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壊れた守護獣

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壊れた守護獣

リアクション

「さてさて、パニック状態になる前に片をつけたいところだな。せっかくまとまった住民がバラバラに逃げるなんて冗談じゃないからな」
「ねえねえ? あいつら落雷でビリビリー! ってしていい? していい?」
「どんどんやってやれ。但し、土くれだけにしてくれよ。住民までバリバリされるのは面倒だからな」
「わあい!」
『あまり前に出過ぎじゃだめよ?』
「はあい!」
 臨戦態勢に入ったのは佐野 和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)スノー・クライム(すのー・くらいむ)の三人だ。既にスノーは和樹の魔鎧として纏われていた。
 スノーには纏われた時、装備者の外見性別を逆転させる効果が備わっており、和樹も例外ではなかった。美少女と美女が土くれと相対している姿はどこか異質さを放っている。
「アニスは空からだ。こっちは面攻撃と、数で行く。当ててくれるなよ? ああ、気休めかも知れないが浄化の札を住民の周辺に頼む」
「りょーかい♪」
 『浄化の札』を貼り終えたアニスはそのまま【空飛ぶ箒ファルケ】に飛び乗って上空へと上昇。
「んー! ゴーレムもどきがわんさかわんさか♪ まとめて土に還りましょう♪」
 複数固まっている土くれモンスターを素早く発見し、間髪いれず『稲妻の札』を使って一網打尽にする。雲ひとつない空から落ちてる雷撃に土くれモンスターはなす術なく焦がされて崩れ去っていく。
「まだまだ、バリバリ〜! 落雷注意〜♪」
 次々と『稲妻の札』で攻撃するアニスの姿はさながら小さき雷神のようだった。
『当たらないように気をつけてね。アニスの雷撃に当たったらさすがにこっちも痛いから』
「やれやれ。そんな間抜けに見えるか?」
『念のためよ』
「心配なら後ろで縮み上がってる奴らの心配をしてやってくれ。俺には必要ない。まあ、こんな町のど真ん中が一時避難場所では心許なさ過ぎる。道を開けて突っ切るしかないだろうな」
 和樹が【飛装兵】と【親衛隊員】を避難住民たちの周りに展開。先ほどの『浄化の札』、他の契約者たちのことも考慮すればすぐに住民が襲われることはないだろう。
「持って数十分。さっさと前を開けてもらうとしよう」
 瞬間、土くれモンスターへと駆け出す和樹。距離が開いていて何もできないモンスターには満遍なくかつ惜しみなく弾丸をプレゼント。
 しかし、銃の間合いを完全に無視しそのまま接近戦の距離へ。これにより土くれモンスターも和樹へと襲い掛かる。この距離で数体への対応は無理、かと思われた。
「銃だけじゃないんだよ」
 【レガース】を装着した状態で綺麗な弧を描いた回し蹴りを放つ和樹。見事に敵の一体にヒットし、他の数体を巻き込んで数メートル先まで吹っ飛ばす。
 中間距離にいた数体を再度銃で撃ち倒す。銃の間合いから外れている遠距離の敵には。
「アニスからのー援護雷撃っ!」
 と、距離を選ばず相手を圧倒する和樹。それでもなお土くれモンスターの数は留まるところを知らず囲まれてしまう。
「まったく、骨の折れる仕事だとは思ったが予想以上だよ」
『どうするの? 諦めて帰る?』
「冗談。クライアントの依頼は絶対だ」
 余裕の会話をする二人目掛けて土くれモンスターが殺到する。四方八方を囲まれていて抜けられる場所はどこにもない。万事休すかと思われた。だが、しかし。
「……アニス!」
「はあい♪」
 アニスが【白鳩の群れ】を密集させる。同時にジャンプした和樹が白鳩たちへ着地。その下ではもみくちゃになった土くれモンスターたちの姿が見える。
「このまま終わらせてやる」
 白鳩たちから更に高くジャンプ。足と頭を逆転させた状態から銃を乱射。一箇所に集まった土くれモンスターには照準を定めずとも当たっていく。
 おまけに、和樹の数センチ横を落雷が通り、土くれモンスターを焼き焦がしていく。数十体いたはずのモンスターがあっという間に一体となった。
 そこへ自由落下で速度を増した和樹が最後の一体に、【レガース】で頭上から止めを刺す。
 一連の動きは、まるで曲芸のように緻密で美しくあった。
「チェックメイト」
「私たちのコンビプレーは最強だねっ!」
 終わりを告げる和樹と空から戻ってきたアニス。
『だとよかったのだけどね。まだくるみたいよ』
 あれだけ倒したのに、新手の土くれモンスターたちが周りを取り囲んでいたのだ。その数は、先ほどよりも明らかに多い。
「もうっ! しつこすぎるよー!」
「……やれやれ。骨が折れるどころか、粉微塵になりそうだな」
 不満を零しながらも既に戦闘態勢に入る和樹たち。

「これは、数が多すぎますね……」
「もうっ! 前に進めないじゃないのよ! これじゃ戦闘に回らざるを得ないわよ!」
 避難住民の誘導に当たっていたロレンツォとそのパートナーであるアリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)が土くれモンスターを倒しながら言う。
 個々の力はないものの、圧倒的な数で攻めてくる土くれモンスターに押されつつある現状。このままではまずいとロレンツォは考えていた。
「このまま戦っていてもいずれは押されてしまう。今は土の森に追いつかれていないとはいえ、ここもそのうち森の中へ」
「とは言ってもこう数で足止めされちゃ進めないわよ!」
 『スプレーショット』、『弾幕援護』で土くれモンスターを押しのけながら叫ぶアリアンナ。一方のロレンツォも『バニッシュ』で応戦。
 他の契約者たちも善戦しているが、それ以上の数でもって襲い掛かる土くれモンスター。
「何か手は……」
「もう、いい加減にしなさい! このゴーレムもどき!」
 絶体絶命。このままでは契約者もろとも土の森へと飲み込まれてしまう。
「……五行思想」
「なにっ!?」
「土は水を濁し、水は火を消しとめ、火は金を溶かし、金属の斧は木を傷つけ、木は土を根で締め付け痩せさせる」
 五行思想の相剋と呼ばれる考え方。ロレンツォはこの考えからある可能性に行き着いたのだ。
「守護獣とこの土くれモンスターも考えようによっては五行思想に当てはめることができます。タイニーは金、バーンは火、タートは木、ドランは水、そして土くれモンスターは名の通り土」
「ちょっと無理があるんじゃ」
「ほう、五行思想とはのう。この町に古くから言い伝えられているものばかりだと思っていたが」
 老人が喋りかけてくる。避難住民の一人で、またこの村の町長をしていた人物だ。
「ちょっと! 危ないからあっちに行ってないと!」
「もうこの先長くない身じゃ。そう焦ることもあるまい」
「……五行思想はこの町に古くから伝えられていたのですか?」
「そうじゃ。わしが小さかった頃からみーんなに教えられた思想であり、理じゃ。今でもこの思想を尊重すべく火元や水元は極力遠ざけてるような町の配置になっておるのじゃ」
「なら、木が植えられている箇所はありますか?」
「ああ、丁度そこに見えるじゃろう。あそこから西の入り口の付近までずっとあの木の道を取って行けるのじゃ」
 町長が指差した方向には森、とまでは行かないが緑豊かに木々が植えられている箇所があった。
「アリアンナ。他の契約者と協力してみなさんをあそこへ誘導します」
「まさか、その五行思想とやらに賭けるの?」
「出たとこ勝負は好きではありませんが、このまま何もせず押し切られるよりはマシでしょう?」
「……わかった。他の人にもそうするように呼びかけてくる!」
「ではそちらはお願いします」
 そう行って二手に分かれる二人。

 懸命に戦う契約者の元まで行き、事情を説明する。説明を受けた者たちも最初は唸っていたが他に案がないということでその作戦を決行することとなった。
「五行思想かぁ」
「さてさて、吉と出るか凶と出るか」
 北都と和樹が戦いながらそれぞれの感想を漏らす。そこへ裁が走ってやってくる。
「避難してる人たちはみーんな森の中へ移動したよー! 私たちも行こう!」
「今もかなり無理して前進しました。これ以上の強行はできません。私の考えが間違っていれば、あとはあそこで耐えるしかありません。覚悟をしてください」
 応戦していたロレンツォがすまなそうな顔をしながら契約者たちに声をかける。この作戦が成功しなければ、あとは他の契約者たちが守護獣を全て倒し終わった時、何かしらの光明があると信じるしかないのだ。
 土くれモンスターの数は留まることを知らず、次々と契約者へと襲い掛かってくる。
「それでは合図をしたら、後ろの森へ全力で移動します。奴らが森の中へ入ってこれないようならそのまま警戒しながら前進、入ってくるのであれば全力で抗いましょう」
 身を寄せ合う契約者たち。緊張が走る。
「……行きます!」
 声と同時に森のほうへと駆ける契約者たち。言わずもがな追ってくる土くれモンスターたち。進行方向から襲ってくるモンスターを薙ぎ払い、森の中へと入った。
 後ろから土くれモンスターたちが大挙して押し寄せてきて、森の中へと入って……。
「……こないよ!」
「やりましたねぇ」
「これは、骨折り損のくたびれもうけって奴か」
「……よかった」
 ロレンツォの作戦は見事に成功し、土くれモンスターたちは森の中まで入ってこない。何とか窮地を脱した一行は万一の事態に備えつつ、避難住民と共に西の入り口へと向かうのだった。