校長室
学生たちの休日9
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★ ★ ★ 「いいソファーあるかなあ」 ショッピングモールの家具売り場にやってきた及川 翠(おいかわ・みどり)が、売り場いっぱいに所狭しとならんだソファーを前にして目を輝かせた。 「みんな一緒に座れる大きいのがいいよね。いつも、座る場所が取り合いになっちゃうから、のんびりできるのがいいなあ」 『世界すてき発見!』コミュでのお茶会では、いつも椅子取りゲームになってしまうことを思って、シルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)が言った。あぶれてしまうと、ダイニングの椅子に座るか、予備の丸椅子を引っ張り出すことになってしまう。せっかくテーブルは大きい物があるのだから、全員が一緒にくつろげるソファーはみんなの夢でもあるのだ。 「そうだよね。大きければ、そこで寝ることだってできるもんね」 「お泊まりのときのベッド代わりですか。それもいいよね」 そういう使い方もありだと、及川翠がリキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)にうなずいた。そうすると、ソファーベッドのタイプになるだろうか。完全にベッドの機能を持ってはいなくても、たいていのソファーは人一人なら寝転べるサイズはありそうだが。 「それはいい。できれば、背もたれが倒れるリクライニングタイプがよいのう。真っ平らにできれば広くなるし、二人ぐらい寝ても大丈夫かもしれぬ」 よく自宅のソファーでそのまま寝てしまう神凪 深月(かんなぎ・みづき)がリキュカリア・ルノに賛同した。 「うーん、こういうのは丈夫でシンプルなのがいいんだよね。あまり動く所があったりすると、みんなの使い方じゃすぐに壊しちゃいそう。特に、うちの男どもがねえ〜」 今日は女の子だけのショッピングなので、綺麗にハブられた男どものことを思ってネスティ・レーベル(ねすてぃ・れーべる)が言った。 「うーん、可愛い模様のソファーも捨てがたいよね。あの、クマさん柄のソファーなんかどうなんだろう」 「男どもが悶絶しそうだよね。あっ、でも、それもちょっと面白いかも」 及川翠が見つけたクマさんの形をしたソファーを見て、ネスティ・レーベルがちょっと悪戯っぽく言った。 「これなんか、珍しいんだもん」 そう言ってネスティ・レーベルが見つけたのは、上が畳になっている移動式のボックスだ。背もたれはないが、ちょっとした腰掛けにはなるし、組み合わせれば寝転がれる畳敷きにも、テーブルにもなる。 「それは、お茶を飲むにはよさそうじゃのう」 ちょっと神凪深月が興味を示す。 「でも、それって、ソファーと呼ぶにはねえ……」 ちょっとイメージが違うと、リキュカリア・ルノが難色を示した。 「ねえ、こっちこっち。こっちにおっきくて座りやすいソファーがあるよ」 オデット・オディール(おでっと・おでぃーる)が大きいソファーを見つけて、その上でポンポンとはずんだ。 「ほんとだ。結構ふかふかだよ」 隣に座ったシルフィア・レーンが、オデット・オディールの動く反動でポヨンポヨンしながら言った。 「でね、このレバーを引くと……」 言うなり、オデット・オディールがソファーの脇についているレバーを倒した。とたんに、背もたれが倒れてソファーが平らになる。 「はうっ!?」 いきなり倒れ込んだシルフィア・レーンが、反動で足を投げ出してソファーの上ではずむ。 「これ、少しは加減するのじゃ」 ちょっと危ないかもと、神凪深月が注意した。 「これなんか、組み合わせ式のソファーよ。ぐるっと曲がってならべたりもできるみたい」 あまりまっすぐでも置き場所がないと、配置を変えられる組み合わせソファーを見つけてリキュカリア・ルノが言った。 「うーん、迷うんだもん。こうなったら、店長さんを呼ぶの!」 悩みすぎた及川翠が、わけが分からなくなってそう叫んだ。なんだか分からず呼び出された店長が、さっそくお勧めのソファーを見繕う。 「これですと、三人がけの物と一人がけの物が二つずつになりまして、ちょうどテーブルを囲むように配置できます。お部屋がお広いのでしたらお勧めです。背もたれは全て電動のリクライニングになっておりまして、ゆっくりと安全に、しかも、好きな角度で固定することができます。完全に平らにしてしまえば、大きい方のソファーは完全にベッドになるんですよ。つなぎ目もありません。小さい方は、手摺りがありますから小柄な人でしたら落ちることなく寝ることもできますが」 店長の説明に、全員一致でそのソファー一式の購入を決める。ちょっと高かったが、なんとか予算範囲内だ。 「ソファーベッドにするなら、枕になるクッションも必要だよ」 瀬乃月琥が、ちょうどいいクッションはここで売ってないのかとキョロキョロした。 「クッションかあ、アクセサリースタンドもほしいなあ」 ネスティ・レーベルも、いろいろと買いたそうに周囲を見回す。 「それじゃあ、みんないろいろ買いたい物があるみたいだから、移動しようよ。ソファーがついたら、またあらためてみんなでお茶しようよね」 「はーい」 及川翠の言葉に、みんなで同意すると、一同はショッピングモールの中を移動し始めた。 ひとまずは、瀬乃和深がほしがったクッションを物色する。 一人がクッションを買うと、他の子たちも自分専用の物がほしくなるらしい。それぞれが違ったデザインのクッションを買って持ち帰った。ピンクのハートクッションに、麻の座布団に、低反発のドーナッツクッションに、ボールのような球体に、ゆるゆるのキャラクタークッションに、レース飾りの美しいクッションに、野菜型クッションと、バリエーションにとんでいる。 次にむかったのが、アクセサリーショップだ。ネスティ・レーベルのほしがったアクセサリースタンドをいろいろと見て回る。 「これなんかいいかなあ」 木でできたボックスを開くタイプのアクセツリースタンドを見つけて、ネスティ・レーベルが言った。 「わあ、可愛い」 リキュカリア・ルノの希望でやってきたファンシーショップでは、一同の目がらんらんと輝くことになる。ふわふわもこもこのぬいぐるみに、みんな狂喜乱舞してもふり放題だ。 「これがいいかな……」 肝心のリキュカリア・ルノは、猫の編みぐるみを気に入ったようだ。 「最近、東雲が元気なくって、好きな編みぐるみも作っていないんだ。これを見て、少しは元気になってくれるといいんだけれど……」 そう言いながら、リキュカリア・ルノは大切そうに編みぐるみをレジへと持っていった。 「ここよ、ここ。このお店よ」 そろそろお腹が減ってきた一同をシルフィア・レーンが案内してきたのが、お昼限定のケーキバイキングの店だ。 これはもう、嬌声をあげながらみんながケーキを集めてテーブルに戻ってくる。まるでイナゴが通った後のように、大皿には何も残ってはいない。 「いただきまーす」 「おかわりー」 「早い、早いよー」 はたして、いったい何キロの生クリームとイチゴとカスタードと生チーズとチョコレートが彼女たちの胃袋の中に消えていったことだろうか。いや、あえて問うまい。