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第六章 疑うべきはこんな話考えた奴の感性だと思う。

――リアクション的にもいい感じで尺が取れて来た。
 あまりだらだらと長続きさせても仕方がないので、そろそろ容疑者を疑う頃だとななな達は確信した。
 真犯人を告発する為、皆をスパ施設の客間に集めるのであった。


「というわけで、推理パート第二弾はっじめーるよー♪」
「だからなんでそう軽いのさ!」
「コメディだからさ!」
「わけがわからないよ!」
 まぁまぁ、とアゾートをボニーが宥める。
「もうそろそろ慣れた方がいいですよ……」
「いや、これに慣れろと言うのが難しいと思うんだけど」
「いや、その娘の言う通りだ!」
 疲れた様な表情を見せるアゾートに、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が指を突きつける。
「アゾートさん、……いい加減金元さんのいう事に適応した方がいい。それが貴女の為にもなるからな」
「ボクの為になる?」
 ああそうだ、とエヴァルトが頷く。
「一つ聞きたいんだが、貴女は賢者の石に関する研究を事細かに説明できるかな? 何時、何処で、誰と、どういう事があったかを、だ」
「え? そ、それはまぁ……」
 ごにょごにょと口淀むアゾート。それを見てエヴァルトが捲し立てる。
「無理だろう? それに関しては詳しくは説明できないが、要は『過程』は吹っ飛ばされて『結果』しか残っていないからだ! それを防ぐには金元さんの次元すら超越したメタな世界に入らなくてはならないッ! さぁ恐れる事は何もない! 今すぐ貴女も次元の壁を超えるんだ!」
「いや、無理だから。超えちゃいけない一線ってあると思うんだ」
 あっさりとエヴァルトの熱弁をアゾートが否定した。
「うーん、それに関してはななな、っていうか何処かの誰かさんもオススメし兼ねるなー。ツッコミ役減ると収拾つかないよ、本当に」
 なななも少し困ったように続く。これでも一応収拾はつけている。いや本当。本当だってば。
「ところで、キミも推理するんだよね? どういう推理なの?」
「おっと、そうだった……」
 こほんと一つ咳払いをし、エヴァルトが口を開く。
「――まずは気になる点だ。小暮ともあろう奴が老朽化からああなる事を計算できないわけがない」
「ふむ、確かに。その点を気にしている人は他にもいたね」
 ふむふむ、となななが相槌を打つ。
「俺が思うに、小暮は計算したに違いない。老朽化したことも踏まえて、安全の範囲内で行動を取ったのだろう。しかし、現実は事件が起きてしまった……」
「計算ミスって事?」
「いや、小暮の計算は間違っていなかった――事故が起きたのは『結果』を変えた奴がいたからだ。結論から言おう」
 そう言うと、エヴァルトはゆっくりとなななを指さした。
「犯人は――貴女だ、金元さん」
「「「……え!?」」」
 予想外の答えに、なななだけでなくアゾートもボニーも驚きの声を上げる。
「……金元さんは宇宙刑事だ。宇宙刑事の装備……因果律操作装置やらなんやらで100%事故が発生するように仕向けたんだ! 動機? それは小暮と金元さんの任される任務の重要度の違いからだ! ……何か言いたい事はあるか?」
 そう言ってエヴァルトがなななを見据える。
「あっはっはー、ないないそんなの」
 笑いながらなななが手を横に振って否定した。
「「「軽ッ!?」」」
 予想外の軽さに、エヴァルトだけでなくアゾートもボニーも驚きの声を上げる。
「そんなチートアイテムあるわけないってー。後、動機の任務の重要度ってあったけどさ、なななと小暮君の重要度ってどう違うの?」
 首を傾げるなななに、エヴァルトがはっとした表情になる。
「そ、そうか……金元さんもさっき言ったように『結果』しか残らない存在……!」
「そうそう、いくらメタネタでも何処かの誰かさんが知らないとなななも知らないんだよー。これ以上何か言う事は?」
 そうなななが問うが、エヴァルトは黙って首を横に振った。
「さーて、それじゃ次の人ー。時間無いからまきで行くよー。次の人どうぞー」
「あ、次あたし達? やっと出番かー」
「何か……随分と待たされた感じがするわー」
 なななに呼ばれ、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が首の関節を鳴らす。
「さて、どっちが推理するの?」
「あ、それあたし」
 セレンフィリティが手を挙げる。
「それじゃ、推理どうぞー」
「さて、まず事件を振り返ってみるわね……小暮君が水死体で発見されて本人は事故だと主張している、というのが今回の事件。おかしいところはないわね?」
「いや、水死体で本人が主張している時点でおかしいと思うんだけど」
 勿論アゾートの正論はガン無視である。
「本人が主張しているけど、まずこれは事故ではないとあたしは思うの」
「それじゃ殺人?」
 なななの問いに、セレンフィリティが首を横に振る。
「殺人事件じゃないし事故でもない、だからといって、自殺でもないわ」
「ちょっと待ってよセレン。それ矛盾しているわよ? 事故でも殺人でも自殺でもないって一体なんなのよ?」
 たまりかねた様にセレアナが口を挟んだ。
「ねぇ、なんで最初の矛盾は誰も突っ込まないわけ?」
 アゾートも口を挟む。
「それは逆立ち状態というけったいな格好をしていた所に注目してほしいの」
が、安定のガン無視である。
「逆立ち状態に? どういう事よ」
「思い出してよセレアナ。小暮君は何でもかんでも理詰めで考え何でも合理化・数値化したがる性質の男よ? けど、そんな彼にも時として数値化も合理化もできない現象があるのよ――発作的なボケって奴がね!」
 セレンフィリティの言葉に、なななとセレアナがはっとした表情になる。
「恐らく小暮君はスライダーの上で『びっくりするほどなんとやら!』というような事を発作的にしたくなったのよ。何でそんな事をしたのかというと、まぁ小暮君に眠る変態の血でも騒いだんじゃない? 変態の血は滾る一方で体は快楽を欲する……更なる快楽を求めた小暮君は欲求に従い、行き着いた先があの逆立ち、と言うわけ……」
「何と言う変態なんだ……小暮君は……!」
 セレンフィリティの言葉に、驚きを隠せないようになななが呟いた。
「あたしの推理は以上。感想は?」
 そう言ってセレンフィリティが皆を見回した。
「うん、無理しかない」
「ですね」
 アゾートとボニーがうんうんと頷いた。
「私も同感ね。無理しかないわ」
「……ちっ、やっぱり適当に言っただけじゃどうにもならないか」
 セレアナにまで否定され、小さくセレンフィリティが舌打ちする。そりゃどうにもならんがな。
「さて、私も推理していいのかしら、ななな?」
「どうぞー」
 それじゃ、とセレアナが一つ咳ばらいをした。
「――さっきセレンが小暮君の変態説を話していたけど、あの格好には何か意図があったんじゃないかと私は思うのね」
「意図?」
 セレンフィリティの言葉にセレアナが頷く。
「かねてからなななが本当に宇宙刑事なのか小暮君は疑問に思っていたのよ。そしてその命令電波はどこから来るのかを、自らの身体を以て実験・検証していたのではないかしら? で、自分の宇宙刑事としての秘密を知られそうになったなななが、口封じの為に小暮君に手をかけた……と」
「つまり……なななが犯人だったの?」
「まぁそう言う事になるわね」
 セレアナの言葉に、『そうだったのか……』となななががっくり項垂れる。
「いやそうだったのか、じゃないですよ! 犯人じゃないでしょう!?」
 ボニーに言われ、『あ、そうだった』となななが顔を上げる。
「というか、何処をどうしたらその結論になるのさ?」
「それになんであの格好になったのか、とかが抜けていますよ?」
「んなの知らないわよ」
「「な……ッ!?」」
 今度はアゾートとボニーが驚く番であった。
「……いや、それは駄目だと思うよ。肝心なところが無いじゃないか」
「まぁ適当なこと言っているだけだしね。そりゃ駄目でしょ」
 やれやれ、とセレアナが溜息を吐いた。
「うん、駄目だと思うよ……あれ、どうしたの?」
 少しむくれた様子のなななに、アゾートが問いかける。
「むぅ……だって結構な人がなななの事疑っているみたいなんだもん」
「そう言う事ばっかり言ってるからだと思うよ」
 アゾートの言葉に、ボニーも同意するように頷いた。