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リアクション
「――まてリーラ、何だそのメイド服は?」
似たような状況に置かれた男が、もう一名いた。
男性用簡易更衣室前。柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は本来の制服であるウェイター服を手にしたまま、リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)に詰め寄られている。
「何って、とっておきの服よ〜」
リーラは自慢げにそうのたまうと、イヌ耳メイド服を押し付けた。しかも、リーラが持参したものという用意周到っぷりである。
「エクステも用意してあるわ〜」
「そういう問題じゃないだろう!? 大体俺は男で――」
真司の言葉が聞こえたかのようなタイミングで、すぐそばをあさにゃんが通り過ぎた。
「……いや、見た目が女に見えるならまだしも、俺は見た目も男で――」
またもやそう言った直後、真司の目の前を鴉がぶつくさ言いながら歩いて行った。
「……ああ、仕方ない。メイド服までは百歩譲るとして、イヌ耳は――」
二度あることは何とやら。今度はイヌ耳を生やしたリアトリスが駆け抜けた。
「ああ、分かったよ。着ればいいんだろ着れば……」
ことごとく言い訳を挫かれた真司は、半ば諦めを滲ませながらリーラのメイド服を受け取った。
「そうそう、それでいいのよ〜。きっと似合うわ〜」
真司は、受け取ったメイド服一式をまじまじと眺めた。
ロング丈のチューダーメイド服。黒髪のロングストレートのエクステ。イヌ耳の他、イヌの尻尾まで用意されている。
「……」
「簡易更衣室はそっちよ〜」
真司の躊躇いを打ち払うように、リーらの催促が入る。真司はひとつ頭を振って、更衣室へと向かった。
「やっぱり、うちの旦那様は可愛いですねぇ」
レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、満足そうな笑みを浮かべた。
「仕事が終わったら、いっぱい撫でてあげましょうねぇ」
レティシアはそう言ってから、ちらりとミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)の頭の辺りに目をやった。
「……私は絶対につけませんからね」
レティシアが言葉を紡ぐ前に、ミスティは宣言する。
ミスティの頭には、ケモ耳ではなく普通のカチューシャが付いていた。
「折角の機会ですけどねぇ。ネコ耳メイド化計画が進行しているそうですしねぇ」
「折角も何もないです。というか、何ですかその計画は」
ミスティの言う「その計画」を立てたのは、ルーシェリアとルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)だった。二人は控え室で、早くも計画の密かに祝っているところだった。
「和輝さんたちのネコ耳メイド化計画、ひとまずは上手くいきましたねぇ〜♪」
「早速写真に収めなくては、ですぅ」
今度はメイド服の胸元からカメラを取り出すルーシェリア。
ルナはふよふよと辺りを浮遊しながら、小さく首を捻る。
「このメイド服、どういう仕組みになっているんでしょう〜……?」
「この服かわいい〜! 接客やろうっと♪」
そんなルナのすぐ後ろでは、アニス・パラス(あにす・ぱらす)がメイド服の入った段ボールを漁っていた。
「ここで着替えていいんだよね〜? ちょっと待ってて!」
そう言うなり、アニスは簡易更衣室へと突入した。
「あ、ちょっと!」
スノー・クライム(すのー・くらいむ)が慌てて声をかけるが、アニスには届かなかったらしい。
……ほどなくして。メイド服姿のアニスがカーテンを開けて現れた。
「じゃ〜ん! 見て見て、どう〜?」
「ほら、そんなにハシャがないの」
飛び跳ねてみせるアニス。
「ああ、もう、スカートが捲れちゃうでしょう」
スノーはアニスのスカートをさっと直すと、微笑みながら小さく息を吐いた。
「私もサポートしますよぉ〜♪」
飛んできたルナが、アニスの肩に座った。アニスの傍を飛んでいる機晶妖精と共に、アニスの行動を手伝うつもりだった。
「こんなにたくさん集まってくれてありがとう!」
ホール一帯に集まった人々。セラ・ナイチンゲール(せら・ないちんげーる)は辺りを見回して、嬉しそうに笑った。
「初めての人もそうじゃない人も、今日と明日よろしくね!」
ヴェロニカ・シュルツ(べろにか・しゅるつ)の言葉に、メイドたちの歓声が返された。
ホールを見渡すと半数以上が男の娘メイドだが、皆女性陣にバッチリと化粧を施されている。
彼らの大多数は、女であると言われても納得できそうな見た目になっている。
何だかんだと言っていた鴉は、ちぎのたくらみで美少年化しており案外ノリノリだ。
真司はエクステと化粧ですっかり男の娘メイドの仲間入りを果たしていた。
「みんな、頑張っていこう!」
セラとヴェロニカの言葉を皮切りに、ロシアンカフェのメイドデーは幕を開けた。
開店と同時に客が一斉に押し寄せ、店の前には初めから行列が出来上がっていた。
詩穂は寿子と一緒にカウンターとホールを行ったり来たり。
真司は、いつの間にか客席に座っているリーラにひたすらビデオ撮影され。
あさにゃんもルシェンに写真を撮られながら、アイビスと一緒に対応に追われている。
女性声で接客をする和輝は、女性客にお姉さまとしてモテている。
アニスは、ルナの作りだした氷の結晶を身にまといながら、スノーとホールを飛び回る。
リアトリスは、男性客に「リリーちゃん!」と呼ばれて引っ張りだこ。
レティシアは、そんなリアトリスを見ながら、ミスティと明るく接客をする。
ネコ耳をつけてネコのポーズをする鴉を見て、満足げに頷くルーシェリア。
開店早々、ロシアンカフェは大盛況である。
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