リアクション
大爆発したイコン製造工場を眼下にして、ファスキナートルは漆黒の機体と対峙する。
『それとせっかくだ――嬢ちゃんの名前を聞いておこう』
唐突な問いかけに佐那は一瞬困惑するも、すぐに毅然とした態度で問い返す。
『一体何のつもり?』
すると漆黒の機体のパイロットは冗談めかしたように言ってのける。
『装甲をブッタ斬ってみたら思ったよりスタイルの良い嬢ちゃんが乗ってたんでな。ってことで可愛い娘の名前を聞きたくなるのは当然だろ? 次は是非、メットの下の素顔を見せてもらいたいね』
その物言いに佐那は激昂して声を荒げると、相手の発言を一蹴する。
『ふざけないで!』
通信帯域に残響するほどに張り上げた佐那の大声の余韻が静まった頃、敵機のパイロットは再び通信を入れてきた。
『なら、こう聞こう……俺の機体に損傷らしい損傷を与えた初めてのパイロット――その名前が知りたい。だから教えてくれ』
先程の冗談めかしたような口調とは違い、その口調はある種の真摯さのようなものすら感じられる。
しばらく考えた後、佐那は憮然とした口調ながらも、漆黒の敵機のパイロットの要求に応じた。
『ジナイーダ。ジナイーダ・バラーノワよ。そちらの名前も教えなさい。まさか、こちらに名乗らせておいてそちらは名乗らないとでも言うつもり?』
留学先での名前を名乗ると、佐那は敵機のパイロットに通信で詰め寄る。すると今度は敵機のパイロットがしばらく考えた後に通信を返してくる。
『来里人の奴は確か……「“グリューヴルムヒェン(蛍)”とでも呼べばいい」とか言ったみたいだったな。なら俺は――』
そこで一拍置くと、漆黒の機体のパイロットは小さな含み笑いとともに告げた。
『――“フォーゲル(鳥)”とでも名乗っておくか』
ファスキナートルへの通信を繋げたまま敵機の機体のパイロット――“フォーゲル”は機体を操作して、漆黒の機体にビームサーベルを納刀させた後に踵を返させると、背を向けたまま残った方の手を揚げてひらひらと振らせてみせる。
『じゃ、またな。また会えるのを楽しみにしてるぜ、ジーナ』
勝手につけた愛称で佐那に呼びかけた次の瞬間、漆黒の機体はトップスピードでいずこかへと飛び去って行ったのだった。