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学生たちの休日9

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学生たちの休日9
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    ★    ★    ★
 
「ごめんなさーい、遅くなってしまいましたあ……あれっ?」
 世界樹地下の公園に、セリーナ・ペクテイリス(せりーな・ぺくていりす)と一緒にやってきたリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)が、中央噴水の周りをグルグルと走り回っているナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)を見て小首をかしげた。
 マーガレット・アップルリングが見つけた追いしてクレープ屋さんとやらに、みんなででかけるはずだったのだが。
 ちょっと遅刻してきたのがいけなかったのか、状況がよく呑み込めない。いったい、ナディム・ガーランドとマーガレット・アップルリングは何をしているのだろう。
「あらあら、仲良しさんだねぇ」
 ルールはよく分からないが、またぞろ新しい遊びでも考えついたのだろうと、セリーナ・ペクテイリスがのほほんと微笑んだ。
「とにかく頑張れー」
「頑張れじゃないぜ、二人とも姫さんを止めてくれ!」
 何か手に持った物を高く掲げながら、ナディム・ガーランドがリース・エンデルフィアたちに救いを求めた。
「えっと、止めるのですか?」
「違うの、手伝ってよ!」
 戸惑うリース・エンデルフィアたちに、今度はマーガレット・アップルリングが叫んだ。
「ナディムったら、ラブレターもらったのよ。ラ・ブ・レ・ター! 生意気だから、誰からもらったか、公開処刑なんだもん!」
 ピョンピョンと、ナディム・ガーランドの持つ手紙をジャンプして奪い取ろうとしながら、マーガレット・アップルリングが言った。
 ナディム・ガーランドに絶賛片思い中のマーガレット・アップルリングとしては、絶対に誰からのラブレターか確認してやるという闘志に燃えている。ライバルがいるのなら、誰なのか知らなければ戦えない!
「まあ、ラブレターですってぇ」
「ナディムさんがラブレター!?」
 セリーナ・ペクテイリスとリース・エンデルフィアが思わず顔を見合わせた。相手の女の子が想像できない。
「でも、女の子とは限りませんわよねぇ……」
 思わず、セリーナ・ペクテイリスがナディム・ガーランドの性格を鑑みてつぶやく。
「なんですってえ!!」
 その言葉が、マーガレット・アップルリングの嫉妬心にさらに火をつけた。もはや、なりふり構わず、体当たりするような感じでナディム・ガーランドにぶつかってくる。
「ううっ……」
 盛んにバストアタックを食らって、どうしたらいいか分からなくなってきたナディム・ガーランドが呻いた。
 実際、手の中にあるのは、ティル・ナ・ノーグからの密書だ。早く本来の使命である姫探しをしてこいとしか書かれていない。さっさと処分してしまえばよかったのだが、運悪くマーガレット・アップルリングに見つかってしまい、とっさにラブレターだとごまかしたのがいけなかった。おかげでこの有様だ。
 もともと、探している姫はセリーナ・ペクテイリスに違いないとナディム・ガーランドは思っている。ところが、本人は認めてくれないし、ドラゴニュートであるはずの姫はなぜか花妖精になってしまっている。
 いずれにしても、命令で探しに来たと分かれば、セリーナ・ペクテイリスは態度を硬化させてしまうかもしれない。それはまずい。ここはなんとしても、ラブレターで通すしかないと覚悟を決めるナディム・ガーランドだったのだが。
「ええい、ここは逃げるが勝ちだ!」
 ナディム・ガーランドが、公園の出口にむかって一目散に走りだした。
「ああ、つかまえて!!」
 おいてきぼりを食らったマーガレット・アップルリングが叫んだ。
「えっ? ええっ!?」
 うっかりナディム・ガーランドの進路上に立ちすくんでしまったリース・エンデルフィアが、逃げ遅れてパニックになる。
「リース、そこをどけ……」
「いやあ!!」
 突き飛ばしかねない勢いで迫ってくるナディム・ガーランドに、リース・エンデルフィアが無意識のうちにカウンターでマジックブラストを放っていた。
「うぼあ〜」
 吹っ飛ばされたナディム・ガーランドが、マーガレット・アップルリングを飛び越えて噴水に着水する。
「やったあ。もう逃がさないよ!」
 マーガレット・アップルリングが、ナディム・ガーランドから手紙を奪い取ろうとした。だが、魔法攻撃を受けてぼろぼろになっていた上に噴水の水に濡れた手紙が、脆くもマーガレット・アップルリングの手の中で崩れるように溶けていった。
「ああっ、証拠の手紙があ……。こうなったら、直接白状させてやるんだもん!」
 そう叫ぶと、ジャブジャブと噴水の水の中に入っていったマーガレット・アップルリングが、気絶しているナディム・ガーランドの胸倉を掴んでブンブンと振り回した。
「あらあら、元気ですわねえ」
 可愛いものでも見るようにセリーナ・ペクテイリスが言うが、そんな可愛いものではない。
「いったい、いつになったらクレープ屋さんに出発できるんだろう……」
 リース・エンデルフィアは、そう言った小さく溜め息をついた。