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魔術師と子供たち

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魔術師と子供たち

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   エピローグ

 こうして、事件は終わった。
 ハーパーは、サリーの忠告通り、金目のものを持って町から姿を消した。といっても、土地の買い占めや鉱脈を探すために財産をつぎ込み、内情はあまり豊かではなかったようだ。
 従って、鬼頭 翔、カミーユ・ゴールドが契約書に細工して騙し取った土地は、実は大部分が借金の抵当に入っており、アングラマーケットですら買い手があまりつかなかった。僅かな部分を、別の人間が買ったということだ。


“名無し”は、そのまま帰ってこなかった。東 朱鷺、斎藤 ハツネ、大石 鍬次郎、天神山 葛葉の四人のみが彼が文字通り消えたことを知っていたが、誰に話すこともなかったため、それを知る者は他になかった。
 エディは「れいぎ知らずだっ!」と怒っていたが、ステラは「きっと記憶が戻って家に帰ったのね」と下の三人に言い聞かせた。


 ドクター・ハデスがハーパー家の地下で見つけた板は、レアメタルの鉱脈地図であることが分かった。それによれば、アイール一帯の鉱脈は多くが掘り尽くされており、残るのがジョーイたちの住む箇所なのだという。ハーパーは貯蔵庫を広げようとしてこの板を見つけたのだろう、とステキハウスで人々は噂した。
 ちなみに「板を見つけたのだから俺にも権利がある!」とハデスは言い張ったが、悪党とはいえ他人の家を壊したこともあり、あっさりとアイールから放り出された。
 ルカルカ・ルーとダリル・ガイザックは、ジョーイの許可を得て、鉱脈の調査をした。板の情報は正確で、しかもジョーイたちの家の下にある分は、かなり質が良いらしかった。


 ジョーイは、土地を町に売った。
 借金を返済し、残った分をきっちり五等分した。ステラは、「それはジョーイのものよ」と固辞したが、頑固さではジョーイに勝てるものではない。彼は、エディ、キーチ、ミホのためだと無理矢理渡した。
「短い間だったけど、俺たちは家族だったじゃないか。俺は、みんながいなかったら頑張れなかった。本当は、もっと上手いことやって、みんなが学校に行けるほど稼ぐ方法もあるんだろうけど……」
 両親の遺した土地が掘り返されるのは見たくなかった。
 誰かに頼るのも嫌だった。駆け引きも嫌だった。
 甘いのは分かっている。
 うまくいくかは分からない。失敗する確率の方が高いだろう。けれど。それでも。
「俺は、俺の腕だけで、別の土地でやり直す。父さんたちの出来なかったことを自力で成し遂げる」
 そうして、少年は旅立った。
「止めると思っておりましたわ」
 ステラに魔法の基礎を教えながら、ユーリカ・アスゲージは言った。
「止まってくれる説得理由を思いつかなかったんです」
 そんなもの、ただ「行かないで」ですむでしょうに、と傍で本を読んでいた非不未予異無亡病 近遠は思った。
「でも連絡はくれるそうですから。そうしたら、会いに行きます」
 ステラたちは、猫町館に住むことになった。エディは地元の学校に通い、キーチとミホは近所の大人が見てくれるという。ステラはシドの店で働くことにした。
「少しでもジョーイのくれたお金は溜めておいて、エディたちが創世学園に行きたいと言ったら、行けるようにと思いまして」
 なるほど、と近遠は頷いた。ステラは、見かけどおりの「待っているだけのお嬢さん」ではなかったということだろう。
 ちなみにマネキ・ングによれば、ステラたちの取り分とジョーイの取り分、そして返済した金額を合計すると、売却額を大幅に上回るらしい。計算が合わないとマネキは首を捻ったが、
「男の子だな」
と、それを聞いたセリス・ファーランドは笑った。
 アイールの町は、年明け早々にも本格的な調査を行うという話だ。

*   *   *


 アイールから一昼夜走り続け、サリーはようやくジープを停めた。助手席ですやすや寝息を立てているユーリを起こし、「ここで野宿しますよ」と告げる。
「……ここで?」
「そう」
 サリーはジープから降りると、さっさとテントの準備を始める。ユーリは欠伸を噛み殺し、それを眺めた。
「ねえ」とまた欠伸をする。「町じゃないからさ、これ、取っていい?」
 そう言ってユーリが胸から取り出したのは、水晶の欠片のペンダントだった。それをサリーに放って寄越すと、ユーリの姿はたちまち別の人間――褐色の肌に緑の髪、大きな胸をした女性――に変わってしまった。
 アイールにいたコントラクターなら、彼女の名を知っていたはずだ。ある者は憎しみを込め、ある者は親しみを込め、ある者は恐れと共に呼んだだろう。
 シャムシエル・サビク(しゃむしえる・さびく)――と。
「駄目ですよ。あんたは有名人なんですから、化けておかないと」
 サリーは欠片をユーリ――いや、シャムシエルにもう一度渡した。
「サリーだって有名じゃん」
「あたしはあんたほど顔が売れていませんからね」
「楽でいいなー」
 ぶつぶつ言いながら、シャムシエルは欠片を握り締めた。ニルヴァーナを訪れる前に見かけた、通りすがりの女性の姿を思い浮かべると、彼女の容姿は再び一瞬で変わった。
「ねえ、次は何をする?」
「そうですねえ」
 サリーは、インナーテントの上にフライシートを掛けようとして、「これっ」と叱った。シャムシエルが、荷台の筒に手を伸ばしていたのだ。
「ねえ、これって何なの?」
「面白い物ですよ」
 サリーは自分の胴体ほどもある筒を、優しく腕に抱いた。
「そればーっかり」
 シャムシエルは口を尖らせるが、言うほどに不満ではなさそうだ。彼女が「面白い」と言うのだから、確かにそうなのだろう。
「取り敢えず、しばらく羽を伸ばすとしましょう。葦原島は逃げやしませんからね」
 そう言って、サリーこと漁火(いさりび)は、小さく笑みを浮かべた。

担当マスターより

▼担当マスター

泉 楽

▼マスターコメント

あけましておめでとうございます。泉 楽です。本年もどうぞよろしくお願いします。
「魔術師と子供たち」リアクションをお届けします。
以下ネタバレも含みますので、ご注意ください。



今回、参加人数が少なかったため、MC、LCの別行動はなるべく可としております。

今回のメインは一つ。子供たちがどうなるか、です。それに付随してレアメタルがどうなるか、という点もありますが。
子供たちには基本的な性格だけ設定してありました。その性格に従って、皆さんのアクションに反応した結果、こうなりました。ジョーイは段々、意固地になっていった気がします。
レアメタルは一先ず町の扱いとなりますが、将来的にどうなっていくかは今のところ未定です。

サブストーリーも一つ。こちらはアイールの観光案内となります。施設が色々あるので、もうちょっと紹介できれば良かったんですが。また機会がありましたらぜひ。

そしておまけが二つ。一つはサリーとユーリ。最後まで読んでくださった方は、二人の正体もお分かりでしょうが、表に出てこないときには、彼女たち(特にサリー)は今回のようなことをしているのです。
もう一つは“名無し”です。彼の正体については、当てた人がいなかったため言明していませんが、分かる人には分かってもらえるかと思います。もう少し違うラストを考えていたのですが、こちらも皆さんのアクションの結果、変更。ちょっと哀しいこととなりました。補足として、彼の記憶喪失が本当かどうかですが、シナリオ開始時点では確かに記憶はありませんでした。その状態のまま、あちこち放浪していたということです。

次は葦原島に戻るかと思います(あくまで予定)。時期も未定ですがなるべく早く考えています。
今年も面白いシナリオ、リアクションを書けるよう精進して参ります。その時にはよろしくお願いします。
ではまた、お会いしましょう。