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リアクション
一方、残る一機の濃緑色“フリューゲル”と対峙していた鉄心たちは一斉に行動を開始する。
『接近戦を仕掛けます……援護してください!』
裁の駆る禽龍との連携で攻撃を仕掛けるつもりだった鉄心だが、肝心の禽龍が新たに表れた敵によって押さえつけられてしまっている以上、作戦は変更せざるを得ない。鉄心の操縦によりマルコキアスはレーザーライフルからアサルトライフルに持ち替えると、乱射しながら濃緑の機体へと突撃する。
シュヴェルトライテの時と同様、大勢の仲間からの援護射撃のおかげで一機に敵機の懐まで肉薄できたマルコキアスは儀式を行って嵐を起こす。自機も巻き込んできりもみ状態になってもなお嵐を巻き起こし続けるマルコキアスだが、巻き込まれた濃緑の“フリューゲル”は何とかその嵐を脱しようとしていた。いかに損傷によって機動性が低下しているとはいえ、その機動性の絶対値は高く、“フリューゲル”は嵐の只中にあっても飛行バランスを維持し続けている。
『信長、俺たちも手伝うぞ』
『うむ。ならば早速、嵐を起こすかのう!』
マルコキアスが起こした嵐を“フリューゲル”が脱しようとした時、接近してきた第六天魔王が同じく嵐を起こす。第六天魔王によって起こされた嵐はマルコキアスの起こした嵐と混ざり合い、より強力かつ複雑な気流となって暴れ狂う。一つならまだしも二つの嵐に巻き込まれてはさしもの“フリューゲル”といえど苦戦は必至だ。
凄まじい規模となった嵐の中、“フリューゲル”だけでなくマルコキアスと第六天魔王も風に煽られながら必死に飛行バランスを保ち続ける。幾度となく墜落と空中分解の危機が訪れるが、嵐の中を舞う三機はいずれの危機もことごとく回避し、何とか耐えきる。そして、嵐が晴れた後、まだ残る風の残滓の中から傷だらけの“フリューゲル”が出てくると、その“フリューゲル”はボロボロの機体でプラズマライフルを構え、残る力のすべてを注ぎ込んで工場に狙いをつける。
もはや墜落寸前とはいえ、あれほどの攻撃を加えてもなお倒しきれなかった“フリューゲル”に垂たちは戦慄するも、すぐにプラズマライフルの発射を止めにかかる。
『誰でもいいっ! 何としてでも止めるんだっ! 絶対に撃たせるなっ!』
垂が叫ぶと同時に友軍機も一斉に動き出すが、間に合わない。そう思われたが――。
『うおおおおおっ! させるかあああああっ!』
雄叫びとともに突っ込んでくる一機のイコン――神条 和麻(しんじょう・かずま)の駆るアマテラスが横合いから新式ビームサーベルを振り下ろし、濃緑の“フリューゲル”を一刀両断したことで工場への銃撃は未然に防がれる。
機体を両断されて大爆発を起こす“フリューゲル”。それを目の当たりにしながら和麻は興奮気味に呟いた。
『や、やった……! “フリューゲル”を倒せた!』
自らの手を見つめながらなおも興奮冷めやらぬ和麻。和麻が興奮で微かに震える両手を見つめていると、唐突に通信が入る。
『邪魔してくれちゃって。手を出さなきゃどっちも無事に帰れたってのにな』
敵機からの音楽混じりの通信と同時にコクピットに鳴り響く接近警報。はっとなって和麻がモニターとレーダーを確認すると、いつの間に現れたのか、自機のすぐ近くには漆黒の機体が佇んでいる。
『う、うおらあああッ!』
咄嗟の反応で和麻は操縦桿を倒し、ビームサーベルを振るう。だが、敵機は一瞬のうちに姿を消した。
『反応速度としては速いほうだな。けどよ、俺に命中させるには遅すぎるかな』
通信越しに和麻が声をかけられた時には既に漆黒の機体は背後にいた。再び咄嗟の反応で操縦桿を倒した和麻は振り向きざまにビームサーベルを振るって背後を薙ぎ払うが、またも漆黒の機体は姿を消した。
『だから言ったろ? 遅え――ってな』
漆黒の機体はまたも和麻の背後を取る。やはり和麻はビームサーベルで背後を薙ぎ払うが、既にそこには漆黒の機体の姿はない。
幾度かそれを繰り返した後、またも敵機から通信が入る。
『その機体――本来持っている性能は相当なモンみたいだけどよ、パイロットのアンタには全く活かせてないぜ』
敵機のパイロットからの言葉に和麻は激昂し、怒りに任せてビームサーベルを振るい、なんとか敵機を落とそうとする。
『俺が……活かせてない……だとッ! でまかせをッ!』
しかし、漆黒の機体は軽々とビームサーベルを避けていく。また例の現れては消え、また現れるを繰り返すような機動で和麻を完全に翻弄していく。
『でまかせかどうか――これが答えだ』
破れかぶれに振るわれたビームサーベルでの斬撃の数々を易々と避けきった後、漆黒の機体はそれだけ告げると、自分も大出力のビームサーベルを抜き、たった一度だけ振り抜いた。振り抜かれた大出力のビームサーベルは和麻の攻撃の合間を縫って命中し、たった一太刀で行動不能になるほどのダメージを与える。
『ちきしょう……俺が……もっと強ければ……強く……なりてえ……!』
歯を食いしばり、悔しさを噛みしめるような声を響かせながら、和麻は機体とともに落下していく。その後、機体がなんとか不時着に成功したのを見届けた友軍各機はほっと胸を撫で下ろすも、緊張感は途切れない。