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学生たちの休日9

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学生たちの休日9
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『運んできましたですぅ』
 朝野 未那(あさの・みな)の乗る大型飛空艇AFS−d’Arcが、朝野ファクトリーの作業場にコンテナを下ろした。中には、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の流星型イコン魂剛が入っている。
「はーい、中に移動させてよね」
 朝野 未沙(あさの・みさ)が指示して、イコンガレージにコンテナを運び込んだ。開閉ボタンを操作して、コンテナを展開する。中からは、先の戦いで大破した魂剛が現れた。頭部はなくなり、胴部は大破、四肢もまともな形状をしていない。
「鬼鎧は特殊ですから。専用パーツは明倫館から持ってきてありますんで」
 紫月唯斗が言うように、コンテナの中には鬼鎧用の特殊パーツが大量に積まれていた。
「予算はいくらでもあるって言うから、派手にレストアするよー」
 朝野未沙が、朝野 未羅(あさの・みら)、朝野未那、ティナ・ホフマン(てぃな・ほふまん)らに元気よく言った。
「いや、適正価格で頼みますよ」
 ちょっと怖くなって、紫月唯斗が一応釘を刺す。
「資材は、だいたい予想通りね。足りない分はストックから出して、後は発注と」
 パーツリストを確認しながら、朝野未沙が言った。見た目でも、これは時間のかかる作業になりそうだ。今日一日だけでは、簡単な作業見積もりまでといったところだろうか。
「フレーム部分は、私が担当なの」
 朝野未羅が、外装を外されて骨格フレームと人工筋肉がむきだしになった魂剛をチェックしながら言った。フレームの歪みを、スキャニングして逐一調べていく。歪みが残っていれば、応力集中で突然破壊する場合もありえる。それ以前に、金属疲労もなかなかに見逃せない問題であった。
「配線とか、フレームの内部に通せますでしようかぁ」
 朝野未那が、配線の安全性を考えて、フレーム内部の中空部分にケーブルを通そうとしていった。配線がすっきりするが、ややメンテナンス面ではやりにくくなりそうだ。一応、朝野ファクトリー所蔵の流星型AFI−HNBの内部構造を参考にしてはいるが、ラインの変更はかなりの大仕事だった。
「外装は、根本から作り直しね。もっと格好よくしないと」
 ティナ・ホフマンが、外された外部装甲をさっさと廃棄しながら言った。紫月唯斗の要望では、外部装甲の各所にブースターを仕込み、腰部スラスターと背部メインスラスターによる急加速に耐える物にしたいらしい。紫月唯斗はそのシステムを「天翔」と呼びたいらしいが、言うは易し行うは難しである。
 だいたいにして、流星は砲撃主体の大型イコンである。そのためもともと空中戦用には作られていないのと、その巨体から来る重量から、静止慣性がとてつもない問題となる。それを振り切っての加速を可能とするブースターなど、ほぼ機体と同じぐらいの大きさになってしまうだろう。それを補うために、装甲全体にブースターを隠し持とうというのだが、ノズル部分を確保するためには、装甲部にスリットなどが必要になる。そういう意味では、和の甲冑風の鬼鎧は草摺などのデザインが意外と相性がいいわけではあるが、システムを内装する段階でそれなりの内容積を確保できる装甲形状や放熱などの問題が山積みとなる。はっきり言って、デザイン再設計なみの大仕事だ。
「難しい注文をしてくるよね。でも、やりがいはあるんだもん」
 人工筋肉の配置を再設計しながら、朝野未沙がパソコンでシミュレートを行った。鬼鎧は鬼の身体構造を原型としているため、イーグリットなどとは根本的な違いがある。その最たる物がアクチュエータに当たる人工筋肉で、これは明倫館にある鬼鎧用パーツ以外では代用がほぼ不可能だ。鬼の筋肉をそのまま移植したとも噂される人工筋肉は、鬼の血と呼ばれる液体を補充しないと活動しない。筋電位伸縮繊維のような人工筋肉とは似て非なる物であった。
「なんとかなりそうか?」
 ちょっと心配になって、紫月唯斗が朝野未沙に訊ねた。
「それなりの形にはして、引き渡すんだもん。期待しててよね」
 基本的に、イコンはコア部分はブラックボックスで手が出せない。そのため、一般で行えることは、実は換装に当たる部分のみである。いわゆるパーツ交換と言うことだ。その応用で、カスタマイズしたパーツに交換することで、イコンのアセンブリが可能となる。
 今回も、実質いじれる場所だけをいじるわけだが、うっかり変な所を変更してしまい、まったく動かなくなる可能性も充分にある。そのへんはある程度賭かもしれない。特に、ベースとなる機体の特徴と真逆の方向性でカスタマイズする場合、それが最適化となるかは非常に難しい場合がある。
「それより、例の報酬は、ちゃんとしてるよね?」
 朝野未沙が、何やら紫月唯斗に念を押した。
「それはその、ちゃんと連れては来ている……」
 なんだか歯切れ悪く、紫月唯斗が、少し離れた所でエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)を手伝っている紫月 睡蓮(しづき・すいれん)を視線で示した。
「うふふふふ。じゅるり」
 なぜか、朝野未沙が嬉しそうに口許を拭う。
「ううっ……」
「どうしたのか?」
 急に両手で自分の身体をだきしめた紫月睡蓮に、エクス・シュペルティアが聞いた。
「いえ、なんだか、急に悪寒が……」
「寒くはなさそうであるが……」
 もうほとんど裸という感じで大胆に作業着の前をはだけているティナ・ホフマンを見やって、エクス・シュペルティアが言った。
「ちょっと意味が……。それよりも、操縦システムの方はなんとかなりそうですか?」
「一応、ダイレクトモーションフィードバック式にしようと思うのだが……」
 あまりうまくいってないという顔で、エクス・シュペルティアが答えた。
 本当は、BMIの導入をしたいところなのだが、さすがに天御柱学院固有の技術は簡単には流出しない。現状では、単純にパイロットである紫月唯斗の動きをトレースするにとどまっている。もちろん、感覚などの一体化も現時点では不可能だ。そのため、逆にそれを利用した無反動のよさを追求すべきか、完全な感覚の一体化を求めるべきか、デザイン的にも技術的にも悩むところで問題は多い。
 今回の改修で、魂剛がどれだけ理想に近づけるかは未知数ではあるが、パワーアップすることは間違いがないであろう。それは、謎のイコンへのリターンマッチへと繋がるはずだ。
「さて、長期戦は必須であろうから、そろそろみんなの食事を作るとするかな。手伝ってくれるかな?」
 そう紫月睡蓮に言うと、エクス・シュペルティアは手を休めて、厨房の方へと二人で歩きだした。