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アキレウス先生の熱血水泳教室

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アキレウス先生の熱血水泳教室

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 ヴァイス・アイトラーは思っていた。
「今日が偶然バイトの休みっていうのは、何かがオレに死者を防げと言っているに違いない」と。
「アニマルズ! こっちだ!」
 ヴァイスの声に、彼のアヴァターラシリーズと超人猿はプールサイドをかけずり回る。
「山田さんとスーさんは俺と一緒に。
 平さんと超さんはあっちの飛び込みプールの方へ行ってくれ!」
 ヴァイスの的確な指示を受けて、要救護者が次々と九条 ジェライザ・ローズの詰めている監視室に運び込まれて行く。
 彼にとってここは紛れも無い戦場だった。

 そして今、再び要救護者が増えようとしている。


「もうやだ。もうやだもうやだもうやだもうやだもーうーやーだー!!」
「大丈夫、さっきも何も怪我しなかったでしょ?」
「怪我しないとかその時点で普通じゃないもん!
 それに溺れて死にかけたもん!」
「もお。そんなに心配しないで? 大丈夫だから」
「優しいけどあんまり話し通じてないよー!」
 抵抗するジゼルをオデット・オディール(おでっと・おでぃーる)が再び飛び込み台の上へと連れて行く。
 笑顔を絶やさずに、柔らかい口調で話しかける第二教官オデットのやり方は、セレンやセレアナのような軍隊式と違って恐怖を掻き立てる程でも無かったものの、
やっぱりどうにもこうにも怪しい。
 台の上で踏ん切りがつかずにいるジゼルだったが、オデットが近くで教官として睨みを利かせていたアキレウスに聞こえないような声で、そっと助けを
耳打ちをしてきた。
「ちゃんと風術でサポートするよ」
「う、……わ、わかったわ!
 いざ……赤点よサラバ!!」
 ジゼルが飛び込み台から、プール、もとい地上へ向かって飛んで行く。
 彼女の耳には上から覗き込んでみているオデットの声が聞こえてきていた。「万が一のことがあっても、アスクレピオスの杖があるから大丈夫!」
「あ。それ知ってる! この間授業で習ったの!
 確か効果は

 ……道具として使用すると、瀕死回復……」

「うん。だから大丈夫だよ。
 いってらっしゃい!」

 因に直前でオデットが使った風術によって、ジゼルは死を免れた。

 恐るべし教官、オデット・オディール。
 悪意はない。



「もう一回だ!!」
 俺の訓練はケンタウロス族式だぜ! と豪語するアキレウスの特訓が果たしてどういうものなのか。
 ジゼルには想像がつかなかったのだが、今になってみれば「ディスイズスパルタアアア」的な意味だったんだなーと、
再び上がってくるように上から叫んでいる声からはっきり理解出来る。

 本日三回目の飛び込みをする為に、ジゼルは手を引かれて再び階段を上がっていた。
 体力も精神力も消耗しきっている。 というか4000メートルを階段で上がるという時点で疲れきっていた。
「もぉだめぇ……へとへとだよぉ……」
「ははは、せめて台の上までは引っ張ってあげますから」
 そう言って志位 大地は笑いながらジゼルの手を引き階段を上って行た。
 飛び込み教官として最後に手伝いをしてくれるとやってきたのは、ジゼルも良く知っている相手だったので、今度こそまともな訓練をとジゼルは願いを託していた。
「うぅう。銃で脅したり骨折の話しをしたり。皆きっと私で遊んでるのよ。
 はぁ……最後の教官が大地で良かった」
「こうやって手をつないだまま飛び込めば大丈夫ですよ。
 バランスは崩さない様に調整しますし……

 あ、水泳するんだから眼鏡は取らないと危ないですよね」
「ん? うんそういえばそうね。
 さっきの私のリングみたいに何処かに飛んで行っちゃったら困るし」
 先を行く大地の背中を見て話すジゼルには、彼がどういう表情をしているのかまでは分からない。
 ただ言動から眼鏡を外しているらしい事は分かったが。

 さて、眼鏡といえば職人やアスリートが集中の為に瞑想や音楽で気持ちを切り替えるように、
この彼、志位 大地も眼鏡を着脱する事によって、状況に合わせた気持ちの切り替えを行っていた。
 眼鏡を掛けている時は優しく真面目で誠実に。
 そして眼鏡を外している時は……

 ジゼルと大地は飛び込み台の頂に辿り着いた。
「きたわよアキレウス。やってやろうじゃないの。 
いくらこの高さだって二回こなせば、割と慣れてくるものよ」
「む、よく上がってきたな!
 よし、その感じならペースならあと10本くらいはいけるか」
「ちょ、むりむりむりむりごめんなさい、全然慣れてない。本当に無理。やっぱり赤点と命は天秤に掛けられない」
 慌て出したジゼルに、大地は助け舟を出してやる。
「残念ですけどアキレウスさん、そろそろジゼルさんも限界ですよ。
 正直この子にはここを上るだけで重労働です。
 あとの事を考えてこの訓練はこの辺で終わりにした方が良いかと」
「――ふん。確かに志位の言う事も一理あるな。
 よしパルテノペー。この訓練はこの一本で終わりにして次の流れるプールまで20分間の休憩とする。
 その間に休んでおけよ!」
「うん!
 やったぁ大地ありがとう! お陰でた
 
                     す
        
               か
 
                       っ
                           た???」

 ところで話しを戻すが、大地は眼鏡を外すと冷徹で鬼畜な容赦の無い性格に頭を切り替える事が出来るのだ。
 そんな訳で、一旦助かったと思い持ち上げられていたジゼルは、文字通り地に向かって引きずり落とされていったのである。
 約束通りに手を引いたままなのだが、ジゼルが怖がって強く握ってくるのでわざと力を弱めてきたりするし、
冷静に考えれば男性一人分の重りを付けている状態なのだから、ジゼルは地面に向かって前二回ぶんよりハイスピードで近付いて行く。
「はわわわ大地、大地手離しちゃやーーーわわわわわわわわぎゃああああああああ早い早い二人だからさっきよりもっとはやいいいいいいいい」
「そろそろ地面ですか。少し早かったかな」
 ぽつりと言うと、大地は勢いを殺してジゼルの手を離す。
「きゃあああああ手離したああああうそつきいいいいいいいいいい」
 
高さきっちり10メートル。 通常の普通の飛び込み台の高さからジゼルはプールに落ちて行った。
 そんな彼女の姿を遠くから見ながら、高柳 陣(たかやなぎ・じん)は呟く。
「プールで練習はいいけどよ……
 あれってどう見ても終わった後水に入るの怖くなるレベルじゃねぇか?」