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リアクション
肉の壁が崩され、がら空きとなった心臓を見て、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は思う。
(……この時を待っていた。シスターの所業も召喚も、ナタリーの涙すらも。
全ての因果律を正し、災いを根源から断つ。暴君を倒す、たった一つの奇跡を生む為にッ!!)
手の平に血が滲む位拳握って耐え、チャンスを待った。その為だけに自分は心を鬼にして一部始終を見てた。
ルカルカは機が熟したのを感じて、<神降ろし>で超人的な力を覚醒させ、<光閃刃>を広範囲に放つ。
暴君を欺くために生み出した眩いその光に溶け込み、<分身の術>で回避を上げ、ダークヴァルキリーの羽をはためかせ、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)と共に魔剣を構えて突入を開始する。
「gggggggggg!!!」
暴君は鼓膜が裂けんばかりの咆哮をあげ、ルカルカとカルキノスに残った全ての触手を向かわせる。
「させないよ。さっさと諦めてあの世へ行くんだねッ!」
その攻撃を見たルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)は機晶爆弾を思い切り放り投げる。
触手に当たるやいな、<破壊工作>を乗せた大きな爆発が中空で起こった。すぐさま、アコは氷雪比翼の氷の刃と<カタクリズム>と<真空波>によって全て破壊。
焼かれ、冷やされ、ばらばらになった肉片と大量の血液が降りしきり、その雨のなかを二人は走り暴君に接近した。
暴君は接近した二人を食いちぎろうと、大きな口を開こうとした。が。
「ちぃーっとその口塞いで黙ってろや」
カルキノスは二体の屍龍をぶつけて、口を開くのを遮る。
そして、暴君の肉体に手の平を押し当てると、不敵に笑いながら言い放った。
「おまえはアンデッドみたいなもんだろ? なら、俺の獲物だってなぁ!!」
日頃の鍛錬により鍛え上げられた常人ならざる魔力を直接流し込み、暴君を支配しようと醜悪な肉体のなかで暴れまわさせる。
自傷まで至らずとも、暴君は混乱し、全ての行動を停止をした。それを見たルカルカがカルキノスの影から飛び出て、羽を羽ばたかせ飛び上がった。
「ナタリーの為にも奇跡は起きる。起こしてみせる……!!」
ルカルカは暴君の弱点である心臓に、魔剣による<疾風突き>を放った。必殺の一撃。
が、それは心臓の周囲から突然生えてきた一本の異形の腕によって止められた。
「……ここまで追い込まれるてしまうとはッ」
左腕を始めとして、這い上がるように暴君と融合したエッツェルの上半身が浮かび上がる。
ルカルカは突然現れた彼に驚きながらも、魔剣の下に忍ばせた自身の光条剣で暴君の心臓を突き刺そうとした。しかし。
「まだまだ、やられるわけにはいきません……」
エッツェルが自分の身を張って、その攻撃から心臓を守りぬく。
光条兵器により突き刺された上半身のほとんどが切り裂かれるが、一矢報いろうとルカルカに向けて辛うじて再生した何本かの触手を飛来させる。が。
「――封滅陣四重奏・呪縄縛衣、こいつを土産に地獄へ帰れ」
やけに響きわたった声は誠一によるもの。
想念鋼糸による完成した網を縮小しながら<真空波>を纏わせ、自己再生を行う触手を切断しながら怪物を捕える。
鋼糸から<爆炎波>を放ち傷口を燃やしことで再生を遅らせ、更に網を狭める事で燃えて脆くなった皮膚を突き破り、鋼糸を皮膚の内側に届かせる。
鋼糸が皮膚の内側に届くやいな、<轟雷閃>で体内に直接電撃を送り込み、<アルティマトゥーレ>を放ち内側から凍らせ、完全に動きを封じた。
それと、共に。
「気炎――万丈!」
不意に、上空からした声にエッツェルは顔を振り上げる。
そこには<倍勇拳>と<チャージブレイク>で限界まで高めた力を解放した皐月が落下しながら迫っていて。
「前途拓くは流れ星――!!」
皐月は咆哮をあげると、氷蒼白蓮でデイブレイクの石突側に円錐型の氷をキャパシティ限界まで精製。
体積十立方メートル、総重量中十トン弱の即席氷槍を駄目押しの<パワーブレス>で強化。
カランコエを足場に、推進力にするためデイブレイクの魔力を後方に向けて解放。
ルーシュチャの<奈落の鉄鎖>での重力を倍増し、加速。
流れ星のような速度の<ランスバレスト>。
「ブ、チ、抜、けェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
皐月と共に落下する巨大な氷の穂先は心臓とエッツェルを――貫いた。
「な、ん、で。あな、たは、私が、食った、はず……!」
心臓の破壊により、暴君と一緒に肉体の崩壊が始まったエッツェルは、震える唇でそう呟く。
皐月はそんな状態の彼を見ながら、腕を伸ばして中指をあげ、言い放った。
「人間舐めんな。一遍死んだくらいでどうにかなりゃしねーよ」
皐月がそう言い終えるやいな、同時に契約者達の最後の猛攻が始まった。
今までの恨みつらみを乗せた猛攻は、崩壊を行う暴君の肉体を壊し、解体し、バラバラにしたのだった。