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モンスターの森の街道作り

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モンスターの森の街道作り

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エピローグ

「えーとそれでは……街道の完成を祝いまして……乾杯!」
 村長の言葉にかんぱーい!と村人や冒険者達が続き、グラスが合わせられる。
 街道を作り始めて一週間。場所は完成したばかりの街道。関係者達だけのささやかな祝いの宴だ。

「そんじゃ、慰労ライブと音楽で停戦作戦の成功を祝ってかんぱい」
 瑛菜の乾杯の音頭にこの七日間一緒に演奏をした四人はグラスを合わせて乾杯をする。
「一時はどうなるかと思ったけど、無事にゴブリンとコボルトの争いを止めることができてよかったよ。ローザの案のおかげでアテナが演奏しっぱなしってこともなくないし」
 ローザマリアの提案で録音したアテナのサックスを街道の各所に設置して流させていた(夜以外)。そのためこの七日間、初日以外はモンスター通しが争いあう姿はない。
「でも、人工的な音が流れてる森ってどうなのかしら」
 仕方ないことだけどとローザマリアは言う。
「ああ、そのことだけど、前村長の話を聞いた限りだとそのうち音を流す必要は無さそうだよ」
「うゅ……どうして、なの?」
 瑛菜の言葉にエリシュカ。
「ゴブリンもコボルトも怪我をした仲間のために薬草が必要で争ってたみたいなんだよ。早く仲間の傷を治してやりたくて……って。でもそのために怪我したのが増えて、治った奴も新たに怪我した奴のためにまた戦って……悪循環だったんだね」
 非効率的なことだと瑛菜は思う。だが、ゴブリンやコボルト達の気持ちは痛いほどわかった。なぜなら瑛菜もそんな効率のいい生き方なんて出来ないだろうから。
「だから、争い止めてゴブリンやコボルト達の怪我した奴が自然と癒えれば、後はちょっとした喧嘩が起こるくらいに収まると思うよ」
「うゅ……けんかは、めー、なの」
 エリシュカの優しい言葉に瑛菜達は本当にそうだと笑い合う。そして、そんなただの喧嘩にすることができたんだと瑛菜は嬉しく思った。
「でもライブ面白かったですね。こんなに連日でしたのは久しぶりかもしれません。また何か機会無いですかねー」
 ライブの時を思い出してるのか詩穂は少しトリップしたような感じでそう言う。
「今度ここで街道完成のライブを祭と一緒にするから、とりあえずそれだね」
「お祭り……ですか?」
 詩穂の質問に瑛菜は頷く。
「街道の完成を祝う本格的な祭だってさ。村おこしの一環らしいけど。あたしは当初の予定通りそこでライブ。ローザや詩穂も一緒にライブへ参加できるだろうし、ソロで参加することも多分出来るよ」
 この際だから自分だけでなくいろんな人を集めてライブすればいいんじゃないかと村長に提案したのは瑛菜だ。村長も乗り気だったためおそらくそうなるだろう。
「アテナもやるよ〜……むにゅ……」
 コトンと瑛菜の肩にアテナの頭が乗っかかる。
「アテナ……しゃべらないと思ったら寝てたのか」
 一つ息を吐き、瑛菜はアテナに上着をかけてやった。

「昶ー? どこにいるんだい?」
 北都は宴の途中でいなくなった昶を探していた。
「……って、こんなところで寝てる」
 スヤスヤと昶が狼の姿で草陰に丸まって寝ていた。その背中には数匹のリスの姿がある。
「不思議な光景だねぇ……地球なら狼とリスが一緒に寝るなんてありえないよ」
 でも、そんな動物たちだからこそゴブリンやコボルト達は動物たちの領域を尊重したのじゃないだろうか。そう北都は思った。

「しかし、ゴブリンたちの行進は見ものだったなトマス」
 街道作りの最後、前村長を介してゴブリンキングに街道の踏みしめ作業をしてもらった様子を思い出してテノーリオは言う。
「あれは助かったよ。でも、前村長はどうしてゴブリンキングと仲のいいことを僕達に伝えなかったんだろう」
 その事をトマスは疑問に思い口に出す。
「あむ……そんなもん、オレらがやりやすいようにするために決まってんだろ」
 饅頭を一つ頬張り、壮太はそう言う。そして更に続けた。
「ただでさえ殺すなっていう制限つけてる状態で、実はゴブリンと交友があるんですとか言われたらやりにくい事この上ないぞ」
 事実、ゴブリンと交友を持った沙夢と弥狐の二人は他の冒険者達に比べて戦闘意欲が極端に低かった。仮に諸処の事情を事細かく冒険者に伝えていれば、こちらのけが人が増える結果になったかもしれない。
「ま、あのおっさん、食えない感じだし実際の所どうなのかなんて知らねぇけどな」
 そう締めて壮太はまた一つ饅頭を頬張った。

「あのゴブリンを殺そうとしたのは一体誰なのかしら……?」
 皆がお祝いモードの中、沙夢は初日に事を思い出し難しい顔をする。
「たぶんそれはイグナさんが見かけたという人影が関係していると思います」
 沙夢の言葉を拾った近遠はそう言う。
「人影……ですか?」
「はい。殺気を感じたとイグナさんは言っていましたから、なんらかの悪意を持ってこの森にきていたんだと思います」
「捕まえられたんですか?」
 と沙夢は聞く。
「いえ……初日以降は警戒していましたが、見かけることはありませんでした。村長には気をつけるようにと伝えてはいますが……」
 近遠は不安そうにそう言う。
「やっとゴブリンとコボルト達の闘いが終わったのに、それを乱そうという人が現れたら私は許せないわ」
 沙夢の言葉に近遠も大きく頷いた。

「それじゃ、これが栽培するにあたっての注意事項だよ。まぁ、余程のことがない限り大丈夫だろうけどね」
 薬草の栽培についてのことをまとめたノートをエースは村の栽培の責任者に渡す。
「しかし、エースさん。本当に風よけだけで良かったんですかい? なんならビニールハウスでも作って……」
「甘やかすのだけが植物にとって良いことになるわけじゃないよ。特に薬効を求めるならできる限り過酷な環境で育てたほうがいい。大丈夫。君が思っている以上に植物というのは強い生き物だ」
 そう言ってエースは風よけのお陰で活き活きとしている薬草を撫でた。

 宴の席のすぐ近くにはゴブリンやコボルト達の姿があった。
 ティーが奏でる竪琴やイコナの歌にレオーナと一緒に耳を傾ける姿。
 怪我をしたゴブリンとコボルト達がキリエ達に治療されている姿。
 ゴブリンキングやコボルトロードが唯斗や甚五郎と手合わせをしている姿。
 そんなモンスターたちがすぐ側にいる状況で吹雪は気にすることなくタダ飯を美味しそうに頬張っているし、ローグはさんざん手間をかせさせられた前村長をしめる。そういった姿は冒険者たちだけでなく村人たちの中にも見える。
 たったの七日でモンスターが隣にいるという状況を警戒なくいられる。そんな姿ができていた。

「んー……こんなにチョコがあるなんて幸せだね」
 山ほどあるチョコを早速頬張りルカルカはそう幸せそうな顔をして言う。
「悪いな村長。ルカのためにこんなチョコを用意して貰って」
 カルキノスは酒を傾けながらそうお礼を言う。
「いえ……私もチョコレートは好きですから。気持ちはわかります」
 村長の言葉にルカルカは目を輝かせる。
「村長もチョコレートのためなら命かけられる人間?」
「い、いえ……流石にそこまでは……」
 苦笑い気味の村長。
「なーんだ……」
 と残念そうな顔をするが、また一つチョコレートを頬張り幸せそうな顔になる。
「そういえば村長。もう街道の名前は決めてるの?」
 ルカルカはそう聞く。
「いえ……まだ何も……というより村の人が私は父親と一緒で命名センスはないから他に任せろと……」
 ゴブリンキングとコボルトロードを名付けたのは村長だが、村の人には安直すぎると不評だったらしい。
「じゃあ、この村の名前、ニルミナスだっけ? そこからとってニルミナス街道ってのはどうかな?」
「ルカ……それは流石に安直すぎねぇか?」
「えー、でも響き良くないかな?」
「まぁ……確かに。悪くはねぇな」
「どうかな村長?」
 ルカルカは期待を込めた表情で村長を見つめる。
「ニルミナス街道……いいですね! それで行きましょう!」
 なんだかルカルカと共鳴して興奮している村長をカルキノスは見て、単純なのもそう悪くはないと思った。


「ローザ、詩穂、アテナのことちょっと任せていいか?」
 と、瑛菜はエリシュカと一緒に仲良く眠っているアテナを二人に任せて席を立つ。
 そして宴の席をたった人物を追いかけ、声をかける。
「村長。どこ行くんだよ」
 瑛菜が話しかけた人物、村長は少しだけ驚き振り向く。
「あ、瑛菜さん。お疲れ様です。……少し興奮しすぎたんで夜風に当たろうと」
「ま、この騒ぎだからね」
 そう言って瑛菜もまた夜風を感じる。不思議とすぐ近くで起こっているはずの喧騒がどこか遠いところの出来事のように思えた。
「……瑛菜さん。今回はいろいろありがとうございました」
 沈黙を破ったのは村長だった。御礼をして瑛菜に頭を下げる。
「少しはモンスターと共存するってことの実感が湧いたかい?」
「はい。本当に貴重な体験ができました」
「なら良かったよ。でも村長、あんた前に出過ぎ。なんどヒヤヒヤしたことか」
「ごめんなさい……でも私、ゴブリンキングみたいに仲間の前にたって進む長になりたいんです」
「気持ちは分からないでもないけどさぁ……流石にあたしらみたいな冒険者の前に立って行動するのは無理だよ」
 普通の人間と契約をした人間では経験もだが地力が違いすぎる。
「ま、村長が誰かと契約でもしたら話は別だけどね」
「契約……」
 瑛菜の言葉に村長は何かを考えこむ。
「? 村長? どうしたんだよ」
「あ、いえ、なんでもありません」
 そう誤魔化すようにいう村長を瑛菜は訝しく思うが、既に考え込んでいる様子はないため流すことにする。
「そうだ、村長。あんたの名前教えてよ。次の祭りもあるし、もう結構長い付き合いだしね」
「ミナホです」
「ミナホ……ね。よし、覚えた。んじゃ、あらためてよろしくミナホ」
 そう言って瑛菜は右手を前に出す。
「はい。こちらこそよろしくお願いします瑛菜さん」
 ミナホはそう言って瑛菜の手を握り、二人は握手をした。

担当マスターより

▼担当マスター

河上 誤停

▼マスターコメント

モンスターの森の街道作り、お楽しみいただけたでしょうか。
少しでも面白いと思っていただけたとしたら幸いです。

今回のテーマも前回に引き続き『共存』です。今回はその道への難関を中心に書かせてもらいました。
今回でモンスターたちとの共存の形をひとまず見せましたが、これはまだ仲良くなれましたーなだけなので、共存の段階としてはまだまだだったりします。
次のお話が村おこしとしての祭とライブ、そして今回で解決されることのなかった不穏な影を解決するお話になると思います。
そこで共存をテーマにした話はひとまず区切りをつくことになると思います。
今回のご参加ありがとうございました。

※MCやLCのキャラに違和感を感じたらリアクションの感想でご指摘していただけると幸いです。次からはもっと自然にかけるように精進します。

▼マスター個別コメント