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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

リアクション

「空賊も消えて、キマイラも倒した……封印の陣も後少しか……」
 博物館で生徒からの報告を受けたミッツ・レアナンドは街の外の要塞を見つめる。
 要塞は生徒達の活躍で降下を始めていた。
「これならどうにか――」
 その時、要塞の外装を破って、内側から金属部品で身体を作ったドラゴンの上半身が現れる。
「あれは……≪三頭を持つ邪竜≫か!?」
 その龍の姿はミッツがこれまで調べてきた≪三頭を持つ邪竜≫の姿に酷似していた。しかも、それは要塞を取り込みつつ、徐々に大きさを増してきている。
 ――ミッツは考えた。
 既に≪三頭を持つ邪竜≫は復活してしまったのか。
 その状態で封印は可能なのか。

「ミッツさん!」
 思考を始めてからどれほど時間が経っただろうか。一人悩んでいたミッツの元に遠野 歌菜(とおの・かな)源 鉄心(みなもと・てっしん)達がやってきた。
「よかった。待っててくれたんですね」
「ん、ああ。……電話で待ってろって言われたし、それに僕はここで祭壇の準備があったからね」
 ミッツが考えるのをやめて背後を指さす。そこには封印の最終儀式を行うための簡易祭壇が用意されていた。
「どうにか間に合ってよかったよ」
「間に合ったということはもう準備は終わり?」
「まぁな。後は陣の完成を待って、祈りを――」
「じゃあ、行きましょう!」
 歌菜が手を掴んでミッツを引っ張って行こうとする。
「ちょ、ちょっと待て!!
 なんだ急に!? どこ行くんだ!?」
「ジェイナスさんの所!」
「……は?」
 わけわからないミッツ。歌菜は要塞の上空でジェイナスを見つけ、二人の絆を信じて会わせようと思ったことを伝えた。
「ミッツさんが今で親友だと信じているなら、きっとその想いはジェイナスさんにも通じる! だから、いこう! ちゃんと会って話をしようよ!」
 真剣な目で訴える歌菜に、戸惑ったミッツは傍にいた月崎 羽純(つきざき・はすみ)へ視線を向けた。
 すると月崎羽純は――
「俺は歌菜ほどには信じられないが……ミッツがジェイナスを信じるならば、俺も信じてみようと思う」
 頭をかきながら照れ臭そうに答えていた。
「ほら、だからね?」
「う、う〜ん……」
 ミッツは考え巡らせる。
 自分が説得できるのか。昔のあいつを取り戻すことが出来るのか。
『昔のジェイナスと変わった所はないかなぁ?』
 ふいに、清泉 北都(いずみ・ほくと)の質問を思い出す。
「……まさか」
「どうかした?」
「いいや、なんでもない。
 ……そうだな。行ってみるよ。行って説得してみる」
「――うん!」
 ミッツの台詞に喜ぶ歌菜。月崎羽純はあまり表に出さなかったが、嬉しそうだった。
「っと、その前に鉄心」
「なんですかミッツさん」
「はい、これ」
 ミッツは鉄心に≪黒衣の巫女装束≫が入ったアタッシュケースを手渡す。
「陣を描き終わったら、そいつ着て封印作業を始めてくれ」
「は? え、封印作業って――」
「とりえず祈ればいいから! じゃ、そういうことで!」
「え、ちょっと!?」
 ものすごく適当な指示を出して、ミッツは博物館を速攻で立ち去った。
 残された鉄心は呆然と暫し立ち尽くし――
「とりあえず……ティー頼んだぞ」
 巫女役をティー・ティー(てぃー・てぃー)に押し付けた。


*****



「気合が足りないなぁ! 気合がぁ!」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が向かってくる四本脚の機械兵器に向かって冷気を纏った剣を振り下ろす。
 真っ二つにされた機械兵器は火花を散らしながら行動不能に陥った。
 甚五郎達は街の入り口で向かってくる機械兵器の迎撃に当たっていた。
「ここから先は通行止めです!! 押し通ると云うなら実力で止めますよ!!」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)は甚五郎と共に前線で女王のソードブレイカーを振り回す。
 後方からはブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)がミサイルとレールガンで援護を、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が雷を落としつつ剣で敵を切り刻む。
 草薙羽純は要塞を見上げた。
「なかなか苦戦させられたが、これで打ち止めであろうな」
 生徒の活躍で開始時に存在していた≪氷像の空賊≫の姿はなくなり、今は動力炉がつぶされたために機械兵器もこれ以上に出てくる気配はなかった。
 それでもまだまだ数はいるが、終わりが見えてきたことに精神的余裕が生まれる。
 唯一の不安は、邪竜の姿が見えていることくらいだが、それは他の生徒に任せるしかないと感じていた。
「うむ、いい感じに汗を流せたのだが、残念だ」
「わらわはむしろ早くシャワーに入りたいくらいなのだが、その発想が信じられんよ……」
 上半身を露出させながら清々しい笑みを浮かべる甚五郎に、忌々しそうに羽純は肌に張り付く服の間に手で扇いで空気を送る。
「……上から来ます」
「は?」
 ふいにブリジットが呟いた。何事かと頭上を見上げると、突如目の前に人が物凄い速度で落ちてきた。
 慌てて駆け寄る甚五郎。
「お、おい、だいじ――!?」
「くぅ……」
 だが、落ちてきた人物がジェイナスだと気づいた甚五郎は、思わず足を止めて身構えた。
 しかしジェイナスは甚五郎を一瞥しただけで視線を上空に向けると、すぐにその場を退避した。

「てぇぇぇぇぇい!」

 入れ替わるように降ってきた緋柱 透乃(ひばしら・とうの)が先ほどまでジェイナスがいた地面に拳を叩きこむ。
 地面に亀裂が走り、大きく揺れ、まるで地中から爆発したように大量の土砂が撒き散らされる。
 透乃は立ち上がってジェイナスに楽しそうに笑いかける。
「結構しぶといねぇ」
「悪いな。ここでやられるつもりはないんでね」
 ジェイナスは脇腹を抑えながら透乃を睨みつける。
 地面に叩きつけた透乃の一撃は、ジェイナスの銀の翼を大きくへこませ、抜けたダメージは脇腹を直撃していた。ジェイナスの口の端から薄らと血を垂れる。
 透乃がクスクス笑う。
「悪い? そんなことないよ。むしろ嬉しいかな。おまえにはもっと私を楽しませて――」
 話の途中で透乃が上空から放たれた魔法攻撃の中に飲み込まれる。
「こいつでどうだ……」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が肩で息をしながら降りてくる。
 しかし、隙をついて放ったはずの一撃は、間に入ってきた霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)によって防がれていた。
「透乃ちゃん、大丈夫?」
「感謝するよ、やっちゃん」
 まだまだ元気な様子の透乃に、グラキエスが苦虫をかみ殺したような表情をする。
「まずいな……」
 グラキエス達にとって状況はあまりよくない。

 緋柱 透乃はパワーを活かした正面突破をしかけ、
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が鎖と魔法で支援、
 月美 芽美(つきみ・めいみ)が透乃の邪魔をする生徒を速さを活かして妨害、
 霧雨 泰宏が硬い守りで攻撃の阻止。

 それに対してグラキエスは危険な接近戦を避けて透乃を、
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が魔法で陽子を食い止めに、
 忍のフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が早さで芽美と交戦。

 ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)は負傷していて戦えず、
 忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)も援護をしてくれているが、
 守るのは攻めるよりも圧倒的に厳しかった。

「これ以上はやらせません」
 フレンディスが透乃の背後から斬りかかる。
「させないわ!」
「!?」
 急接近してきた芽美の回し蹴りを、フレンディスは【空蝉の術】で回避する。
 そのまま抜けて攻撃をしかけようとするが、離れた位置から陽子の【カタストロフィ】を食らい、足が止まる。
「このやろう!」
「きゃっ!?」
 ベルクが攻撃を仕掛けて【カタストロフィ】を止めるが、反撃で飛んできた訃刃の煉鎖を死龍魂杖で受け止め、派手に地表に叩きつけられてしまった。
「忍野君、私達がどうにかしますよ!」
「了解です!」
 ロアが戦闘用イコブラを展開し透乃へ襲いかかり、ポチの助が弾幕援護を行う。
 だが、その攻撃を泰宏が盾で受け止める。
「悪いが、今日の私は少し攻撃的だ!」
 泰宏は飛竜の薙刀【透子】を手に戦闘用イコブラを攻撃していった。

 仲間が足止めを行っている間に透乃はジェイナスを狙いにいく。
「させるか!」
 グラキエスが魔法を放とうとすると、透乃は足元に転がっていた機械兵器を投げつける。
「くっ――」
「主、前を!」
 身を反らして回避したグラキエスが魔鎧のアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)の声で透乃に視線を向けると、爆破した時に落下してきた巨大な要塞の外壁が飛んできていた。
 グラキエスは魔力を集中させて、どうにかぶつかる前に破壊するが、その間にジェイナスへの接近を許してしまう。
 拳を振り上げて殴りかかる透乃。
「もらっ――!?」
 すると横から、物凄いスピードで近づいてきた人物が足払いを仕掛けてきた。
「くっ!?」
「ジェイナスさんをやらせない!」
 咄嗟にジャンプした透乃の正面から、遠野 歌菜(とおの・かな)が槍の棒部分で顔面を殴りつけてきた。
「大丈夫ですか、透乃ちゃん?」
 陽子が吹き飛ばされた透乃を守る様に前に立つ。
 すぐに泰宏と芽美も追いつき、透乃は血の流れる鼻を抑えながら膝をついた状態で歌菜と月崎 羽純(つきざき・はすみ)を睨みつけた。
「……もしかして二人も私も邪魔しに来たのかなぁ?」
 透乃は無理やりを笑みを作っていたが、頬が引き攣るほどイライラしていた。
 それに対して歌菜は火に油を注ぐようにはっきり告げる。
「邪魔しますよ! 透乃さんがジェイナスさんとミッツさんの邪魔をするっていうなら、絶対阻止してみせるんですから!」
 すると透乃は――
「ああ……もうさぁ――」

 ――ガァン

「と、透乃ちゃん!?!?」
 突然落ちていた鉄板を拾って頭突きをかます透乃に、目を丸くして驚く陽子。
 顔を上げた透乃の額からゆっくりと血が流れる。
「決めた。邪魔するおまえらを全員殺す。全員殺してデザートにジェイナスを殺し尽くす」
 透乃は立ち上がると、口元に垂れてきた血を舐めとる。
 そんな生徒達の様子を蚊帳の外で窺っていた甚五郎に、ホリィが尋ねる。
「甚五郎、ワタシ達はどうしますか?」
「……う、うむ。とりあえず守る方に協力するか。一応、わしらはミッツに頼まれて戦っているのでな……」


 生徒達が戦闘を行っている間にジェイナスは回復に専念していた。
 透乃に対して余裕な態度を見せていても、ダメージは大きく、武器の変形機能はまともに行えず、翼はボロボロで飛行機能も失っていた。
「ちぃ、かなりやられたな……マカフの奴は何をしているんだ」
 ジェイナスが要塞を見上げると、機械の邪竜は少しずつ大きくなっていくが、マカフからの援護がくる気配がない。
 裏切りを考慮して、翼が治り次第マカフの元へ向かおうと考えるジェイナス。
「ジェイナス!」
 そこへミッツが走ってきた。
「おまえは、ミッツ……まだ元気だったとはな」
「そうでもないさ。今も服の下は血だらけだっての」
 走ったせいで傷口が開き、包帯は血で滲んでいた。
「ふんっ、そんな状態で何しに来たんだ? まさか戦いに来たなんていわないだろうな?」
 少しでも戦闘を避けたいジェイナスは、陰で回復しながら会話を長引かせようとする。
「違う、僕は本当のことを知るために、ここにきたんだ」
「本当のこと? なんのことだ?」
「本当におまえは僕の知っている……幼馴染のジェイナスなのか?」
 ジェイナスが一瞬眉を潜める。
 早く真実を知りたいミッツは、回答を急かす。
「どうなんだ!? 答えてくれ!」
「……何をくだらないことを言っているんだ」
「くだらなくなんか、ない! 大事な事だ。だからちゃんと答えてくれ!」
「それくらい見ればわかるだろう、ミッツ。くだらない質問だ」
 ジェイナスはため息を吐きながら、大げさに首を振っていた。わざと誤魔化して先延ばしにさせる行動だったが、それはミッツがさらに焦らせ、苛立たせた。
「じゃあ、お前は俺の知ってるジェイナスなんだな? 間違いないな?」
「くだらなくて答える気にならん」
「おい、はっきり答えろよ!!」
「いちいちこんなくだらない事に時間を――」
 その時、ミッツのイライラが限界を越した。

「くだらないくだらないって、ごちゃごちゃうるせぇ!
 年下のくせに生意気なんだよ! いいからさっさと答えやがれ!」


 ミッツは銃を取り出して、ジェイナスに向けて発砲した。
 銃弾は頬を掠め、ジェイナスの額から油汗が流れる。
 暫く沈黙が流れ、ジェイナスは舌打ちをして重い口を開いた。
「……ああ、そうだよ。俺はお前の知っているジェイナスじゃない。俺はこいつの身体を奪った奈落人だ」
 ミッツが目を見開いて驚く。
 すると、ジェイナスの口元が歪ませた。
「だが、それがどうした!? この身体は俺の物だ!! それを聞いたところでお前には何もできないさ!」
 勝ち誇ったような笑みを浮かべるジェイナス。それに対してミッツは、ふっと笑った。
「そうでもないさ。中に誰か入っているってんなら、捕まえて叩きだす。それだけだ!」
 ミッツは銃を手にジェイナスに向かっていった。

「おい、あっちでも戦闘が始まったぞ!」
 草薙羽純が甚五郎に話しかける。
「む。仕方ない。わしとブリジットはこちらに残る。ホリイと羽純はミッツの援護に迎ってくれ!」
「了解!」
「わかりました!」
 草薙羽純とホリイがミッツに支援に向かう。
 すると、ブリジットが甚五郎に問いかける。
「当機ブリジットの自爆を承認しますか?」
「こんな時にふざけている場合ではないぞ」
「ふざけてはいません。真面目に提案しています」
 ブリジットがレールガンで攻撃するが、攻撃は盾に防がれてしまう。
 透乃達の戦闘力は高く、しかも連携が取れているのでかなりやっかいだった。
 現状は数で押している部分があるが、ちょっとしたきっかけで戦況が逆転することも十分考えられた。
「そうだな。本当にやばくなった時は頼む」
「了解です」

「今だ!」
「食らってください!」
 草薙羽純が【稲妻の札】で追い込んだジェイナスに、ホリィが斬りかかる。
 空を飛べないジェイナスは受け流しつつ、どうにか攻撃を回避していた。
 生徒達の度重なる攻撃の蓄積で、ジェイナスに疲労の色が見える。
 ジェイナスの足元がふらつき、その瞬間――
「捕まえましたよ」
 背後から忍び寄ったフレンディスがジェイナスを鉤爪・光牙で拘束した。
 翼が機能しないジェイナスは、自身の腕力だけで抜け出そうと試みるが鎖はビクともしない。
「忍風情がっ、離せ!」
「それはできません……マスター!」
「任せろ!」
 ベルクはジェイナスに向けて死龍魂杖かざす。すると、ジェイナスが苦しみだす。
こいつでお前の魂を引き出す!
 ミッツ、ジェイナスに――お前の親友に呼び掛けろ!

「わかった!」
 ミッツは力強く頷くとジェイナスの両肩を掴む。
 そして、大事な友人へ向けて――心の底から叫んだ。
「戻ってこい! 一緒に邪竜の謎を解くんだろ!
 一緒に背に乗って空を飛ぶんだろ!
 一緒に――僕はここいるぞ!

「ぅ――!?」
「来たぞ!」
 ジェイナスの身体から黒い霧状の物質が出てくる。
 すると、透乃が飛びかかってくる。
「やらせるかぁ!」
「それはこっちの台詞だ!」
 グラキエスは透乃に飛びつくと、そのまま地面に押し倒す。
 その間に歌菜が【封印呪縛】を発動する。
「ミッツさんの想いを繋ぐために! 封・印!!
 黒い霧が封印の魔石に吸い込まれていく。
 ジェイナスの気を失い、剣と翼が地面に落ちる。
 封印の魔石に封印された奈落人は、その意思の強さで抜け出そうとする。すると月崎羽純が――
「いい加減、眠れ」
 封印の魔石を破壊した。割れる音が響き渡り――生徒達は戦闘をやめて、辺りが静かになる。
「……ジェイナス?」
「大丈夫です。死んではいません」
 フレンディスの言葉に安心したミッツはジェイナスを抱きしめながら、泣いていた。

 グラキエスが透乃から離れる。
 透乃は満たされぬ感情に声にならない叫びをあげ、グラキエスに殴りかかろうとする。

 その時――要塞から電子の咆哮が聞えてきた。

 要塞を見上げた透乃。口角が吊り上がり、笑った。
「……なんだ。メインディッシュが残ってるじゃん」