問題はドランだ』
「ドラン、あの蒼い龍ですか」
『ドランは四体の中で一番強い。私とタイニー、タートが合わさりようやく五分と言うほどに』
「そ、そんな……守護獣三体分の強さをもってるなんて、信じられない」
 武が更なる驚きの表情をしている。無理もない。バーンも十分に強かったのに、更に上がいるのだ。
『人の子たちよ。私もドランの元へと向かい共に戦おう。暴走はタイニーが止めてくれているようだからな。傷ついた体でどこまで戦えるかはわからないが、盾くらいにはなれるだろう』
 守護獣が協力してくれるという思いがけない事態に契約者たちは歓喜する。そして全員でドランの元へと向かうのだった。
『それと、そこな人の子よ』
「……俺か?」
『その迷い、捨てろとは無理難題。我が暴走してしまったのも事実、一概にお前もそうならないとは否定できん』
「……」
『だが、お前と私とで決定的な違いがある。何かわかるか?』
 グラキエスにはわからなかった。暴走していたバーンと自分はまるで同じように思えたからだ。
『答えはすぐ近くにある、ほれ』
「グラキエスさん、早くドランの元へ向かいましょう!」
「さっきの程とは言わないですが、期待していますよ」
「……行くぞ、エンドロア」
 武、鉄平、ウルディカがグラキエスを呼んでいた。
「これが答えなのか?」
『暴走した時、お前を止めてくれるものもいるだろう。お前が私にしてくれたようにな。ならばあるいは助かるやもしれん』
「……」
『なに、一つの可能性だ。じっくり考えてみるがいい。それでは行くぞ』
 飛び立つバーン。少し遅れてグラキエスも走り出す。今はただ、暴走する守護獣たちを守るために。