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汝、己が正義を信じるや? ~善意の在処~

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汝、己が正義を信じるや? ~善意の在処~

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■幕間:地下室に潜むモノ

 一人の男を前に4人は表現し難い面持ちであった。
「野盗を追ってここまで来てみましたがまさか職探しの途中とは……」
「まあ自分も色々やらかした経験があるので強くは言えませんが……」
「けれど聞きたいことはあるから逃がすわけにはいかないわよ」
「……我には関係のないことであるが、不憫な」
 求職活動中だった元野盗の身柄を確保した御凪、葛城、コルセア、イングラハムらが各々胸中に思うところを告げていく。全体としての意見は『反省してるし、更生するために頑張ってるし、話だけ聞かせてもらったら見逃してあげてもいいかも』といった感じだ。
「それで俺に何の用だよ……」
「とりあえずライアーって人のことを聞かせてもらいましょうか」
「そうであります。その人物については――」
 葛城に合わせるようにコルセアが口を開いた。
「知っていることすべて話してもらうわよ」

                              ■

 彼女たちは男からライアーの住んでいるという家を教えてもらい、その場に来たのだが――
「誰もいないみたいであります」
 葛城がドアをノックするも反応はない。どうやら留守のようだ。
「勝手に入るのはまずい……わよね?」
「一応、俺たちは野盗調査できているわけですから事後承諾も……」
 などと話し合っているなか、イングラハムが一人中へと入っていく。
「我が先に行こう」
「ちょっとっ!」
 コルセアが声をかけるも時すでに遅し。
 三人は仕方ないといった様子でイングラハムの後を追った。
 誰もいないのだろう。家の中は静かだった。
「みなさんこちらへ」
 御凪は皆に声をかけると呼んだ。
 彼の目の前に地下へと続く階段が見える。
「怪しいであります」
「なにかありそうね」
「我の同類がいても不思議ではあるまい」
「それはないであります」
「……さようか」
 地下へと降りると部屋がいくつかあった。
 一番奥の部屋から何かが動く音が聞こえる。
「ゆっくりと扉を開くのよ」
 コルセアの指示に従って御凪が扉を少し開けた。
 中の様子は良くは見えないが、人型の何かが寝台に寝ている誰かに覆い被さっているように見える。
 ぐちゃ、ぐちょ、という肉が混ざり合うような音が部屋に響いていた。
 その様子を見た御凪が小声でつぶやいた。
「あれ食べてるんですかね?」
「いやいや、そんなホラーな展開いらないでありますよ」
「野盗に攫わせた子供を生贄に怪しい人工生物を飼育していたとかいかがであろう」
「イングラハムが言うと違和感ないわよ」
「まるで我が人間ではないような物言いだな」
(つっこまないであります!)
 小声で話すが、ピタッと部屋にいたモノが動きを止めた。
 いるのがばれたのかと御凪たちが思ったとき、背後から女の声がした。
「――こんなところであなた達は何をしているのかしら?」
 振り向くと能面のような笑顔の女性がいた。ライアーだ。
 笑みを浮かべたまま、その形を崩すことなく言葉を続ける。
「ねえ……何をしているの? カナデの部屋の前で」
「いえ、これはその……」
 しどろもどろになる葛城に代わるように御凪が答えた。
「中で誰かが何かしているようだったので――」
 それを聞いたライアーはさっきまでの笑顔とは別の、心の底から喜んでいるような笑顔になると部屋の中へ入っていった。
「カナデ!」
 喜びの声は刹那、怒りの声へと変貌する。
 彼女の目に映っていたのは望んでいた者の姿ではなく、望んでいた者を喰らう者の姿であった。
 形容し難い悲鳴とともにライアーは異形へ跳びかかる。
「――早い、であります」
 その様子を見ていた葛城が呟いた。
 言葉通り、ライアーの動きは常軌を逸していた。その答えはすぐに出た。
 部屋の中でカナデと呼ばれた人を喰らっていた異形の存在、アザトースは跳びかかってきたライアーに一閃。
 薙ぎ払うように手を伸ばし、彼女の腕を千切った。断面から見えたのは骨と肉ではない。
 金属とケーブルの束だった。
「――人間じゃない」
「あれは機晶姫なのであろうな」
「見ればわかるであります」
 話す彼らの視界でライアーは壁へと叩きつけられる。
 フレームの折れる鈍い音が響いた。
 だがそれでもなお、彼女はアザトースに襲い掛かる。
「助けましょう」
 御凪の言葉に促されるように皆が部屋へと突入する。
 直後、彼らはライアーの死を目の当たりにした。
 攻撃へと転じたライアーの顔を何かが貫いたのだ。彼女は力なくその場に崩れ落ちる。
 だがアザトースも無事ではなかったようで顔と腕に傷を負っていた。
 ふとアザトースが御凪たちに気付いた様子で視線をそちらに向けた。
「我は先に戻るとしよう」
 危険を感じ取ったのかイングラハムが我先にと階段を上り始めた。
「行きますよ二人とも!」
「はいであります!!」
 御凪、葛城、コルセアも同様に階段を上る。
 地上が見えたとき、そこには見知った顔があった。久瀬たちだ。
 背後から迫る気配に押されるようにコルセアが叫んだ。

「に、逃げてぇーっ!?」