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動物になって仁義なき勝負?

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第三章 冒険日和


「ご主人様、こっちです」
 自分が存分に役に立っている事に満足なポチの助は、後ろにいるフレンディスの方に振り返った。

 その時、
「諦めたんじゃないのかぁぁ」
 というキスミの叫び声が周辺から聞こえて来た。

「これは悲鳴ですね。襲われているのかもしれません。行ってみましょう!」
 フレンディスは叫び声を耳にするなり走り出すが、気持ちと裏腹に歩幅が人の時と比べて小さい。そのため、急ぐ時はまずい。
「……フレイ」
 小熊の歩幅に付き合っていたら間に合わないと察したベルクはフレンディスを抱えた。
「……マスター、申し訳ありません」
 フレンディスは手間を掛けた事にしゅんとなりながら謝った。
「な、エロ吸血鬼。ご主人様に何て事を!?」
 ポチの助はむっとフレンディスを抱えるベルクをにらむもベルクは相手をせず、さっさと行ってしまう。
「ご主人様!!」
 ポチの助は急いでフレンディス達を追った。
 ベルクは、『行動予測』で変形する土塊達を巧みに避けながら先を進み、熊に襲われているキスミの所に辿り着き、賑やかな光景を目にすることとなった。

「凄い森でありますね」
 吹雪は行き交う土塊達を見送りながら、周囲を警戒する。

 その時、
「ちょ、来るなぁぁぁあ」
 という叫び声が聞こえて来た。

「吹雪、この声は!」
 コルセアは先頭を歩く吹雪に呼びかける。
「行くでありますよ!」
 吹雪は猛ダッシュで声のする方に向かった。

「ちょ、来るなって。何なんだよぉ」
 人や獣に形を変えた土塊に囲まれ、逃げ道を失っているキスミ。
 喧嘩をして戻り薬を探していたら突然土が変な形になって襲いかかって来たのだ。
 足首を掴まれ、動けない上に少しずつ地面に呑み込まれつつある。もう危機感しかない。
「誰か助けてくれ」
 何十回目かの必死の叫び声を上げた時、重量感のある足音が近付い来るのを耳にして振り向いた表情は凍り付いていた。

「……な、く、熊」
 現れた凶暴な面をした熊の吹雪に言葉を失うキスミ。
 土塊達は吹雪が突っ込んだ勢いであっという間に倒され、地面に消えていた。
「……く、来るなよ」
 熊の正体が吹雪である事を知らないキスミは、急いで逃げようとする。

 しかし、
「グァオゥゥゥウ」
 吹雪は逃がさない。キスミお仕置きのために全力を投じる。あくまでも熊らしく人語は発さず、ゆっくりゆっくりとキスミに近付き、追い詰める。
「オレ、喰っても美味しくないぞ!」
 怯えたキスミは慌てて背後の木に登って避難。
「グォォォウォォォ」
 吹雪はゆっくりと二本足で立ち、キスミが登った木を揺らす。
 揺れる度にキスミに恐怖を与えていく。

 キスミにお仕置きをするのは吹雪達だけではなかった。
 どこからともなく雷が襲い、キスミがいる付近の枝が焼け落ち、地面に落下した。
「ひゃあっ!!」
 あともう少しで雷の餌食となっていたキスミはさらに青くなり、背中に妙な寒気を感じ始めた。

「……もう始めてるのね。すっかり本物の熊と信じてるみたい。それにワタシ達以外にもいるみたいね」
 コルセアが駆けつけた時はまさにお仕置き真っ最中だった。そして、自分達の他にも仕置き人がいる事を知る。

 キスミの横をかすめたのは、
「少しだけとっちめましょう」
 アデリーヌの『雷術』。
 寒気を感じたのは
「あの熊は葛城さんだから大丈夫ね」
 さゆみの『恐怖の歌』だった。
 少しだけ吹雪達のお仕置きに参加した後、さゆみ達は園児捜索に戻った。

 しばらくして、
「……よ、よし諦めたな」
 キスミは吹雪が木を揺らすのを諦め、背を向け森へと消えるのを確認した途端、木から下りて猛ダッシュで逃げようとした。吹雪の罠だとも知らず。

「グォァァアァァ」
 キスミが木から下りるなり森に消えたはずの吹雪がベアハッグを食らわせるため現れ、突進。
「諦めたんじゃないのかぁぁ」
 キスミは、凄まじい迫力の吹雪に足が止まって逃げる事が出来ない。

「……このままだと背骨が折れてしまう。止めないと」
 待機していたコルセアが吹雪を止めるために乱入。
 そして、キスミが抱き込まれたまま吹雪を全力で張り倒した。

「おわぁ!?」
 張り倒された吹雪とキスミはそのまま地面に倒れた。

「痛いでありますよ!」
 吹雪はむくりと起き上がり、不満そうに言った。隣には気絶したキスミが転がっていた。
「もう十分よ」
 コルセアはそう言ってキスミの方に顔を向けた。
「……気絶でありますか」
 吹雪はちろりと自分達の正体を知らないまま意識を失ったキスミを見た。
「……成功し過ぎよ」
 少し怖がらせるはずが、まさか気絶させてしまうとはよほど吹雪の熊演技が迫真だったのだろう。

「……ここだな」
 フレンディスを抱えたベルクが吹雪達の背後に現れた。
 吹雪達と同じようにキスミの悲鳴を聞きつけたのだ。

「……マスター」
 後ろ姿で敵味方が不明の中、フレンディスは腕の中でベルクを守ろうと構える。
「ご主人様は僕が守ります」
 ポチの助はフレンディスを守ろうと先頭に立つ。

「あなた達も捜索?」
 ベルク達に気付いたコルセアが真っ先に振り向き、声をかけた。
「……コルセアか」
 ベルクは見覚えのある面構えに正体を知り、安心した。
 そして、何気にフレンディスを地面に下ろした。
「自分もいるでありますよ!」
 吹雪も鋭い爪の付いた手を挙げながら言った。
「同じ熊ですね」
 フレンディスはトテトテと百戦錬磨の面構えをした吹雪達に近付いた。
「マスター、親子熊ですよー」
 吹雪達と並んだフレンディスは、楽しそうにベルクに言った。
「……熊は熊だが。どう見ても違うだろ」
 ベルクは吹雪達とフレンディスを見比べながら言った。
 凶暴な面構えの吹雪達とマスコットに見える可愛らしい小熊のフレンディス。

「ところで何があったんだ?」
 ベルクは気絶しているキスミに気付き、事情を訊ねた。
「お仕置きであります!」
 吹雪が簡潔に答えた。

 吹雪が答え終えたと同時に
「……ん……おわぁっ」
 気絶から回復したキスミがゆっくりと目を開け、素っ頓狂な声を上げた。
 なぜなら
「起きたでありますか」
 と吹雪が顔を覗いていたからだ。

「く、熊ぁぁ」
 キスミは、覗き込んできた吹雪に叫びながら俊敏な動きで起き上がり、逃げようとする。
「……落ち着け。ここにいるのは味方だけだ」
 この中で唯一人の姿をしているベルクが何とか落ち着かせようとキスミに声をかけた。
「……味方、動物、あぁ、動物変身薬か」
 キスミはベルクの言葉で起きた事を思い出し、ゆっくりと落ち着きを取り戻した。
「もう、びっくりしたぜ。すげーな、本物の熊にしか見えなかったぜ」
 安心するなり、吹雪達への警戒は無くなり、ケラケラと楽しそうである。
 どこにも事件を起こした事に対しての反省がない。
「グォァアァァ」
 お気楽な様子を見てお仕置きが足りないと思った吹雪が軽く吠える。
「うぉっ!?」
 案の定、キスミはびっくりする。
「一緒に森に入った子供達がどんな姿をしているか覚えている?」
 コルセアが子供達が今どのような姿をしているのかを訊ねた。
「……あぁ」
 キスミはうなずき、話し始めた。その情報は、他の捜索者達にも伝えられた。

「あとは、誰かが警護をしながらお前を森から連れ出すだけだな」
 とベルク。残るはキスミを森から連れ出すだけだ。
「下等生物の世話は同じ下等生物がやるのだ。僕にはご主人様を元に戻すという重大任務があるのだ」
 ポチの助が小熊のフレンディスをちろりと見た後、胸を張りながら言った。
 そうなると自然と担当者は決まる。
「自分達が護衛するでありますよ」
 吹雪が警護を申し出た。
「えっ!?」
 キスミは吹雪の言葉に驚き、ちろりとベルクに目で訴えた。
 外見が人を食べそうな熊よりも人と愛らしい豆柴と小熊の方が精神的に良い。
「……頼む」
 視線の意味を知りながらもベルクはキスミの護衛を吹雪達に任せた。
 戻り薬探しがあるためと引き受けると言っているのに断る理由はどこにも無いから。
「心配ないですね」
 フレンディスは心底安心の様子で言った。強い熊の姿をした二人がいれば心強いだろうと。
「……あぁ」
 キスミは助け船が出ない事を察するなりがっくりと肩を落とした。

「では、行くであります!」
「はぐれないように」
 仁王立ちだった吹雪とコルセアは四つん這いとなり、吹雪を先頭にキスミを真ん中にして周囲を警戒しながら森の出口に向かった。
 
 道々、
「……味方って分かっていても」
 キスミは前を歩く吹雪を見てつぶやいた。自分を警護してくれているのが吹雪き達と分かっていても今にも食べられるのではないかと少しばかり怖かったりする。
「大丈夫でありますよ!」
 吹雪は即座にキスミに答えるも相変わらず凶暴な熊の面構え。
「……はぁ」
 キスミは何とも言えない顔をしていた。
「……お仕置きの影響はすごいみたいね」
 コルセアは二人のやり取りを見ながらつぶやいた。