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シナリオ一本分探偵

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シナリオ一本分探偵

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――数分後。
「うーん……わかりませんねぇ……」
 先程の気迫は何処へやら。柚はすっかり頭を抱えていた。
 彼女が着目したのは小暮について。まず最初に『小暮は何故老朽化の進んだ所へわざわざ行ったのか』という事だ。ただ遊ぶ為、という以外にも理由があったのではないか、というのが柚の予想であった。
 だがその案を話すと『それを言ったらウチに来ることがおかしいって事になりますよねぇ……』と涙を流しながらボニーが笑った。借金返済できたはいいけど改装するような余裕が無いのだ。
 話を変えるつもりで次に着目したのは、『もしかしたら小暮は眼鏡を犯人に取られた』という思い付きであった。
「小暮さんは犯人に眼鏡を取られてそれを取り返そうとスライダーに上ったのでは? それなら壊れた個所に気付かないという事も……」
 だがその案も「いや、無理だろ」と海が首を横に振った。
「眼鏡取られたら何も見えないだろ。そんな状態でスライダーの上まで行くのは難しいんじゃないか?」
「あ、そうか……うーん……だとすると……」
 柚は考える仕草を見せるが、他に思い付かないのかやがて頭を抱えてしまう。
「ねえ、僕の意見を言ってもいいかい?」
 そんな柚の様子を見てか、助け船を出す様に三月が口を挟む。
「う、うん。いいよ三月ちゃん」
 柚が少しほっとした様子を見せた。
「えーっと、僕が気になるのは小暮の死んだ姿かな。あの死んだ姿、小暮が犯人を知らせるためのダイイングメッセージだったんじゃないかな?」
 一応言っておく。奴は死んでません。
「ダイイングメッセージ? 例えば?」
 柚に聞かれると、三月が少し考える仕草を見せてから口を開く。
「うーん……逆立ちだから、小暮の名前や苗字を反対から読む、とか?」
「反対から……えーっと、苗字が『れぐこ』で……名前が『きゆでひ』?」
「……意味がわかりませんよ」
 海が名前を逆から読み上げる。それを聞いて首を傾げる柚に三月が苦笑する。
「だよねー……いや、探せば何か別の意味が……もしかしたら犯人のメッセージって線も――」

「その話、俺に任せて貰おうかぁッ!」

 三月の言葉を遮って、ドアを勢いよく開けてドクター・ハデス(どくたー・はです)が水着の上に白衣を羽織った姿で現れる。その横には天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)がついていた。
「フハハハ! 我が名は悪の秘密結社オリュンポスの名探偵、ドクター・ハデス!  世間から『身体は大人、頭脳は子供』という評価を受けている、この名探偵には、事件の全貌が理解できたぞ!
 そう言ってハデスが高らかに笑う。
「まだまともだったのにまた何か変な事になりそうだよ……」
 高らかに笑うハデスを見てアゾートがげんなりした様子で呟いた。
「いいじゃんいいじゃん、面白そうだよ。あとあの評価に『思想は中二』ってつけた方がいいんじゃないかとなななは思うんだ
「うん、心底どうでもいい」
 あっさりと切り捨てられたななながぶー、と不満げに頬を膨らませる。
「というわけで、この推理、俺が話すが構わないなッ!?」
 ハデスが柚と三月に問いかける。
「別にかまいませんけど……」
「柚が構わないなら……」
 二人とも少し躊躇いつつも、頷いた。
「よぉーし! まずは先程話があったダイイングメッセージという点についてだ。実は同じことを俺も考えていたのだが、結論から言おう……あれは小暮のダイイングメッセージだったんだよ!」
 ビシィッ! と効果音がつきそうな勢いでハデスが白衣を翻しながら指をさす。適当な方向に。
「な、何だってー!? どういうことなのキバy……じゃなくてハデス君!」
 なななが驚きのあまり一瞬誰かの名前と間違えつつ、ハデスに問いかける。
「実は先程そこの二人が正解を出していたのだ。『キユデヒレグコ』というのが小暮が知らせたかった言葉なのだよ!」
 そう言って柚と三月をハデスが指さすが、当の本人は一体何が何だかわからないよという表情であった。
「確かにこれだけではわからないであろうな……だがこれを見てほしい」
 ハデスは何処からか取り出したフリップを取り出した。
「何でフリップなのか、と言いたいところだけど……その文章は一体何?」
 アゾートが指さしたフリップに書かれていたのは、『kill you で him leg コ』という文章であった。
「これが小暮の知らせたかった事……先程の『キユデヒレグコ』というのはこの文章の頭文字を取った物なのだよ!」
「えーっと……ああ! 成程!」
 ななながぽん、と手を叩いた。
「そしてこれを並べ替えるとこうなる」
 ハデスが取り出したフリップ2枚目には『コ、You kill him legで』と書かれていた。
「これを直訳すると『コ、お前は彼を脚で殺した』という意味になる……この中で、コがつく奴は小暮を除くと一人しかいない……なぁ、高円寺?」
 そう言ってハデスが海を見据えた。
「……え? またオレ?」
 自分を指さす海にハデスが無言で頷く。
「ここから僕が引き継ぎましょうか。『高円寺、お前は彼を脚で殺した』……それが、小暮くんのダイイングメッセージです」
 一言も発していなかった十六凪が口を開く。
「小暮君は、高円寺君がキックで殺人を犯したところを、偶然目撃してしまった……そして、友人の高円寺君に自首するように薦めたのです。ですが、君は口封じのために、小暮君の命を……」
 十六凪はそれだけ海に言うと、哀しそうに目を伏せる。
「なんて……なんて哀しい事件なんだ……!」
 なななが目元をぬぐう仕草を見せる。
「い、いや……オレ何もやってないんだけど……何か知らないけど何となくやった気になってきた」
 困ったように海が呟く。十六凪の【説得】が洗脳に近い形で発動しているせいである。
「高円寺君、僕は自首を勧めますよ。それが小暮君に対する償いにもなります」
「う、海くん……私、毎日面会に行くから……ずっと待ってるから……ッ!」
 目を潤ませた柚が海の手を握りながら言う。
「自首、してくれますね?」
 十六凪の言葉に、海は目を閉じる。
「はいはい、ちょっと待った。このままだと収拾つかないから」
 海が頷こうとしたところでアゾートが口を挟んだ。
「おや、何か異論でもあるのですか?」
「なんでこれで異論がないと思うんだろう……」
 痛くなる頭をアゾートは押さえつつ、話を続ける。
「えっと、その話だとさ、彼がまず誰かを殺したって事になるよね。まずその第一の死体ってどうしたの?」
「それはまだ見つかっていませんが、周囲を捜索すれば見つかるでしょう」
「いや、今『ねーよそんなの』って電波を受信したよ」
 ななながアンテナをぴこぴこと動かす。
「そもそもさっきのメッセージからしておかしいよね。百歩譲って『コ』はいいけど『で』って何さ『で』って」
「……ならば【ナゾ究明】を使ってみましょう。それで真実が明らかになるはずです」
 そう言うと十六凪が目を閉じる。
「どう?」
 アゾートに問われ、十六凪が笑みを浮かべて口を開いた。
「『いや、ないわー』だそうです」
「うん、知ってた」
 アゾートが優しい笑みを浮かべて十六凪に言った。
「フハハハ! つまりは子供の頭脳の推理を真に受ける方が愚か者、ということだったんだよ!」
「な、なんだってぇー!?」
 無理矢理オチをつけたハデスに驚いたのはなななだけであった。

「う、海くん! 私は信じてたよ!?」
「いや、完全に疑ってたよね柚……」
 その横では海に必死に弁解する柚に、その姿に苦笑するしかない三月がいた。