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リアクション
第五章 封印作業
「まだかイコナ!?」
「ま、待ってくださいですわ。もうすぐ……」
源 鉄心(みなもと・てっしん)に急かされながら、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は封印の陣を一生懸命描いていた。
「イコナちゃん、急いでください! こちらもそれほど持ちません!」
レガートに騎乗したティー・ティー(てぃー・てぃー)は、襲いかかる≪氷像の空賊≫を流麗な剣技で切り裂く。
だが、一体倒した所で無数に押し寄せる≪氷像の空賊≫からイコナを守りきるのは容易ではない。
「鉄心!」
「わかっている!」
鉄心は走り込みながら≪氷像の空賊≫を倒し、イコナの背後に移動する。
「イコナ! あとどれくらいだ!」
「こ、これで……あれ?」
完成したはずの陣が起動しない。
「あ、あれ、なんでですの??
……あぁ!? 間違ってますわ!? ええっと、ええっと……」
「落ち着け! 落ち着いてやればできる!」
慌てて修正しようとして道具を落とすイコナ。
そこへ、≪氷像の空賊≫が一斉に襲ってくる。
「あわわわわわわわわわ」
「やらせるか!」
魔銃ケルベロスを構えた鉄心は、【トゥルー・グリット】で一気に≪氷像の空賊≫達を打ち抜いた。
そして鉄心はイコナを落ち着かせようと笑顔を作って話しかける。
「ちゃんと守っててやるから、落ち着いて作業をしよう、な?」
「は、はいですわ!」
その後、イコナは鉄心とティーに守られながら陣を描き終えた。
完成した陣は輝きだし、天に向かって光の柱を作った。
「これで大丈夫ですね」
ティーが光の柱を叩くと、コツコツと硬い音が鳴った。生半端な攻撃ではビクともしない硬い柱だ。
≪氷像の空賊≫は柱の完成と共に撤退していく。
どうにか責任を果たしたイコナは、ホッと胸を撫で下ろした。その頭に鉄心の大きな手が置かれる。
「イコナ、御苦労だったな」
「と、当然ですの。これくらいわたくしにかかればたまごジャムのクロワッサンのですの!」
「色々混ざっているぞ」
鉄心の隣にティーが寄ってくる。
「このままでは危険ですね。陣を描くたびに集まる敵の数が増えてます」
「敵も封印の陣を集中的に狙っている証拠だな……」
鉄心は以前≪氷像の空賊≫と戦った時のことを思いだしながら思考した。
――あの時はどうした。どうやって倒した。
「……そうだ。ネクロマンサー」
鉄心は思い出した。以前は≪氷像の空賊≫を消し去るためにネクロマンサーを倒したことを。
「ティー、見鬼で何か見えないか?」
「えっと、ちょっと待ってください……」
ティーは【見鬼】を発動してみるが、死霊や儀式装置で溢れだした生命エネルギーが大量に浮遊し、何が何だかわからない状態になっていた。
「……だめか。仕方ない。地道に探し出すか」
鉄心達は陣を描く作業を他の生徒に任せ、いるかどうかもわからないネクロマンサーを探し始めた。
「さすがにこの数は……」
陣を描こうとするエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は≪氷像の空賊≫に襲われていた。
エースは【我は射す光の閃刃】を放って≪氷像の空賊≫を蹴散らす。
「さすがに描くのと同時進行はつらいな」
「それは僕に対する愚痴ですか?」
エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は両手に持った魔銃モービッド・エンジェルで≪氷像の空賊≫を撃破する。
彼の額には大量の汗が浮かび、笑顔は疲労を隠すかのようだった。
跳躍して敵のど真ん中に飛び込んだエオリアは、素早い動きで【クロスファイア】を放つ。
「段々、こちらを狙ってくる敵の数も増えてきましたね。それだけ、住民の避難が完了したということでしょうか」
「そうだといいけど……ちぃ!」
エースは陣を描くのを中断して、襲いかかってきた≪氷像の空賊≫の攻撃を避ける。
そして、魔力を集中させて【天のいかづち】を放った。
「……さすがに二人で相手をするのは厳しいな」
「ですね」
完成した陣の数が増えるたびに、襲いかかってくる≪氷像の空賊≫の数が増える。
陣の配置が等間隔で十箇所に設置されていることが敵にバレているようだ。
残りは四箇所。急がないと要塞が街に到達してしまう。
「……なら、私達が援護しよう」
ふいに重みを感じる声が聞えたかと思うと、ヴェルザ・リ(べるざ・り)が刀身1メートルほどの大剣で≪氷像の空賊≫を斬り裂いて現れた。
強烈な威圧感を持つにも関わらず、いつの間にか背後に立っていたヴェルザに対して竦み上がる≪氷像の空賊≫。
すると、後ずさった≪氷像の空賊≫がセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)にぶつかる。
「…………」
セリスは透き通った緑色の瞳で≪氷像の空賊≫を見据えると、双龍刀【一閃爪】で真っ二つにした。
「助かるよ! 描き終わるまで頼む」
「…………ぅ」
セリスは首肯すると、ヴェリザと協力して≪氷像の空賊≫の迎撃に当たる。
エオリアは後方支援に。
大振りの重い一撃を叩き込むヴェリザのフォローに入る形で敵を叩いていくセリス。
二人の参戦で幾分楽になったエースは順調に陣を描き始めた。
だが――
「!?」
突然の落雷にまたしても中断せざる得なくなった。
獣の雄叫びが大地を震わす。
≪猿虎の魔獣キマイラ≫が彼らの元に現れたのだ。
「こっちに来たか……」
「私達が引きつける。その間に陣を――」
ヴェルザは≪猿虎の魔獣キマイラ≫の前に出ると、力を溜め始める。
無防備なヴェルザに、襲いかかる拳。それをセリスが【受太刀】で守りながら、適度に反撃を加えて時間を稼ぐ。
「……セリス……合わせるぞ!」
「……」
セリスは飛び上がると同時に刀を鞘に納めた。飛び上がったセリスは回転しながら≪猿虎の魔獣キマイラ≫の頭上を飛び越え、背後に回り、瞬間――
「……ん」
猿の背中に素早く引き抜いた剣戟を叩き込んだ。
「――――!?」
よろめく≪猿虎の魔獣キマイラ≫。
「……追加だ!」
そこへヴェルザが存分に溜めた一撃を正面から叩きこんだ。
縦に振り下ろした大剣が上部分の猿の肩から下部分の虎の額を斬りさく。
「――――――――――――!!!!!!!!!」
悲痛な叫びが≪猿虎の魔獣キマイラ≫の口から漏れ出す。
電流で構成された虎はすぐに傷口を再生するが、猿は違った。
受けた傷から黒い液体がドロドロと流れる。
「これで……半分――!?」
すると、受けた傷口から炎が溢れ出し、猿の身体を黒い炎が包み込んだ。
炎の中に煌く瞳は、先ほどとは比べものにならないくらい凶悪だった。
「――避けろ!」
≪猿虎の魔獣キマイラ≫が体当たりをかましてきたため、生徒達は全員が回避を行う。
だが、≪猿虎の魔獣キマイラ≫が通った後、周囲に巻き起こる落雷までは避けきれなかった。
「っ……大丈夫……」
ダメージがそれほどひどくはないことを確認したヴェルザ。
武器を構えなおして≪猿虎の魔獣キマイラ≫に視線を向けると、≪猿虎の魔獣キマイラ≫は怒りに身を任せるように敵味方関係なく暴れ散らしていた。
その暴れように、すでに陣を描くどころではなくなっている。
エオリアがエースに相談する。
「このままではまずいですね。どうしますか?」
「……仕方ない。一端引こう。
退きながらこいつをこの場所から引き離す」
「了解です」
エオリアはセリス達に行動を伝えると、銃弾を≪猿虎の魔獣キマイラ≫に放った。
「僕らはこっちです。追ってきなさい!」
弾丸は炎の中で溶けてしまったが、度重なる攻撃がうざかったらしく、≪猿虎の魔獣キマイラ≫が雄叫びをあげてエオリアを追いかけきた。
エオリアはエースとセリス達と共にこの場を離れる。
走りながらエースが籠手型HCを取り出す。
「こちらエース。≪猿虎の魔獣キマイラ≫がなかなか厳しい。悪いが誰か足止めを頼む!」
「これでどう!?」
遠野 歌菜(とおの・かな)はパートナーの月崎 羽純(つきざき・はすみ)が引きつけている間に【天の炎】を発動した。
巨大な火柱が≪氷像の空賊≫達を包み込む。
「これで随分減ったよね?」
「ああ、もう少しだな」
羽純は槍を構えなおすと、ゴッドスピードで一気に接近して≪氷像の空賊≫に攻撃をしかけた。
「一気に終わらせるぞ!」
身体を回転させながら斬りつけた攻撃は、複数の≪氷像の空賊≫をバラバラにして空中に吹き飛ばす。
「よし、私だって!」
歌菜も槍を握って羽純に続く。
二人は協力して≪氷像の空賊≫を蹴散らした。
だが、周囲に敵の姿がなくなっても歌菜は難しい表情をしていた。
「う〜ん、ジェイナスさん出てこないなぁ」
歌菜は封印作業をしている近くで敵を大量に倒せばジェイナスが出てくると思っていた。
それはジェイナスが封印を阻止したいだろうと考えたからである。
しかし、街に現れたとの報告は入ってこない。
「どうにかジェイナスさんを誘き出してミッツさんと合わせてあげたいな」
歌菜はミッツとジェイナスの絆を信じたかった。
だからちゃんと話し合うことができれば争わずに済むかもしれない。そうであってほしいと願っていた。
「でも、どうすれば……あれ?」
その時、鉄心達が走ってきた。
「どうしたんですか?」
歌菜は鉄心からネクロマンサーを探しているとの話を聞いた。
「そいつが≪氷像の空賊≫を操っているのね……あ、そうだ!」
それだけ街の攻略に重要な人物を狙えばジェイナスが出てくるかもしれない。
思わず笑みがこぼれる。
「よし! そうと決まったらまずは戦場を把握している人に聞きましょう!
確か、近くに和輝さんの仲間がいたわね!」
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