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第五章 第一回現場捜査〜死亡もあるけど第二回はあるかは不明〜

 推理により一歩真実に近づいたと思われたが、まだ謎という霧が晴れる事はない。
 しかし確実に、真実へと近づいている。
 更に近づくために、ななな達はまだ何かが隠されているであろう現場を調べる事に決めたのだった……


「なあ、捜査に当たる前にちょっと確認したい事があるんだが」
 現場に向かおうとしていたななな達に『聞きたい事がある』と瀬島 壮太(せじま・そうた)が言ってきた。
「確認したい事?」
「ああ……ボニー、だっけ? この施設のモニタールームに案内してくれないか?」
「モニタールーム、ですか?」
 ボニーの言葉に壮太が頷く。
「ああ。現場はスライダーなんだろ? 監視カメラとかに事件の詳しい事が映っていると思うんだ。例えば……小暮の落下した時の様子とかな。捜査ってのは過去の情報を洗いざらい調べるのが重要なんだ。協力してくれるだろ?」
「――あの、一つよろしいですか?」
「何だ?」
「うち、貧乏スパだって事忘れてません?」
 ボニーは死んだ目をしていた。
 何でそんな目をするのかわけがわからないよ! という人用の為に説明すると、ボニーが経営するスパは裕福ではない……というかぶっちゃけかなりの貧乏である。どれくらいかというと、ついこの間借金で危うく閉鎖する所まで陥ったレベル。
「モニタールームなんて設置するお金、あると思います? やだなーあるわけないじゃないですかー常識的に考えてーあははー」
「正直すまんかった」
 死んだ目から涙を流しながら笑みを浮かべるボニーに壮太が土下座する。顔は笑っている物の、完全にボニーの目が笑っていなかった。
「おっと暗い現実はそこまで! ここはなななにお任せだよ!」
 そう言ってなななが取り出したのは、何やらコードに繋がれた小さな四角い機械であった。一つ二つではなく、幾つもある。
 小さな機械はよく見るとレンズがついており、カメラである事がわかる。
「この機械はスパの色んなところに設置してあった物。これの映像を観ればスパで起きた出来事がわかるよ!」
「そりゃいい! 早速観てみようぜ!」
「ちょっと待った」
 早速行動を開始しようとしていたなななと壮太を、アゾートが止める。
「ねえ、この機械どうしたの? キミが着けたの?」
 その問いに、なななは首を横に振った。
「んーん。このアンテナで施設調べたら色んなところにあったの見つけたの。更衣室とか」
「それ盗撮だよね!? これ盗撮用カメラだよね!?」
「大丈夫! みんなの着替えもばっちり映ってたよ! もちろんキミのもね!」
 とびっきりの笑顔でなななが『ビシィッ!』と効果音がつきそうなサムズアップを贈った。
「何処が大丈夫なのさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 アゾートが叫ぶ。
「大丈夫だ、問題ない。そんな事より早く映像を観ようじゃないか。ななな、一番いい映像を頼む。オレは更衣室なんか怪しぶふぉッ!?」
 正座して映像を所望した賢者、もとい壮太がアゾートに殴られる。グーで。
「何が大丈夫だって?」
「い、いい拳持ってるじゃねぇか……」
 ぼたぼたと流れる鼻血を壮太が抑える。
「そんな事より映像観ようよー。流石にスライダーのは無かったけど、近くにもカメラあったからさ」
 何時の間にやらなななが盗さごふんげふんカメラをモニターやら再生用の機材つないでいた。どうやったかって? なんやかんややったんですよ。細かいこたぁいいんですよ。

――結論から言うと、付近に設置されていたカメラには事件に関係する物は全く映っていなかった。
 だが、全く何も映っていなかったというわけではない。
「……すごかったね」
「うん……すごかった」
 顔を赤らめ、なななとアゾートが呟いた。
 カメラには、妙齢の女性と男性がくんずほぐれついやんばかんな映像が収められていた。無修正ノーカットである。
 どういうことかよくわからない、と言う方は大人の人に聞いてみてください。聞いた結果の責任なんぞ持ちませんが。自分で責任取ってください。
「うーん……あんまりこういう人居ると困るんですよねー……どうにかしないと……」
 二人とは対照的に、ボニーは渋い顔をしている。
「良く平気だね……ボクまだ顔が熱いよ」
 まだ熱を持つ顔に手を当てながらアゾートが言うと、ボニーが苦笑する。
「人がいない施設ですからね……こういう風に利用される方もいないわけじゃないんですよ。小さい子供がいるから自重してほしいんですけど」
 まだ若いのにこの娘も色々と苦労しているようである。
「……ねえ、大丈夫? 顔青いけどどうかしたの?」
 アゾートが壮太に声をかけた。
 壮太の顔は三人の誰とも違い、青ざめていた。映像が流れた時、壮太は最初の方ではガタッと立ち上がっていたが段々と顔から血の気が引き、言葉を失っていった。
「具合が悪いなら休まれては?」
 ボニーの言葉に首を横に振ると、壮太はゆっくりと口を開いた。
「この人……近所の奥さんだ」

 壮太曰く、先程カメラに収められていた映像に映っていた女性は彼の下宿先の近所の酒屋の奥さん(42歳)だというのである。
 ちなみに既婚者であり、仲の良い夫婦だと壮太は語る。

「既婚者……つまりは人妻……」
 なななが何かを考える様に顎に手を当てる。
「まぁ、間違えてはいないけど、それがどうしたの?」
「いや、なんていうかさ……『人妻』って単語、エロい響きだよね
キミもう黙ってて。続き、どうぞ」
 アゾートに促され、壮太が再度口を開く。
「横に映っていた男……旦那さんじゃなかった」
「「……わぁお」」
 アゾートとボニーがあちゃーと手を額に当てる。完全真っ黒である。ブラックホールも真っ青だ。『良い子の諸君!』とか言っている場合じゃない。言っている奴は違うが。
「……待てよ? おいまさか」
 何か気づいたように壮太がはっとした表情になる。
「これはまさか……この映像全てが小暮の死亡に関与している伏線だというのか!?」
「いやそれは無理矢理すぎ――」
 突っ込もうとするアゾートの肩になななが手を置き首を横に振る。
「それ以上言わないであげて……今彼は大人の階段を上っている最中なんだ……大人になるって残酷な事なんだよ……
 おい馬鹿やめろ。トラウマ持ち居たらどうするんだ。責任なんてもたねーぞ。
「となると真犯人は奥さん!? ってことは……奥さんにオレが引導を渡さなきゃならないのか……こうしちゃいられねぇ! 奥さんに真相を問いただしてくる!」
 そう言うなり、壮太はダッシュで走り去っていった。
「……真相、話すと思う?」
「さあ……」
 アゾートの問いに、ボニーが困ったように首を傾げた。話すも何も、真相など『浮気してましたーてへぺろ☆』くらいしかないだろう。
「脅迫されるって思って『いっそのこと……!』ってSA☆TU☆GA☆Iされるんじゃないかな!」
 なななが超イイ笑顔で言った。
「それを明るく言えるキミが凄いよ!」

 果たして、壮太は下宿先の近所の酒屋の奥さん(42歳)から真相を聞くことができるのか!?
 それともなななの言う通りSA☆TU☆GA☆Iされてしまうのか!?

 それは今回の事件とは全く関係ないし、正直どうでもいいから皆さんのご想像にお任せすることにしよう。

――デッドリスト入り、現在10名