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アキレウス先生の熱血水泳教室

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アキレウス先生の熱血水泳教室

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【一時間目!】


『まずはプールに入る前に準備体操だ。教官は九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が担当してくれる。
 スポーツはスタートダッシュが肝心だからな。しっかりやれよ!』
 アキレウスの声と共に、並んでいる訓練生――と強制的に呼ばれてしまった練習しにきた生徒達――達の前に、白衣の似合う天使のような女性が現れた。
 教官。と言われて緊張していた訓練生達は安堵して笑顔を浮かべてしまう。
「俺ら泳げる監視員は関係無いか」
 蔵部 食人(くらべ・はみと)が呟いた瞬間だった。
 突然ローズが眼光鋭く彼を指差したのだ。
「そこ! いいですか! 準備体操を舐めたらいけません。
 身体が温まっていないうちに冷たい水に入るのは、結構な負担になるんですよ」
「あ、ああ。まあそうだよな。悪い」
「そうです。監視員も、教官も皆きちんとはじめて下さい」
 ローズの声に、訓練生の周りへ教官役や監視員達が集まってきた。
「準備体操を笑う者は準備体操に泣く!
 しっかりと手を抜かずに」
 続きはキリッとした笑顔で。
「それでは体操の基本。皆さんご存知のレイディオ体操第一番から始めましょう」
 こうして九条 ジェライザ・ローズの準備体操は始まったのである。
 女性教官。 レイディオ体操第一番とくれば、大した事は無く穏便に進むだろうと誰もが思っていた。

 なのに数分後には、プールサイドにこんな怒号が飛び交っていたのである。
「話しかけられた時以外は口をきくな!
 レイディオ体操に集中しろ!
 口で糞を垂れる前に”マァム”と言え!
 分かったか、ウジ虫ども!」
「イェスマァム!」
 ローズから放たれる覇気に、訓練生達はたじたじになりながら答えると、ローズは更に声を大きくする。
「ふざけるな! 大声出せ! タマ落としたか!」
「イェスマアァム!!」
 その間も体操は続けられている。
 ローズが右へ左へと監視の手を緩めず、その後ろに軍人的な立ち方でびしっと横に構えたアキレウスとリブロらが構えているので、
訓練生達は首をまわすのにも、指先一つ伸ばすのにも、一ミリ足りとも手を抜く事は出来無い。 こうして真剣にやってみるとレイディオ体操第一番とは、かなり合理的で、ハードなものだった。
 訓練生達の額には汗がにじみ、徐々に息が上がってくる。
 ローズはそれを見て満足そうに演説を始めた。「貴様らがアキレウスの訓練に生き残れたら各人が魚雷となる。
 その日まではウジ虫だ!
 シャンバラで最下等の生命体だ!」
「イェスマァム!!」


 そんな具合で続けに続ける事、一つの体操に39回目のループ目。
「いいぞベイベー
 疲れ居てる奴は契約者だ!!
 疲れていない奴はよく訓練された契約者だ!!
 ホントプールは地獄だぜ!
 フゥハハハハーハァー!!!」 元ネタ以上にぶっ飛んできた映画オタクのローズ先生のテンションが最高潮になり、訓練生達は既に青を通り越して緑色の顔。
 何故かシャンバラ教導団の生徒達だけが生き生きとする中、本日40回目のレイディオ体操を終えると、準備体操の時間は無事に終了したのである。
「……はい、準備体操は終わりです。
 私と彼、ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)が救護班として監視室に詰めて居ますので、
 身体の不調や怪我等ありましたら遠慮なくどうぞ」
 アキレウスと固い握手を交わし、やりきった爽やかな表情で去って行ったローズと入れ替わりに、
ヴァイスがプールサイドへやってくると、そこはまさに地獄の黙示録のていだった。
 肩で息をしながら冷たい床に倒れ込んでいるのは訓練生だけでは無い。監視員も教官も含んでいる。
 虫の息の彼らから口々に呟かれるのは、どっかで聞いたあの有名なマーチ曲とこんな台詞だった。
「衛生兵! 衛生兵!」
「もう一歩も動けないー……教えてくれ……俺はここで死ぬのか?」
「水、水をくれ……」
「畜生! 俺は帰るんだ! 家に帰らせてくれ!!」

 パワードバックパックに詰めた酸素吸入器を出しながら、ヴァイスは頭をかく。
「……まだ準備体操だったんだよな?」
と。