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4章 「脅威」


 〜領地内・平原〜


「がああッ!」

 黒い霧の塊による打撃を受け、強い衝撃が御凪 真人(みなぎ・まこと)の身体を襲う。
 足を地面に踏ん張り、後ずさっただけで吹き飛ぶには至らなかった。

 次々とリールから放たれる黒い霧の塊が真人に迫った。
 オーバークロックで上昇した判断速度で瞬時に魔法を選定。発動。
 魔杖シアンアンジェロから繰り出された雷術と凍てつく炎は、黒い霧を全て打ち消した。

「まずいですね……完全に防戦一方です。なんとか彼女を元に戻す方法があれば……」

 リールは音もなく接近し、右手に黒い霧を収束させ黒い大鎌を生成。
 真人目掛けて振りおろした。

「うわっ! 考える暇すら、与えてもらえないようです、ね……ぐっ、なんて力だ……」

 辛うじて魔杖シアンアンジェロで大鎌を受け止めたものの、強い力で押し込まれ、
 真人の足は地面にずぶずぶと埋まりかけている。
 何の感情もないリールの黒く淀んだ瞳が真人をまっすぐに見ていた。

 バーストダッシュで急接近してきたセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)がリールの横っ腹に膝を打ち込む。
 速度の乗った膝打ちは、リールを大きく吹き飛ばし真人の窮地を救った。

 吹き飛ぶリールは体勢をすぐに整え、黒い霧を機関銃の弾丸のように連射する。

「ああああああああああああああッ!!!」

 リールの叫びと共に飛ぶ黒い弾丸は、セルファ目掛けて集中。セルファは高度を上げ、弾丸を回避。
 速度を上げ、リールに接近し、数度攻撃を仕掛けるもその全ては受け止められてしまう。

「なかなかやるわねッ! それなら!!」

 バックステップから距離を開けると、セルファは武器を構えて高速でリールに突進した。
 リールは反応すらせずに、直立不動。

「いっけええぇぇーーッ!!」

 リールに直撃する寸前、黒い霧の壁が出現し、攻撃は防がれてしまった。
 黒い霧はセルファに纏わりつき、その動きを完全に止める。

「な……に、これ……すごく、気持ちが……悪い……」

 セルファはゆっくりと地上に降下し、膝をついてしまう。
 真人が駆け寄り、セルファに声をかける。

「セルファッ! 大丈夫ですか!!」

 既に纏わりついた黒い霧はなくなっているが、その表情は疲れたものに変わっていた。

「あはは……ごめん、身体に……力が入らなくて」
「いえ、無事ならばいいんです」

 攻撃を受ける事を警戒して、リールの方を向く真人であったがリールは既に真人達の方を見ていない。
 屋敷のある方角、町の方を見ていた。
 そのままリールは真人達や他の契約者に目を向けず、町の方へと飛び去って行った。

 一方、倒れたシエルのそばではモーベットが懸命に治療を行っている。
 傷は深いものの、急所を外れており致命傷には至っていない。

「急所をわざと外されている。あの暗殺者……もとより殺すつもりはなかったという事か」
「うう……リー……ル……」

 シエルはモーベットの治療のおかげで、一命を取り留めた。
 契約者達はリールを追いかける為、シエルを連れて町の方へと向かう。


5章 「死を運ぶ闇」


 〜領地内・屋敷〜


「そろそろ……だな」

 クリムは長剣を鞘から抜き、窓の方を向いて構える。
 さして時間も経たずに、窓が割れリールが部屋の中に侵入してくる。

 大鎌がクリム目掛けて数度振り下ろされるが、クリムは長剣でそれを難なく捌く。

「この程度の力ならば……むっ!?」
「あああああああああああああああああああああああああああーー!!」

 叫び声をあげ、リールが周囲に黒い霧を放出する。
 咄嗟に距離を取ったクリムに鋭い刃へと変化した黒い霧が襲い掛かった。

「うぐわあああーーッ!」

 黒い刃によって斬り刻まれたクリムはその場に膝をついた。
 その体からは致死量とまではいかなくとも、多くの血が流れていた。

「ぐ、油断したか……このままでは……術式を発動する前に……」

 その時、部屋の扉が開き、カル・カルカー(かる・かるかー)夏侯 惇(かこう・とん)が部屋に入ってくる。

「クリム様! 何事で……うわっ!?」

 リールから音もなく放たれた黒い刃がカルを襲う。カルに命中する直前、夏候がバトルアックスを振るい、
 黒い刃を吹き飛ばす。

「ずいぶんと物騒なお嬢さんだな……これは最初から本気でいかんとまずいかもしれん」

 夏候はバトルアックスを握りなおすと、リールとの距離を測り警戒しつつ間合いを詰めていく。
 その後ろでカルもアーミーショットガンを構え、射撃体勢を取る。

「援護します! クリム様ッ!!」
「助かる……これからとある術式の発動に入る、その間リールの足止めを頼む!
 決して命を奪うな!」

 クリムの指示を聞き、夏候がリールに突進する。
 容赦なく放たれた黒い刃をバトルアックスで吹き飛ばしながら、接近。
 目前まで辿り着き、バトルアックスを振り下ろすも、突如出現した黒い霧の壁によって防がれてしまう。

「なんだッ!? この黒い霧はッ! 武器が……!」

 黒い霧は武器に纏わりつくように伸び、夏候が引き抜こうとしても、びくともしない。

「今、助ける!!」

 カルは走り、飛び交う黒い刃の真下を滑り込むように回避しながら、夏候の元に辿り着く。
 腰だめにアーミーショットガンを構え、斉射。弾丸はバトルアックスに命中し、衝撃で黒い霧から
 解放することに成功する。

 衝撃で多少よろめきながらも後ろに下がり、リールから距離を取る夏候。

「団長の部屋はこっちだったか……何か話が聞けるといいんだが」

 開きっぱなしだった扉から柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が現れる。
 恭也は戦闘中の状態に気づき、咄嗟に戦闘態勢を取った。

 直後、地面から黒い刃が出現し恭也に向かって襲い掛かる。
 居合の刀を抜き放ち、黒い刃が接近する前に両断。事なきを得た。

「いきなりかよ……まったく、話を聞きに来ただけなんだが、そうも言ってられないようだな」
「契約者か、ある術式を発動するまであと少しかかる。協力を頼めるか?」
「……この状況で、しないって言えるわけないだろ。その術式が発動すれば、状況は変わるんだな?」
「ああ、その通りだ」
「めんどうだが、仕方ねえ。手を貸してやる」

 襲い掛かる黒い刃を魔銃オルトロスで撃ち落しながら、先に戦っていたカルと夏候に声をかける。

「お前ら、バラバラに戦ってても意味がねぇ。術式が発動すれば状況が変わるってことは、
 団長を守るのが最優先、攻めるよりも防戦に徹しろ」

 恭也の声に反応し、カルと夏候は団長を守るように展開し始める。
 飛び交う攻撃からクリムを守り、数刻の時が立ち、部屋の床に魔方陣が出現、明滅し始める。

「よし、準備は整った! 発動するぞッ!!」

 クリムは魔法陣の中心に懐から取り出した短剣を突き刺す。
 魔方陣が輝き、リールが苦しみ始める。

「ぐ……が、あああああああああああーーッ!!」

 リールの身体から黒い塊が剥がれるように出現。完全に身体から離れ、それは顕在化する。
 黒いぼろぼろのローブに、骸骨の顔。巨大な黒光りする大きな大鎌を構えるその姿は死神そのものであった。

「オオオオオォォォッッ!!」

 咆哮すると、立っていられないほどの風圧が発生しその場の全員を吹き飛ばす。
 全員が体勢を整えるよりも早く、飛び交う黒い刃が襲い掛かる。
 それはリールの放ったものよりも大きくかつ鋭い。

 まともな防御姿勢を取れないまま容赦なく斬り刻まれる。

「ぐああああッ!!」
「うぐおぉッ!!」

「死を運ぶ闇……予想以上の力だ」

 そう言うクリムに恭也が問いかける。

「死を運ぶ……闇? なんだそりゃ……」
「死を運ぶ闇は、代々領主の家系の女性の身体に封じられる魔物だ。
 その力は強大で……過去何度も討伐に掛かったが、結局封じるしかなかった」

 話してる間にも、夏候が果敢に死を運ぶ闇に戦いを挑むが、大鎌の一撃によって簡単に吹き飛ばされてしまう。

「がああああッ!!」
「さっきの術式はなんだよ、わざわざ引っ張り出したようにしか見えなかったが?」

 恭也の問いかけに再びクリムは答えた。

「あの術式は確かに奴を引き剥がす為の物だ。
 引き剥がした時点で、この術式の中から奴は出ることはできん」
「はぁ……出しても、倒せないんじゃ意味ねぇだろうが」
「方法はある……しかし、それにはまず奴を弱らせなくてはならん。」

 話しながらも、恭也とクリムは前に出ようとするが
 飛び交う黒い刃の対処に追われ前に出ることが出来ていない。

「この猛攻の中でか。無理言うなよ……」
「……そういう状況こそ、血が滾るというものではないか?」

 クリムの目はこの不利な状況下でも闘争心に満ち溢れていた。
 諦めなどの言葉や雰囲気は微塵も感じさせない。

「それに我らのすることは時間稼ぎ、シエルがここに戻るまでのな」
「シエル? 殺せって命令出しておきながら、どういうことだ?」
「殺す? 正確には違うな……とある契約者に依頼し、リールを絶望させ
 死を運ぶ闇を目覚めさせる事と、リールのペンダントに血を吸わせる事をな」
「ペンダントに血?」
「ああ、思い通わせる者の血を吸わせることで、そのペンダントは死を運ぶ闇の力を抑えるかなめとなる」

 黒い刃が恭也の頬を掠め、浅く斬り裂いた。

「抑えられてねえじゃねえか! それとも抑えてあれなのかよ!」
「いや、リールはペンダントを身に着けていないようだった……考えられるのは逃走中に
 シエルに渡したことぐらいか」
「落としたって可能性は?」
「ない。依頼した契約者からは、依頼は完遂したとの報告を受けている。
 ペンダントをリールが身に着けているかどうかの確認は依頼に入れてなかったのでな」
「ったく、普通そこは気を利かせて確認ぐらいするだろうが!
 まあ……やるだけやってみるか」

 恭也とクリムは武器を構えなおし、死を運ぶ闇と対峙した。


 〜領地内・街中〜


 死を運ぶ闇が顕現化してから、屋敷からは黒い霧が滲みだし町の中に充満していった。
 黒い霧は地面からアンデッドを次々と生みだし、街中は不死者達で瞬く間に溢れかえっていく。

 住民は逃げ惑い、街中にいた契約者に守られながら町はずれへと退避していた。

「……状況がまずいね、屋敷で何かあったようだ」

 メシエはアンデッドを葬りながら、エースに声をかける。

「そうみたいだ。嫌な感じが屋敷から漂ってきてる」

 エースもまた、アンデッドを葬りながらメシエに応える。
 もう何体のアンデッドを葬ったかわからなくなるほどであった。

「今はまだ平気だけど、このまま数で押されたら……さすがにきついか」
「こういうのは元を断つのが一番だが、今ここから動いてしまえば、
 家に避難している住民達が危険に晒されてしまう」

 二人の背後には領主の屋敷ほどではないが、比較的大きな家があり
 そこには街中から逃げてきた住民達が大勢避難していた。

 周囲に際限なく湧くアンデッドをたった二人で葬り続けていたのである。
 その数は徐々に増えており、次第に対処しきれなくなりそうなのは明白であった。


 〜領地内・町付近〜


 契約者達に連れられ、シエルは町に向かっていた。

「リール……」

 リールに渡されたペンダントを握りしめ、町の方を眺める。
 彼の手の中では、紅く染まったペンダントが鈍く発光している。
 シエルはそんなことに気づかず、ただ小型飛空艇オイレから徐々に接近する町を眺めていた。


担当マスターより

▼担当マスター

ウケッキ

▼マスターコメント

今回は遅くなってしまい、本当に申し訳ありませんでした。

そしてここまで読んで頂いてありがとうございます!
近いうちに後編の方を書きたいと思いますので、
待っていてくださいませ。

▼マスター個別コメント