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暴れカボチャ襲来

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暴れカボチャ襲来

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■第二幕:ひゅーまん VS べじたぶる

 カボチャ畑以外の場所でも仕事は進んでいた。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)は遠目にカボチャが凍ったり焼かれたりしている姿を見て述べた。
「ああいうのも冷凍食品って言うのかなあ?」
「違うと思うが……余所見をするな怪我をする」
 モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)が注意を促した。
「しかし喋る作物か、この地にそんな名産があるとは知らなかった」
「それ違うからね。名産にはできるかもしれないけど」
「む、違うのか?」
 清泉は包丁を片手に動いているニンジンの葉を切る。
「キュケエー!」
 鳴き声というにも奇妙な声が途切れた。
「悲鳴みたいだね」
「みたいじゃなくて明らかに悲鳴だろう」
 普通の野菜に戻る際に突然声が途切れるというのはいささか後味が悪い。
 根っこが抵抗するようにペチペチと叩いてくるのが後味の悪さに拍車をかけていた。そのせいもあったのだろう。モーベットは油断していた。
「大人しくしない――」
 か、と続くはずだった声は止まった。
 ニンジンの根が彼の眼鏡にぶつかったのだ。根には土が付着していた。当然それはぶつかった眼鏡にも付くわけで……。

 ――スタンッ!

 鋭い音が響いた。
 土で汚れた眼鏡の奥、鋭い視線が作物らに向けられる。
「クケーケケケケケ!」
「ケヒャ、ケヒャ、ケヒャ!」
「……」
 叫ぶ野菜たちとは対照的に無言である。彼は手近な作物を引き抜くと即座に斬り捌く。
 止まるどころかその手捌きは段々と早くなり――
「モーちゃん落ち着いてー! ほらこれで大丈夫。元通りだから」
 清泉は汚れた眼鏡を外すと予備の眼鏡と交換する。
「命拾いしたな」
 彼は足元に転がる野菜を一つ持ち上げると丁寧に真っ二つに斬った。
 カゴの中には乱雑に斬り捌かれた野菜がいくつも見える。
「……いや、これで死んだ事になるのか?」
「話によると生きているわけじゃないらしいよ。ただの作用だって」
「――ふむ。ではアレも作用なわけだな」
 モーベットの見ている方向に清泉が視線を向けた。
 土煙が上がっている。誰かが引きずられているのが遠目に分かった。
「ぬわーーっっ!! でありますーっ!?」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だ。なぜか彼女とニンジンやサツマイモたちが縄で繋がれている。
 一匹一匹の力はそれほどでもないが、さすがに数が揃うと一人程度なら引きずれるくらいにはなるらしい。
 ずるずると引きずられていく葛城を見ていたコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が頭を抱えている。
「だからやめときなさいって言ったのに……」
「でも、なんとか、気合で……あ〜〜〜〜、助けてであります〜っ!!」
「助けてあげるから待ちなさいってば!」
 葛城と作物を結んでいる縄をコルセアが狙い撃つ。
 一発目は土に埋もれ、二発目で縄に当たった。
 ブチッという鈍い音と共に縄が切れる。野菜たちから解放された葛城はそのまま前のめりに転んだ。
「わぶっ!?」
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
「……痛いであります」
 鼻をさする葛城にコルセアが駆け寄った。
「もうなにしてるの二人とも。私みたいにちゃんと料理素材集めてよね」
 そう声をかけたのはセイレム・ホーネット(せいれむ・ほーねっと)だ。
 彼女の手には料理素材であろうニンジンの姿がある。子供くらいの大きさだ。
 それは根の先が二股に分かれており、その前にも左右に一つずつ根が分かれていて……。
「え、なに。それ食べるの?」
 コルセアの視線が否応なしにニンジンに注がれる。
 どう見てもそれは人型をしていた。しかも動いている。その様子は手足をばたつかせてもがいているようにも見えた。
「食べるもん。珍しい形だから姿煮でもいいかも」
「姿煮って……」
「ていっ!」
 葛城が手にしたライフルの柄でニンジンを思い切り叩いた。
 グシャ、という効果音が聞こえてきそうなくらいに頭部(っぽいところ)を潰す。
 キヒィという悲鳴なのか雄叫びなのかも判らない声を残してニンジンが沈黙した。
「エグイわ」
「あー! せっかくきれいに引き抜いたのに」
「これは自分が責任を持って運ぶでありますよ」
 葛城は潰れたニンジンを片手に調理をしている人たちのもとへ向かう。
「ワタシたちはもう少し集めてから向かいましょうか」
「……そうですね」
 コルセアとセイレムの視線が葛城の手にしたニンジンに向けられる。
 ズルズルと引きずられている様は死体を運んでいるように見えなくもなかった。
「姿煮……ねえ」
 コルセアは呟くとため息を吐いた。

                                   ■

「バカ騒ぎしているのは眷属たちだけじゃないみたいね」
 葛城たちの一連の様子を眺めていたリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が座り込んで作物の様子を見ているエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)に言った。彼はリリアの見ている先を眺める。
「俺たちも収穫しないとねえ」
 埋まっているニンジンを掴み引き抜こうとする。
「キヒイイイイイイッ!」
 手を止めた。
「……」
 また引き抜こうとする。
「ケヒヒヒヒヒッ、ヒヒッ!」
「いやここで悲鳴を上げるってマンドラゴラ気取りか君たちは。まったくイタズラが過ぎるとここで特別にスライスして、料理の下準備まで持ち込んであげてもいいんだよ?」
 にこりと笑みを浮かべる。が、どうやら野菜たちには言葉が通じない様子で相変わらず悲鳴なのか雄叫びなのかもわからない声を上げながら、ペチペチと葉や根でこちらを叩いてくる。
 エースが困ったようにリリアを見上げる。
 彼女はしょうがないわね、とため息を吐く。
「もう、貴方達は美味しく育ったんだからちゃんと収穫されなきゃダメでしょ」
 メッ、と小言を言いつつぽこんとニンジンの頭らしき部分を軽く叩く。
「美味しいキャロットパイになるのか貴方達の務めよ」
「キヒッ、ケヒッ、ケヒャッ!」
 言葉が通じたのだろうかリリアが顔をしかめた。
 その様子を眺めていたエースが訊ねた。
「この子はなんて言ってるのかな?」
「寒いから出たくないですって」
「はい。ダウトー」
 エースは勢いよくニンジンを抜いた。
「キヒイイイイイッ!」
 雄叫びを上げる。が、それに構うことなくエースは次から次へとニンジンを抜いていく。
 次いでリリアが葉を切り落とす。そして出来上がる沈黙したニンジン。
「美味しく料理してもらって、皆に絶賛される方がいいだろ? 君たちの美味しさで皆をメロメロにしておくれ」
 エースは笑みを浮かべて作業に没頭する。
 彼の優しい声とニンジンたちの悲鳴というアンサンブルは何とも表現し難い何かを感じさせてくれる。
 文章としてたとえるならこうだ。

A:『さあ野菜さんたち。おいしく料理してあげるからね』
B:『いやだあああああ!! やめてくれええええええっ!』
A:『まずは皮を剥きますよ〜』
B:『ぐわああああああっ! 痛い痛い痛い痛いいいいいっ!?』
A:『次は葉を取り除くね』
C:『Bーっ! つ、次は俺だ。俺が殺されてしまうんだあああああっ!!』
A:『綺麗に捌けたよ。これなら美味しくなれるね』

 以上。弱肉強食の世界とはかくも厳しいものである。

「でもこれで不気味野菜なんて言われて切り捨てられることもないわね」
 食べてもらってこその野菜でしょ、とリリアが悲鳴を上げ続けている野菜たちに呟いた。
 辺りにはまだまだ作物が埋まっており、悲鳴が途切れる様子はなかった。