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第九章 大混戦! 時代劇バトル!? 一

 さて、もはやこのような状況であるから、物語の詳細についてはほぼ解説不要であろう。
 とりあえず、上のお家騒動というか権力争いに乗じて、近くの天領を治めていた悪代官が上役である勘定奉行の娘を拉致したとか、まぁ何と言うかそんな感じと思っておいていただきたい。
 ちなみに勘定奉行の娘が「あの」ラブ姫であるということは、勘定奉行もあんなサイズなのだろうか、とか考えてはいけない。世の中には知らない方がいいこともあるのである。
 なんにしても、そのせいでぼちぼち江戸まで影響が出てきているので、公儀隠密やらその他の正義の味方やらが大挙して悪代官を倒しに押し寄せる始末となった、と、そのように理解していただければ幸いである。





 そして、いよいよそのクライマックス。
 悪代官の屋敷に乗り込むシーン……の、はずなのだが。

 町外れにいつの間にか建造された「代官屋敷」の前で、正義の味方の皆さん――厳密には、正義の味方「役の」皆さんは頭を抱えていた。

 何が問題って、ことここに至って、脚本がメチャクチャなのである。
「……何、この『あとは流れでお願いします』って」
 呆然とするのはセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
「お色気要員兼任の主人公サイドのキャラ」ということで、「スキルを多用する『妖しげな術を使う美女』」という役柄を演じてきたのだが、さすがにここに至ってこの脚本は想定外もいいところである。
 一応最初の方だけは多少こまごまと書かれているのだが、最初の戦闘の後については先述の一言のみであった。
 八百長ならその一言でも問題なのだが、時代劇とはいえドラマであるから今回はむしろその一言「しかない」のが大問題である。
「まあ、いいんじゃない? 要するにアドリブOKでそれっぽくやればいいってことでしょ?」
 あっさりとそう受け止めてしまうのは、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
 もともと大雑把な性格のセレンフィリティにしてみれば、あまり細かく指示を出されるよりは、このくらいの方がやりやすいのだろう。
「それは、そうかもしれないけど……」
 逆に几帳面なタイプのセレアナにしてみれば、こんな大雑把な指示しかないのはどうにもこうにも落ち着かない。
「ま、考えたって始まらないさ! 迷わず行けよ、行けばわかるさ、ってな!」
 これまたばっさりと割り切っている奈津。
 これはこれで、ある意味プロレスラー的な思考と言えないこともない。

 そんな一同の様子をモニタで見ながら、ミネルヴァはくすりと微笑んだ。
「ふふふ……さあ、皆さん。ここまで来られますかしら……」
 実はこの「代官屋敷」のセットは、まるごとミネルヴァの提供なのである。
 そのため、中がどうなっているかについては、実は彼女を除くと誰一人として正確には知らない。
 そして、それはまさに彼女の狙い通りであった。