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暴れカボチャ襲来

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暴れカボチャ襲来

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■第一幕:パンプキンズパーティー

「ウキー!」
「うおおおおおおおお!!」
「クケケケ、ケッ!?」
 その様子を表現するのは難しい。だが順序立てて説明するとこうだ。
 猿が喋るカボチャを生のままで食っていたらインディアン風の様相をした大男が現れて、猿と同じように近くのカボチャを食い始めた。彼らは視線を一度合わせるとなぜか食欲が増したようで近くのカボチャを蔦ごと喰い始めた。さらにそれは時間を経るごとに進んでいき、今では他の作物にも手を付けるようになった。そして出来上がった惨状がこれである
「ウキキキキ!!」
「むぐおおおう。おおおおおおお!」
「クケエエエエ!」
 そんな彼ら、ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)オリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)の様子を見てホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が言った。
「止めなくていいんですか?」
「そんなことよりどうしようか」
「何がです?」
 笠置 生駒(かさぎ・いこま)はホリイに向き直ると真剣な面持ちで告げる。
「捕まえて食べるべきか、可愛いから持って帰るべきか……」
「か、可愛い……たしかに見た目メルヘンですけど」
 彼女の視線の先、まだ成長途中であろう小さなカボチャの姿がある。
「クケケ、ケケ」
 小さな身でありながらも必死に蔓をこちらの足に伸ばしてはペチペチと叩いてくる。その様子は子犬がじゃれているようにも感じられて。
「可愛いですね」
「だよねえ。まあ食べるんだけどね」
 笠置は言うとカボチャを掴みジョージへと投げた。
 片手で掴めるほどの大きさだったカボチャはそのままジョージの口へと運ばれる。
「クケケケ――」
 バリボリ、という咀嚼の音とともに声は途中で途切れた。
「あーーーっ!?」
「よし、真面目に働いて頂くとしよう。うん? どうしたの」
「なんというか、弱肉強食というか、現実の厳しさを知ったのです」
「よくわからないけど。そっちの彼らは止めなくていいの?」
 笠置の指差す先には夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)の姿がある。
 彼らはカボチャを挟んで座って何かをしていた。
「とりあえず蔓を全部切り取ってみるか」
「それはさっき向こうでセラータたちがやっているのを見たが生きておったぞ」
「ふむ」
 夜刀神はカボチャを軽く叩く。
 しかし変化は見られない。
「光条兵器を使って薬成分的なものだけを斬るとか可能か?」
「具体性がないから無理だろうが試してみるか?」
 言うと草薙は武器を取りだしてカボチャに突き刺した。
 ケヒケヒと笑っていた声が止む。だが――
「むう」
 カボチャ本体までざっくりと切込みが入っていた。
「なんでカボチャまで切れている?」
「知らん。わらわに訊くな」
「……美味しく食ってやるのがせめてもの情けか」
 夜刀神は言うとカボチャをカゴへと入れた。
 そして言った。
「次はどうする?」
「皮を削るというのはどうじゃ?」
 実験の様相を呈してきた二人から視線を外してホリイが言う。
「後で止めますから」
「ワタシも後であっちの二人を止めるよ」
 彼女たちの視界の端、ジョージとオリバーがニンジンを両手に持って叫んでいた。

                                   ■

 わいわいと賑やかさを増すなかでカボチャに話かけている者がいた。
 風森 巽(かぜもり・たつみ)九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)の二人だ。
 彼らも他の人同様に村のお手伝いで来ていたのだが――
「聞いて、パンプキ〜ナ♪ ちょっと言いにくいんだけど」
「ケヒヒヒヒヒヒ!」
 声が届いているのかいないのか、風森の頭を蔓でペチペチと叩いてくる。しかしそんなことはお構いなしに彼は声をかけ続けた。
「疲れてるんなら湯治とかどうよ? 小豆と一緒に浸かって……あー、うん、冬至粥は俺も好きよ?」
「ケヒャ、ケヒャケヒャッ!?」
「言葉通じてないんじゃない?」
 隣で見ていた九条が告げる。
 彼女は小型のカボチャを抱いていた。
「――貴公は何をしているんだい?」
「見てわからない?」
「わからないから聞いているのだが……」
 九条はカボチャを抱きしめながらその場でくるりと回った。
「可愛がってるのよ! 可愛いじゃないこの子たち。記念に一個貰っていくのよ。どうやって鳴いているのかとか科学的検証とかに興味ないわけじゃないし、薬作った人の発想とかも気になるけど。そんなものを忘れさせてくれるぐらい可愛いじゃないの」
「ケヒヒ」
 ぎゅ〜っと抱きしめている姿は可愛く見えなくもない。
 が、抱きしめられているのは変わった声で鳴くカボチャである。だが嗜好は人それぞれだろう。風森はカボチャに向き直る。
「うん、でもな…このまま暴れ続けて、シオシオになってどうするの? そんな事になる前に、ちゃんと収穫して貰って、食べた人に美味しいって言われる方が何倍も幸せじゃないかな?」
「キヒヒ! ケヒケヒ!!」
 カボチャは変わらず風森の頭を蔓で叩く。
 気のせいかさっきよりも叩く速度が速くなっているように感じられた。
「いい加減にしろよ、この土手南瓜野郎!」
 突如、彼はカボチャを叩き切った。
 あーっ! という九条の声とケヒィ!? というカボチャの悲鳴が辺りに響いた。
 目の前で動いていたカボチャが動きを止めた以外に変化はない。
「うん……予定通りだ!」
「嘘よね?」
「――嘘ではない」
「なんで目を逸らすのよ?」
「あーーーーーっ! 大事なことを忘れていた。それでは失礼!!」
 風森はその場を脱兎のごとく離れた。
「……早いわね」
「ケヒー」
 腕のなか、カボチャが同意するように鳴いた。