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リアクション
一方、立ち直ったルーシッドとパートナーの和深が駆るゼアシュラーゲンも濃緑の五機のうちの一機に狙いを定め、再びウィンドシールドを構えて突貫する。
「和深くん、行くよ!」
「いつでもオッケーだぜ、ルーシー!」
ただし、今度は先刻のように冷静さを欠いた動きでもなければ、単純で直線的な動きではない。卓越した操縦技術による変幻自在の軌道でゼアシュラーゲンは濃緑の一機へと肉迫する。
変幻自在の軌道で肉薄するゼアシュラーゲンは濃緑の一機を相手に果敢に攻撃をしかけていき、じょじょに圧倒していく。
だが、濃緑の一機も負けてはいない。接近してくるゼアシュラーゲンを大出力のビームサーベルで振り払い、少し距離が開いた瞬間を逃さずプラズマライフルを速射する。
プラズマライフルの銃撃も間一髪の所で避け、ゼアシュラーゲンはなおも果敢に肉薄していく。
僚機の二機が濃緑の機体を相手取る中、黒いプラヴァー――シュヴェルツェ イルズィオンは出力が十分なレベルに達したことでシュヴェルツェ シュヴェルトへと変形し、先程よりも高い機動性を発揮しながらブレイドランスを構え、漆黒の一機へと攻撃を仕掛けた。
パイロットである貴仁の気合いが入った声が蒼空学園の通信帯域を震わせ、その勢いの凄さを物語る。
『黒は良い………黒は。……ですけど! その行動はいただけませんね!!!』
まるで砲弾のように突っ込んでくるシュヴェルツェ シュヴェルトに向き直ると、漆黒の一機は右手一本でそれを受け止め、ブレイドランスを構えた右手を掴むと、凄まじいパワーで捻り上げる。
恐るべきは機体スピードだけではなくパワーだ。もはや超巨大な砲弾、即ち純然たる質量兵器と化したシュヴェルツェ シュベルトを、漆黒の機体は右腕一本で受け止めていた。
そして、背面に装備された飛行ユニットの推進力を活かしてシュヴェルツェ シュベルトを片腕一本で押し戻しにかかっている。
『やりますね! ならばこのシュヴェルツェ シュヴェルトが全力でお相手しますよ!』
再び貴仁の声が蒼空学園の通信帯域を震わせた直後。
突如として蒼空学園の通信帯域に大音量で音楽が流れ出す。
爆音で流れているのはアップテンポで疾走感のあるダンスチューン。歌っているのは若い女性であり、力強い歌声が疾走感のある曲調と一体となって、聴く者の魂を震わせ鼓舞する楽曲を作り上げていた。
どうやら、シュヴェルツェ シュヴェルトと漆黒のフリューゲルが掴み合いをしたことで、接触回線を通して敵機体のコクピットの音声が流れ出してきたようだ。
即ち、敵パイロットはコクピットのスピーカーを使って音楽を流しながら戦闘しているということになる。
『どういう……ことでしょうか? まさか、人が乗って――』
貴仁が困惑気味に呟いた直後、若い男のものと思しき声が蒼空学園側の通信帯域を震わせる。
『おいおい、どうしたよ? そんな呆けた声出して』
語りかけてきた男の声はダンスチューンと重なっており、間違いなく漆黒の機体からの通信のようだ。
敵パイロットが初めてコンタクトしてきたことに蒼空学園の面々は皆揃って驚き、一様に押し黙る。
全員が固唾を呑んで通信機から流れてくる声に耳を傍立てる中、続く言葉が蒼空学園の通信帯域を震わせた。
ややあって一番最初に沈黙から復帰したのは貴仁だ。コクピットの中、誰にともなくまだ驚きの色が色濃く滲む声で絞り出すように呟く。
『まさか……人が乗っていたなんて……!』
蒼空学園の通信帯域を流れていく貴仁の呟き。そしてそれに真っ先に反応したのは他ならぬ敵パイロット本人だった。
『随分な驚きようだな? まるで人が乗ってちゃいけないみたいな言い方だぜ?』
驚きと警戒の感情が声に色濃く出ている蒼空学園の面々とは違い、敵パイロットの声はひたすらに陽気だ。
だが、声の印象とは対照的に漆黒の一機の攻撃は容赦ない。右腕に力を入れ、押し戻していたシュヴェルツェ シュヴェルトを後方まで大きく突き飛ばすと、空いた手ですぐさまプラズマライフルを抜き放ち、周囲で戦っている貴仁の仲間たちの機体に向けて乱射する。
突き飛ばされたシュヴェルツェ シュヴェルトが再び全速力で推進機構を起動し、ブレイドランスを構えてすぐに戻ってきたと同時に手にしたランスを突き出すが、漆黒の一機は左手首一本でシュヴェルツェ シュヴェルトの手首を捻り上げて攻撃を防いでしまう。そればかりか再び凄まじい機体パワーを発揮し、捻り上げた腕をそのままへし折りにかかった。
『勢い、それと機体の色はいいけどよ――単純に機体のスペックが足りてないぜ? プラヴァータイプで俺の機体と正面からやり合おうなんざ無茶だ。わかったらとっとと帰んな。今回は見逃してやるよ』
再び聞こえてくる敵パイロットの声。
どうやら敵パイロットにとって会話することはやぶさかではないようで、その口調もどこか楽しんでいるようにすら思える。
それに対し、貴仁も敢えて不敵な調子を余裕を強調し、痛烈な皮肉を叩きつけるようにふてぶてしく言い放つ。
『ご忠告どうも。では、もらってばかりじゃ何なのでこちらも忠告を――自分ではなく機体のスペックが高いのを余裕の出所にしている貴方がプラヴァータイプの俺と正面からやり合おうなんざ無茶だ。わかったらとっとと帰んな。今回は見逃してやるよ』
わざとらしく口ぶりを真似た挑発の直後、敵パイロットからの通信音声に乾いた笑いが混じる。
『はは……っ! 随分と言ってくれるじゃないか! 生憎、俺は無茶が嫌いじゃないんでね! ってわけで――やり合わせてもらうぜ、正面からなぁッ!』
漆黒の一機はシュヴェルツェ シュヴェルトの腕を捻り上げる力を更に強めたようで、鋼鉄の腕が軋む音が急激に大きく、そして激しくなる。
『どうした? 機体スペックだけじゃないんなら、とっととこの状況を覆してみせろよ? えぇ? シュヴェルツェなんたらァ!』
捻り上げられたシュヴェルツェ シュヴェルトの腕がへし折れるまさにその瞬間――。
『……なッ!?』
漆黒の一機を駆るパイロットの驚愕の呻きとともに凄まじい高エネルギー体が、同じく凄まじいスピードで戦場を通り過ぎていく。
咄嗟に捻り上げていた手を放すと同時に飛行ユニットを全力噴射して飛び退かなければ今頃、漆黒の機体は木端微塵になっていただろう。もっとも、パイロットの操縦技量と機体のスペック両面において尋常ならざる高さが求められる絶技であり、本来ならば反応しきれずに直撃ないしは、機体をかすめるのは免れず、そしてほんの少しでも掠めれば甚大なダメージは免れない。
その関係上、本来ならば避けられるはずのないものであり、この高エネルギー体の正体が艦砲射撃として発射された重力波砲であると認識する間もなく撃墜されても何ら不思議ではないし、むしろそちらの方が自然であるとすら言える。
この攻撃は漆黒の機体のパイロットだけでなく、貴仁にとっても予想外だった。
既に救援要請を出してからある程度の時間が経っている以上、そろそろ救援が来てくれる頃だと思っていた貴仁だが、まさか周囲に機影が確認できないほどの距離から、しかもあれだけの強力な大出力兵器で援護をしてくるとは思わなかった。それでいて敵と接触していたシュヴェルツェ シュヴェルトノの安全はしっかりと確保された射角であったことも、貴仁にとって同等かそれ以上に驚きを禁じ得ないことであった。
――もはやこれは艦砲射撃ならぬ『艦砲狙撃』だ。こんな人間離れした技をやってのけるとは、一体誰なのだろうか?
貴仁は勿論、蒼空学園の面々は皆一様に気になるのを禁じ得なかった。もしかすると敵機のパイロットたち――特に漆黒の機体のパイロットも同じ気持ちかもしれない。
だが、たった一人――ハーティオンだけは違ったようだ。
確信に満ちた声でハーティオンは声高に叫ぶ。まるで件の絶技をやってのけた人間離れしている射手が誰であるか知っているかのように。
『来てくれたか!』
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