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モンスターの森の街道作り

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モンスターの森の街道作り

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親玉撃退

「リーズ、準備はいいかな?」
 ゴブリンキングとその取り巻き(分断作戦で大きく減っている)を目の前に紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は自分のパートナーにそう聞く。
「大丈夫よ。唯斗に頼まれたした準備もばっちり」
 そう返事をしたリーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)はそこで一つため息をつく。
「でも唯斗、こーいう微妙な嫌がらせっぽいの考えるの早いわね?」
 敵じゃなくてよかったわと呆れたようにまた感心するようにリーズは続ける。
「目的を達成するためならあの手この手を使うのが忍者ですよ」
 唯斗の言葉に全然忍んでないじゃないというツッコミを入れるリーズはスルー。その事は唯斗が一番良くわかってる。
「じゃあ、取り巻きの方は頼んだ」
 その言葉とともに二人はゴブリンキングたちのもとに突っ込んでいく。
 一番最初に大きく動いたのはリーズだ。ゴブリンキングを守るようにして立っている取り巻きの一匹を剣の腹で大きく吹き飛ばす。
「さぁ、アンタ達、かかってきなさい」
 取り巻きとゴブリンキングの間に立ち、取り巻きがゴブリンキングに近づけないようにリーズは位置を取る。必然的にゴブリンキングに背を向ける形になるがそこはすかさず唯斗が背中を預けるようにして入りカバーする。
「唯斗! さっさと決めないさいよ!」
「分かってるさ」
 周りを気にする必要のなくなった唯斗はゴブリンキングに集中する。これからゴブリンキングを闘いながら目標地点にまで誘導しなければならない。
「うーん……このギリギリな感じいいね」
 自分から攻撃をすればもっと楽に目標を達成できるだろう。だがあえて唯斗は避けることだけに専念した。この戦いの中でも唯斗は自らの技術を上げるような戦いを科していた。
「よし、ここだ。アブソリュート・ゼロ!」
 目標地点にゴブリンキングを誘導することに成功した唯斗はスキルをすかさず発動させる。氷壁がゴブリンキングの周りを円を描くようにして出来上がり閉じ込める。
「イコンの装甲並の氷壁、流石に壊せないだろう」
 アブソリュート・ゼロはもともと攻撃用のスキルではない。だが地面に水をまき氷壁が出来る速さや方向性に補正をかければこのようにして敵を閉じ込めることはなんとか可能だった。
「こういうのを見ると唯斗と今まで敵対するよーな事にならなくて良かったと思うわ」
 こちらも取り巻きをのし終えたリーズが唯斗にそう言ってくる。
「? なんでだよ?」
「ストレスが溜まりそうだもの」
 リーズの言葉に唯斗は苦笑いするしかなかった。


「うわ、なんじゃ? あの生き物は? 本当にコボルトなのかのう?」
 コボルトロードらしき姿を見て草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)はそんな疑問な声を出す。コボルトとは思えない体格は離れて見ても威圧感のようなものがある。
「うむ。おそらく気合で大きくなったんだろう」
 そう羽純に答えるのはパートナーである夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)だ。
「……あいも変わらずそなたの気合は万能じゃのう」
 あながちこの男に関しては間違っていないのが困りものだと羽純は思う。
「あの〜ワタシは何をすればいいんですか?」
「命令を貰いたいです」
 甚五郎にそう聞いていくるのはホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)の二人だ。この二人もまた甚五郎のパートナーである。
「うむ。わしと羽純であの大きいのを相手する。二人は取り巻きを頼む」
「あの大きいコボルトさんは相手にしないでいいですね〜」
 ほっとホリイはため息をつく。
「了解です。ホリイの援護をします」
「って、ワタシが主体なんですか?」
 ほっとしたのもつかの間ブリジットの言葉にホリイは慌てる。
「うむ。気合で乗り切るのだ」
 と、ホリイに甚五郎からのありがたいお言葉。
「では、行くぞ」
 甚五郎の言葉を合図に四人は動き出した。

 とは、言うものも実際の所、既に甚五郎達が大きく行動をすることはない。それは甚五郎達の作戦が罠にかけて無力化させるというものだからだ。罠はあらかじめ仕掛けており、ホリイの聞いた何をすればいいかという質問も、誰を罠に誘導させればいいのかというのが大部分だった。
「こわっ!怖いですよ!」
 プロボークでコボルト達を引き付けて誘導しているホリイがそんな悲鳴を上げる。ちなみに怖がっているのはコボルトたちではない。
「ホリイ、そこはワタシが仕掛けたインビジブルトラップがあります」
 自分のすぐ近くで発動する罠の数々だ。
「もっと早く言ってくださいよ〜」
「流石ですねホリイ。コボルト達が次々と罠にかかっていきます」
 ギリギリで罠を回避しているせいか誘導したコボルト達が面白いように罠にかかっている。しかし当然ながら誘導している当人には笑い話ではない。
「ホリイたちはうまくやってるようじゃのぉ……それではわらわも……」
 羽純は我は射す光の閃刃をロードに向けて発動させる。威力は全力で狙う場所をギリギリにはずしての威圧攻撃だ。
「……やはり、この程度で怯む相手ではないの」
 しかしコボルトロードが怯む様子はない。
「だが、挑発攻撃としては十分だ」
 と、甚五郎が言うとおりコボルトロードがまっすぐこちらに向かって歩いてくる。
「後は罠にかかるのを待つだけだ」
 甚五郎のその言葉を皮切りにするようにコボルトロードはトラッパーやインビジブルトラップにどんどんかかっていく。また一つまた一つと無数の罠がコボルトロードを襲う。
「……なぁ、甚五郎よ。あれ、止まる様子が欠片もないのじゃが」
 また一つコボルトロードが罠を発動させるが、こちらに向かう速さが衰える様子はない。
「うむ……殺さぬようにと威力を抑えたのが仇になったな」
 そして最後のトラップである大落とし穴に落ちたコボルトロードが上がりきりこちらに向かってくる。もう甚五郎と羽純の前にはトラップはない。
「時間いっぱい掘ったんじゃがのぉ……足りなかったか」
 自分が掘った落とし穴が徒労に終わったことに羽純はため息をつく。
「して、どうするのじゃ? 罠はもうないぞ」
 と、この後甚五郎が何を言うか分かっていながら羽純はそう聞く。
「決まっているだろう。気合だ。殺さずにというのは大変だが気合で何とかする」
 予想通りの答え。羽純はおかしくなって小さく笑う。そうして気合とともにコボルトロードに向かっていく甚五郎をサポートするのだった。


「これがゴブリンキング……大きいですね」
 氷壁に閉じ込められたゴブリンキングを見て、様子を見に来た村長はそう感嘆の声を上げる。
「流石に壊れることはないと思いますが、あまり近づかないほうがいいですよ」
 イコンの装甲並みの氷壁を壊せるとは思えないが、もしものことを考えて唯斗はそう村長に忠告する。
「あ、ごめんなさい」
 夢中になってその大きな姿を見ていた村長が唯斗の言葉に従って下がる。下がるが、やはりゴブリンキングのことが気になるようでその姿を見つめていた。
「あー……遅かったか」
 氷壁に囲まれたゴブリンキングとその姿を見つめる村長。その場にローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)がやってきてそう言葉を発する。
「ローグ君? 今までどこに……。それに遅かったって?」
 村人であるローグの姿が今回の活動の中になく、探していた村長がそう声をかける。
「悪い。先に説明してから前村長探せばよかった。そこは俺の落ち度だ」
「? お父さ……父になにか関係が?」
「本当にあの親父なにも説明してないんだな……。簡単に言うとゴブリンキングは前村長がいれば多分説得できるんだよ」
 ローグの言葉に村長やその場にいる他の冒険者達は首を傾げる。
「そこらへんの説明は前村長にしてもらうとして……。だから俺は昨日、他の仕事終えたあと前村長探したんだが見つからなくてな。追跡者として探して見つけたのが今日の朝。もたもたする前村長つついてやっとここまできたんだが」
 遅くなってしまったとローグは言う。
「前村長ってば酷いんですよ。ボクたちが見つけた時、街の宿屋のベッドのしたに隠れてたんだもん」
 そう静かに言いながら歩いてきたのはフルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)。ローグのパートナーだ。フルーネは前村長を後ろからつついて歩かせている。
「フ、フルーネ君、あんまり腰を突かないでくれないかな。ぎっくり腰が再発しそうだ」
「そう思うならちゃんと歩いてくださいよ。この期に及んでまだ逃げられると思ってるんですか?」
 是非もなくそうフルーネに言われ前村長は歩き出す。
「それじゃ、ちゃんと説明してくださいね」
 はぁ、と溜息をつき前村長は話し始めた。

「ぼん……ゴブリンキングと初めて会ったのはまだ村を作っている時ですわ。そん時のぼんは体こそ大きくても泣き虫の根性なしでしてなぁ。コボルトロードに連戦連敗といった様子でしたわ。それに見かねて率いるものとしての心構えとか教えて根性鍛え直していたら、いつの間にか仲良くなって、ぼんが言うてることもなんとなく分かるようになったんですわ」
「その話を前村長に聞かされた俺も、最近ではあるが何度かこいつを鍛え直したりしてたんだよ」
 戦闘技術面だけだけどなとローグは付け加える。
「ゴブリンキングってすごく頭いいんですよ。ボク達は何を言ってるか分からないけどゴブリンキングはボク達が言っていることも分かるみたいです」
 と、ローグの説明に補足するのはフルーネ。
「そういうわけだから前村長がいればこいつを説得できると思ったんだが、どういうわけか逃げ隠れして手間かけさせられた」
 どうして逃げたのかとローグは聞く。
「今回の件に関しては私には説得するのが無理だからですよ」
「なんでだ? 確かにこんだけ戦った後だと難しいかもしれないが……」
 ローグの質問に違うんですよと前村長は首を振る。
「……ですが、まずは説得をしないと納得はしてもらえないでしょうね。すみません、氷壁を解いてもらえますか」
 前村長に言われ唯斗は警戒をしながら氷壁を解く。前村長の姿を見つけたゴブリンキングはとりあえずいきなり襲ってくる様子はない。
「ぼん……すまんなぁ……。――」
 前村長の説得が始まる。ゴブリンキングはその間微動だにせず、本当にこちらの言葉を理解しているかは怪しいが不思議となんらかの対話をしているように見えた。
 ひとしきり前村長の説得が終わった後、ゴブリンキングは低い声を上げる。
「お父さん、ゴブリンキングはなんて……?」
 村長は恐る恐る父である前村長にそう聞く。が、前村長は首を振って答える。
「そんな……どうして……」
「ぼんらにとって森は私らの村だ。薬草は村でいう一番大切なものだ。ゴブリンたちは村人だ。それを守るのが長だ。異邦人である私にはそれを曲げる言葉を持たないよ」
 そう村長に言い、前村長は唯斗にお願いしますと頼む。そのまま娘を連れて後ろへ下がっていった。
 ゴブリンキングは敗北を喫した相手にまた向かっていく。
「――、あれが長たるものの姿だ。たとえ勝てない相手と分かっていても譲れないもののため立ち向かっていく」
 村長はゴブリンキングを見る。そして何故自分が氷壁の向こうのゴブリンキングを夢中になってみていたのか。その答えがある気がした。
「……って、あれ? またゴブリン? でも一匹だけ……」
 村長の視界のはしにふらふらと歩きゴブリンキングに近づいている一匹のゴブリンの姿が見えた。リーズが気づき、対処に向かう。
「待って! そのゴブリンは……!」
 沙夢の制止の声。その声にリーズが反応した隙をつき、一匹のゴブリンがゴブリンキングのもとにたどり着く。そして……。
「ゴブリンキングが引いていく……?」
 一匹のゴブリンとゴブリンキングが話したように見えた後、ゴブリンキングは大きな声を上げてそのゴブリンと一緒に森の奥へと向かっていった。
 その様子を見た前村長は冒険者達に向かってゴブリンたちを開放してもよいと伝える。半信半疑でゴブリンたちを開放するとゴブリンたちはゴブリンキングと同じように森の奥へと順に帰っていった。
「お父さん……? これは……」
「長たるものは下のものの声に耳を傾けないといけない。……譲れないものを譲らせることが出来るのは仲間だけということだよ」


「え、えーと……よく分からないがゴブリンたちの説得は成功したんだよな? あとはコボルトたちか……」
 この中では事情を知っている方のローグがそう言う。その言葉に返ってくる言葉があった。
「コボルトロードと他のコボルト達もみな引いていったぞ」
 コボルトロードと戦っていた甚五郎だ。
「コボルト達も……? どうして……」
 村長の疑問に戦っていた甚五郎はふむと考える。
「わしにはよく分からんが、ゴブリンとコボルトは仲が悪くとも森を守る仲間としては認め合ってると考えれば綺麗な話になるのではないか」
 そう言って甚五郎は更に付け加える。
「拳を交えてみたがコボルトロードは気のいい武人だった。決着を付けられなかったのが残念だ」


 事実はどうあれ、そうして冒険者たちと森のモンスターたちの争いはそこで終結した。