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緑が増えるよ! やったね!(おいやめろ)

「な、何これ……」
 カメラを回しつつミスティが呟く。
 本来であれば、扉をくぐると存在するのはアトラクションへと続くエントランスに当たる部分である。広い敷地が有るのは確かであるが、こんな植物の園は存在しないはずであった。
「なあ……確か最初は【試金石の壁】、だったよな?」
 目の前に広がる光景に、シオンが呟く。
「ワタシの記憶だと、そのはずだったな」
 その呟きに桃華がうんうんと頷きつつ答えた。
「ひょっとして、これがその壁なのかな?」
「確かに壁は壁だけど……」
 佳奈子が植物を指さすが、エレノアが難しい表情を浮かべた。
「……普通の植物、だな」
「そうだねぇ」
 永谷と弥十郎が植物に触れ、確かめるがどれも普通の植物である。そのどれもが試金石とは全く関係が無い。
「一体どういうことでござるか、これは?」
「さぁな。けど厄介だぞ……」
「確かに、時間が要りますね」
 ツールと牙竜、アルテミスがふむ、と唸る。
 複雑に生い茂るこの植物を突破するのは容易くない。単純に抜け出すだけでも相当時間は必要だろうし、中に何があるかわかった物ではない。
「ねえ、これはアトラクションの一部なのかしら?」
「さあ……私は聞いていないわ」
 エレノアの問いに、ミスティが首を傾げた。
「けど無視するわけにもいかないだろ、これ」
「そうだよな。けどどうするか……」
 永谷とシオンが考える仕草を見せる。
「……牙竜殿、一体何をするつもりでござるか?」
 ツールが構える牙竜に問う。その構えはこれから走り出すような体勢であった。
「何、無視できないなら一番の最短距離を走るだけだ」
「最短距離、でござるか?」
「ああ……一直線に走って道を作る!」
「それ反則ではごららぬか?」
 そう言うツールの言葉も聞かず、牙竜は力を籠め、走り出――

「うちの子に何するつもりよ!」

――そうとした瞬間、牙竜の頬を多比良 幽那(たひら・ゆうな)がぶん殴った。グーで。
「はぐぉッ!?」
「牙竜殿!? い、一体何をするでござるか!」
「それはこっちのセリフよ! うちの可愛いこの植物、傷つけるって言うなら容赦しないわよ」
 そう言って幽那が睨み付ける。それは本気の眼であった。
『あーあー、マイクテス、マイクテス。城主のレティロットですよぅ』
 その時、城門の隅に設置してあるスピーカーから、レティシアの声が響く。
『あー皆さん、色々と考えている所申し訳ないんですがねぇ……そこ、無視してくださいねぇ』
 そして、申し訳なさそうなレティシアの声が響いた。
『……は?』
 その言葉に、一同が怪訝な表情を浮かべる。
『いえ、実はですねぇ……その人が勝手に作っているんですよぅ』

――レティシアの説明はこうであった。
 ここは確かにエントランスに当たる場所であった。ここから各アトラクションへと向かうスペースなのだが、ふらっと幽那はやってきたかと思うと、突然植物を植え始めたという。
 少しくらいいいかと放っておいたのだが、段々と規模が大きくなっていき、気が付いたらこんな状況にまでなっていたのだという。

『というわけで、そこは別にアトラクションでもなんでもないんですよぅ』
「ええ、そういうわけで勝手に作らせてもらっているわ」
 幽那は悪びれた様子は全くなかった。ちなみに何故植物園を作っているのかというと、こう答えた。
「緑って大事じゃない? それに華やかになるし。緑が増えるよ! やったねレティちゃん!」
 おいやめろ。
『やっぱり幽那ちゃん、勝手にやってたんだねぇ』
 キャロル著 不思議の国のアリス(きゃろるちょ・ふしぎのくにのありす)が苦笑していた。植物を弄っているが、知識は無いのかその手つきは適当であった。
「何を言うか。母が間違っているわけないだろう?」
「そうだヨ。お祖母ちゃんが正しいヨ」
 そんなアリスにアッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)ハンナ・ウルリーケ・ルーデル(はんなうるりーけ・るーでる)が少し怒ったように言う。ちなみにアッシュとハンナも植物園を手伝っている。
 ハンナはある程度の知識はあるのか、機械を用いて効率的に作業しているが、アッシュはどうしていいのかわからないようで花に歌を聞かせている。おい花妖精。
 よく見ると、他にも【ニンフ】が数体慌ただしく作業していた。植物園制作の真っ最中なのだろう。
「そういえば、あなた達城に行くの? それならそっちの方から回れるわよ」
 そう言って幽那が横を指さす。そこは植物が無く、通路の様に道が出来ていた。
「この子に案内させるからそっちから行って頂戴。それじゃ、お願いね」
 幽那が言うと【ネレイド:ナルキスス】が無言で頷き、先導するようにその道を歩いていく。その後を皆がぞろぞろとついて歩いて行った。
「結局、関係ない所で時間費やしたって事か……」
「ええ……無駄に考えてしまったわ」
「まあまあ、中々面白かったじゃないか」
「凄かったねー植物」
「そうですね」
 疲れたような表情を浮かべるシオンとエレノアとは対照的に、愉しそうな顔で桃華と佳奈子とアルテミスが言う。
「成程、よく見ると四季の植物なんだねぇ」
「言われてみると、確かにな」
 弥十郎と八雲が植物を眺めつつ言った。突然の事で驚いたため気付かなかったが、区画を作り四季毎の植物を分けて植えているようである。
「しかし、本当にここは何も関係ないんだな」
 永谷が植物園を見て呟いた。植物園ではナルキスス以外の幽那のお供である【ニンフ】達が草木の世話や園の整備に勤しんでいた。
「……いや、俺殴られたんだけど」
「自業自得でござるよ」
 納得いかないように呟く牙竜を窘めるようにツールが言った。