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リアクション
「ふっふっふ、次は私の番か……この場は私に任せてもらおうか、探偵!」
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)がなななに向かってそう言った。
「お、やる気だね?」
そんな様子に嬉しそうにするなななに、九条がサムズアップ。
「もちのろん、この北の名探偵にお任せよ! ……謎はとべてすけた!」
「それを言うならすべて解けただ九条……! はっはっは、いや皆さんすいませんねこの貧乳ヤブ医が迷惑をおかけして。この619番目の弟子には私から後できっちり言っておきますので」
冬月 学人(ふゆつき・がくと)が皆に向かって笑いかける。
「おい誰が貧乳ヤブ医だ冬月。あといつ私がお前の弟子になった!」
「ちょっと黙っていろ九条! ……いやぁすいませんねぇはっはっは、どーんとこーい!」
睨み付ける九条を学人はしっしっと動物でも追い払うような仕草であしらいつつ、皆にはそれを誤魔化す様に笑いかける。
「……なぁ、いつまでこんな事続けるんだ?」
少し疲れた様子で海が呟く。
「もうすぐ、私の推理が終わったら終わりますよ」
その呟きを聞いた九条が海に笑みを浮かべて語りかける。
「ねぇ――真犯人の、高円寺海さん?」
そして、九条が勝ち誇ったようにニヤリと口の端を上げた。
「――高円寺海! お前のやったことは、全てまるっと御見通しだ!」
そう言うと、九条がバーンと効果音が着きそうな感じで海を指さした。
「……え? オレ?」
突然の事に唖然と海は自分を指さした。
「……高円寺さん、貴方は小暮さんと同期ですね」
九条は海の問いに答えず、目を閉じてゆっくりと話し出す。
「しかし同期だというのに貴方と違い小暮さんには魔王やら眼鏡やら、色々とネタを詰め込まれている。何だかんだで美味しいキャラになっている小暮さんに貴方は内心こう思っていたはずだ。『なんでオレには美味しいネタまわってきいひんのやろ?』と」
「いやなんでそこ関西弁になるの?」
アゾートのツッコミも答えず、九条はさらに語りだす。
「やがてその事を妬んだ貴方はフェルブレイドならではの闇をあやつる力で小暮さんを呪いました。牛の刻参り、こっくりさん、不幸の手紙、牛乳を吸わせた雑巾をお見舞いしたり、小暮さんに向かって消しかす投げたり……」
「なんて残酷な事を思いつくんだ……!」
わなわなとなななが体を震わせる。
「いやそれ後半呪いじゃなくてただの嫌がらせになってるよ!」
「だが小暮さんはぴんぴんしていた。当たり前です、フェルブレイドにはそんなスキルないですからね」
「そもそもスキルですらないよ!」
「悔しがる貴方を見て何者かが貴方にこう囁いた――『YOU、アイツ殺シチャイナYO』」
「酷い動機ですね」
ボニーの言う通りである。
「というか何者かって誰?」
「何者かは――」
皆が固唾を飲み見守る中、九条が口を開く。
「――何者かです!」
九条の言葉に、皆衝撃を受けたような顔になる。
「はっはっは、私は全てごりっとわかっていましたよ」
ただ一人、学人だけが皆にそう言っていた。誰も聞いちゃいなかったが。
「そうか……何者かが居たのか……!」
「……いや、だから誰なのさ」
アゾートが問いかけるが、なななも九条もやはり無視。そのまま話を続ける。
「今回のプールで高円寺さんは小暮さんを誘い出し、そこで超重い眼鏡をかけさせたんでしょう。重い眼鏡をかけたまま泳ぐ小暮さんの頭は沈んでいき、水が口や鼻に入ってジ・エンド――」
「いやそれ無理だろ」
「え?」
海に否定され、九条が言葉を止める。
「だってなぁ……そんな沈む程重い眼鏡かけないだろ普通?」
「その前に眼鏡かけたまま泳がないと思うんだけど」
「というより、どうやってそんな眼鏡をかけさせることができるんでしょうか……? そもそもかける理由がないと思うんですが」
「そ、それは……」
海とアゾートとボニーに突っ込まれ、九条が口ごもる。
「全く……これだから貧乳は困る。すいませんねぇこの貧乳が変な事を言って」
物凄い速さで学人が掌を反していた。
九条は俯き、肩を震わせていた。だが、それは泣いているわけでも悔しさに身を震わせているわけでもなかった。
「……んっふっふっふっふ……あはははは……かける理由が無い、だって?」
九条は笑っていた。そして自身に満ちた顔を上げ、こう言った。
「小暮さんが超トレーニングマニアだったらかけるよねー!?」
その言葉に、皆が目を見開き驚愕の表情を浮かべる。
「た、確かに……! トレーニングマニアだったらかけないわけがない!」
なななが驚きを隠せない様子で言った。
「ははははは……そうですよ、私もそれが言いたかったんですよ」
学人が再度掌を返した。自分という物が無いのかコイツは。
「さあ、今の推理に何か言いたい事はありますか!?」
そう言って九条は海に人差し指を突きつけた。
『無いわー』
なななと学人を除く全員が声を揃えて九条に言った。
そりゃそうだ。そんな重い物身に着けたら身体鍛える前に耳がちぎれるわ。いやそういう問題ではないか。
「……やっぱ駄目?」
九条が笑顔で首を傾げる。全員が首を縦に振った。
「そもそも動機の時点で無茶苦茶だったしね」
「むしろ無茶が無い所を探すのが難しいかと」
アゾートとボニーもうんうんと頷いた。
「その通りですっ!」
部屋の戸をあけ、勢いよく入ってきたのは杜守 柚(ともり・ゆず)であった。
「ああもう柚……僕たちの出番は次なんだから待ってないと駄目じゃないか」
その後を追いかける様に入ってきたのは杜守 三月(ともり・みつき)だ。
「そう言われても、海が犯人扱いされて我慢なんてできませんよ三月ちゃん! 海くんがそんなことするわけないじゃないですか!」
ぷりぷりと怒った様子で、柚が海へ向き直る。
「海くん!」
「え? 何?」
その様子に海が少し戸惑う様子を見せる。
「一緒に真実を見つけ出そう! 海くんが犯人じゃないってことを証明するんです!」
「いや、既に証明されていると思うんだけど……」
「するんです!」
「あ、ああ……」
その気迫に押されたように、海が首を縦に振った。
「あーあ、やれやれ……」
その様子に、三月が苦笑しつつ諦めた様に首を横に振った。