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All I Need Is Kill 【Last】

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All I Need Is Kill 【Last】

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 無援の結末

 二十時四十分。空京、廃墟の路地裏。
 誰の目にも触れられないその場所で、死んでしまった佐野 和輝(さの・かずき)の蘇生が行われていた。
 それは彼のパートナーのリモン・ミュラー(りもん・みゅらー)によるもの。しかし、その行為は蘇生と呼ぶにはあまりにも稚拙で、確実に成功する保証もない実験的な行為だった。

「アニスの最後の言葉受けて、現場に着てみれば」

 リモンの手による死者の蘇生が行われている傍で、スノー・クライム(すのー・くらいむ)は小さく呟いた。
 彼女は別行動をとっていたが、暴走のあげく自滅してしまったアニス・パラス(あにす・ぱらす)の死ぬ直前の連絡を受けて、リモンを引きつれここにやってきたのだった。

「和輝、貴方という人は……最後までズルいんだから……」

 ――――――――――

 二十一分。空京、廃墟の近く。
 夜月 鴉(やづき・からす)はパートナーロストの影響で使い物にならなくなった身体を寄生虫を全身に寄生させることで補い、夜月 壊世(やづき・かいぜ)といった魔鎧を装着すること、無理やり動かしていた。
 その代償は大きい。寄生させた虫の影響で鴉の身体は食われていき死の淵に立たされ、魔鎧の影響で精神を侵されただ憎しみだけが心を支配する。それゆえ今の彼はただ周りにあるものを壊す狂戦士と化していた。
 その結果、彼の歩いてきた道には何の関係もない一般人の死骸が散乱していて、血の香りが辺りに充満している。

「ゲームを仕組んだ奴等にも今回の件に関わった全ての人間にも、そして俺にも。
 全てに復讐だ……約束を、果たすんだ……だから……全員死ねぇぇぇ!」

 鴉はそう悲痛な叫びをあげると、獲物を探しながら駆ける。
 その後方をついていくアルティナ・ヴァンス(あるてぃな・う゛ぁんす)は、彼のその姿を見ながら悲しそうに呟いた。

(例え、何処へなろうと私は付いていきます。……それが、私の忠義です)

 そんな二人の目の前に、突然一人の男が現れた。
 それは蘇生が成功し、その反動で理性がほとんど残っていないバーサーカーと成った和輝だった。

「あれは……佐野、さん……死んだはずでは……!?」

 アルティナは驚きのあまり目を見開ける。
 それとは対照的に前を行く鴉は、和輝を見て口元を吊り上げて言い放つ。

「敵か……しかも、またお前か……佐野和輝ッ!!
 クククッ……お前は死んじまったから、もう復讐出来ないと思ってたが……良いぜ、殺してやるよッ!!」

 鴉は処刑人の剣を構え、<罪と死>を放ちながら和輝に突撃する。
 それを見たアルティナは鴉を止めようと手を伸ばすが、途中で思いなおし手を引っ込めた。

「主!? くっ……! マズイ……主が死んでしまう!?
 ……しかし、これは主の望み……死も、主が望んでいること。私は、ただ見ていることしか……出来ない」

 アルティナの目の前で、互いに本能から来る獣じみた咆哮をあげながら、鴉と和輝が激突した。
 鴉の振るう剣の一閃を、和輝が蟲とレガースで強化された蹴撃で迎え撃つ。青い火花と金属の悲鳴が発生。
 そのまま二人はのぞけることなく、人間離れしたかのような滅茶苦茶な動きで、再び衝突した。

「「がぁぁァァアアア!!」」

 両者の戦いには自身の身を護ることなど微塵もない。ただ、目の前の相手を殺すという考えだけに支配すされた戦い方だった。
 両者は至近距離で何度も何度も衝突する。それと共に互いの身体は傷つき、欠損していき、もはや致死量の血液を辺りに撒き散らす。

「ぐはっ……チッ……もう、身体が限界か……せめて、最後に、あいつを道連れに……!」

 片腕の骨を粉々に粉砕された鴉は、腹部の切り傷から腸を零れ落とす和輝に、剣を抱えて突撃する。
 同じく身体の限界が近い和輝は、腰から曙光銃エルドリッジを抜き取り、狙いを定めて引き金を引いた。
 銃弾が鴉の頭に飛来する。鴉は構わず、剣を振るった。
 銃撃は彼の頬を掠めるだけだった。鴉が放った斬撃も、和輝に当たらず空を切った。
 それとほぼ同時に二人は身体の限界を迎えて、交差したまま前のめりに倒れる。

「……悪いな、トゥーナ……俺、約束守れなかっ……た……」

 鴉は最後にそう呟くと、そのまま死んだ。和輝も彼が死ぬとほぼ同時に、何も言わず息を引き取った。

「憎い……全てが、憎い……」

 鴉に纏われていた魔鎧の壊世も、半身である彼を失って、そのまま息絶える。
 スノーは魔鎧の状態を解除して、傍で絶望するアルティナに、悲壮な表情のまま声をかけた。

「和輝も生き絶え、残ったのは私と……ティナ、貴方だけ……。
 そして、私と同じ目をしている……そう、貴方も同じ事を想っているのね。なら、言葉は必要ないわね」
「スノーさん……騎士に、言葉はいりませんか……では、お互いに大切な人の元へ行きましょうか」

 スノーは槍を、アルティナは剣を。切っ先を互いの胸に押し当て、二人は一息に相手の心臓を刺し貫いた。

「……ふむ、大方は私の予想通りの結果となったか。あとは回収して、詳しく調べるとしよう」

 一部始終を眺めていたリモンはそう呟くと、死んでしまった彼らの遺体の回収を始める。
 そして大方の回収の準備が終わったとき、彼女は和輝の蘇生を行った路地裏を見つめ残念そうに呟いた。

「まぁ、惜しむらくは……アニスの死体を回収出来なかったことか」

 リモンがそう言うわけは、アニスの遺体は崩壊してしまい細かな砂となって消えてしまったからだった。

「……まぁ、構わんか。これだけのサンプルを手に入れたんだ。私の研究も飛躍的に進歩するだろうしね」

 リモンはそう口にすると、彼らの死体を抱えて、影に溶けるように消えていった。

 ――――――――――

「……ふむ。ここでもまた、一つの物語が終わりを告げたか」

 廃墟の近くで起こった戦闘を眺めていた玉藻 御前(たまも・ごぜん)は静かにそう呟くと、同じく観戦していたセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)に問いかけた。

「おぬしは、胡蝶の夢という故事は知っておるかのぉ?」
「……胡蝶の夢。夢と現実との境が曖昧ということか……?」
「そうじゃ。所詮、この世界は誰かの見ている夢に過ぎない。
 が、どうやらそれを見ている自身ですら其の事に気付いていないようじゃのう」

 御前は愉快そうに息を潜めて笑う。それを見たセリスは気にかかることを彼女に質問をした。

「しかし、だ。この世界にいる者全ては痛みを感じているぞ……?」
「夢と現実とを判断するのが、痛覚の有無? たったそれだけでは判断など到底出来はしないものじゃよ」

 御前の答えを、セリスはいほとんど理解出来ない。が、なにやら気にかかる部分もあり、何故だが妙に納得してしまう。
 そんなパートナーの様子を見た御前は不思議に思い、セリスに声をかけた。

「おや、どうしたのじゃ。以前までのお主なら、こんな戯言のような答えを聞いても首を傾げるばかりじゃったのに」
「……どうもな、この空京内で起こったことのようだが、俺ではない記憶が紛れ込んでるような気がする。だからかもしれないな」
「……ふむ。お主はもしや……あのヴィータと同じ……」

 御前はそう独りごちると首を小さく左右に振り、セリスに問いかけた。

「いや、これ以上語るのは無粋というもの。して、お主はどうする?」
「何……醒めない夢は無い……。観測者としてなら、この世の主に伝言を伝えよう。
 平和であれ、惨劇であれ、希望というものはいつでもあるものだろ……?」
「ふむ。そうなると……この世は夢として消えるじゃろうな……」

 重々しい会話をする二人の背後で、今まで黙っていたマイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)が我慢しきれなくなったのか、大声で叫び始めた。

「何言ってるの〜〜〜!? ボクのネバーランドは不滅でしょ!?」

 マイキーの叫びを、前の二人は完全に無視をする。
 彼はそれを見ると肩を大きくすくめて、ハットを深くかぶり直す。
 そして表情をあまり見られないようにしながら、暴れる暴君を見上げた。

「やぁ、片道だけの夢の国へようこそ。そして――」

 マイキーは口元を僅かに吊り上げると、普段の彼とはかけ離れた静かな声で呟く。

「さようなら。いい夢見てね」