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■彼女の手紙

シャンバラ宮殿。
アイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)の自室にて、
メイドとして、アイシャに仕える
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、
昨年のクリスマスのことを考えながら、
物思いにふけりつつ、掃除を始める。

【ハタキ】をかけて、部屋中の埃を落とし、
クリスマスらしいポインセチアを飾って。

「アイシャちゃんはこの部屋にいないけれど、
アイシャちゃんのお部屋だけでも、
クリスマスらしくなるといいな」

鮮やかな赤と緑。
アイシャの紅い瞳が思い出された。

「アイシャちゃんもきっと好きだよね。
ポインセチア」

詩穂は、アイシャの笑顔を思い出した。
屈託なく笑う、普通の少女の笑みを。

「そうだ、せっかくだから、
冬物のお洋服も出しておこうね。
アイシャちゃんが、いつ戻ってきてもいいように」

詩穂が、普段は使われていないクローゼットを開ける。
【マフラー】や何着かのコート。
そのうちのひとつを出そうとした時、
詩穂は、コートのポケットに、白い封筒を見つける。

「これって……」
封筒には、「詩穂へ」と書かれ、封蝋がしてあった。
アイシャの文字だ。
間違いない。
もし、別の誰かに発見されても、
ロイヤルガードの詩穂の手に渡ることを意図したものだろう。

「アイシャちゃん……!」
心躍らせ、詩穂は、ペーパーナイフで封を切る。

中に入っていたのは、
きれいな便箋にしたためられた、アイシャからの手紙だった。


「詩穂へ

いつかは、あなたが私に映像のお手紙を送ってくれたわね。
その時みたいに、今度は私が手紙を書く番です。

いつも、私のお部屋をきれいにしてくれてありがとう。
この手紙を読んでくれているということは、
そろそろ冬なのかしら。

きっと、空京はクリスマスのイルミネーションであふれているでしょうね。

こんな時だからこそ、皆が普通の楽しい生活を送ることができて、
笑顔が、たえないことを願っています。

詩穂はきっと、そのために、がんばってくれているのよね。
ありがとう。

シャンバラを、パラミタを救うのは、まだまだこれからが大変な時だと思います。

でも、詩穂も、せめて今日くらいは、
普通の幸せを感じられるといいな。

大切な人であるあなたの幸せを願って、そう思っています。

アイシャ」



読み終わった手紙を抱きしめ、
アイシャにもらったブローチ【アイシャの騎士】を握りしめて、
詩穂はうなずく。

「うん、とっても幸せになれたよ」

窓の外を見上げる。
大切な人に、自分の想いが届くように願って。
「どうもありがとう、アイシャちゃん。
詩穂は、また頑張れるよ。
それに、アイシャちゃんも1人じゃないよ。
シャンバラを……パラミタを想う気持ち、
皆の幸せを願う気持ちは、きっと、皆、同じだよ」

詩穂は暖かい想いを胸に、
アイシャと同じ祈りをささげる。
【古王国の祈り】は、時空を越え、
2人の想いが同じものとなり、重なり合うと信じて。