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年忘れ恋活祭2022 ~絆~

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年忘れ恋活祭2022 ~絆~
年忘れ恋活祭2022 ~絆~ 年忘れ恋活祭2022 ~絆~

リアクション

 商店街。

 夜が訪れる少し前に恋活祭に天神山 保名(てんじんやま・やすな)を誘ってやって来た天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)は露店で買い物を済ませた。その際、『アボミネーション』で周囲の男達を畏怖させ牽制した。
「……葛葉、わしの為にわざと周りを牽制する気遣いを見せるとは」
 と保名は葛葉の成長にこっそり喜んでいた。
 買い物を終えた二人は展望台に向かった。

「むぅ……つまらないの。なんでこんな隠れるような行動しなきゃいけないの?」
 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は分からないまま物陰からデートをする葛葉と保名を見ている。
「……お姉ちゃん、今日は父様と母様が結ばれた大事な日なんです。清明聞いたんです。なので清明は明るい未来の為にどうしても今日の二人のデートは成功させないといけないのです! お姉ちゃんにも協力して貰うのです」
 とけこみの衣で獣の耳と尻尾隠し中の天神山 清明(てんじんやま・せいめい)がハツネを呼び出した理由を話した。
「……葛葉ちゃんと保名の仲なんてハツネはどうでもいいの。つまらないの」
 ハツネはプイと背を向けて帰ろうとする。葛葉と清明は好きだが自分を更正させようとする保名は嫌いだったから。
 清明はハシっと服の裾を掴み、
「……お姉ちゃん、後でクレープ奢りますから。お願いします」
 清明は手を合わせてお願いをする。
「……クレープ……しょ、しょうがないの。可愛い清明の為協力するの。ところで清明、デートって何なの?」
 ハツネはじっと清明を見た後、折れた所で改めて“デート”について聞いた。
「……デートですか。それはですね……好きな人同士が一緒の時間を過ごす事です」
 清明はハツネの疑問にどう言えばいいのか困りながら答えた。
「……よく分からないの」
 残念ながら清明が一生懸命答えたのにハツネには伝わらなかった。
ともかく尾行は続く。『追跡』を持つハツネの『ディメンションサイト』で周囲の状況を把握し『行動予測』で葛葉と保名の行動を予測し移動して見失う事は無かった。

 中央広場。

「はぁ、結局、良い人見つからなかったわね」
「仕方が無いよ、魔姫。でも今日は楽しかったよ」
 恋人捜しをしていた魔姫とフローラの両手にはたっぷりの紙袋。恋人捜しをするのと一緒に去年貰った券を使い切ろうとしたらこうなったのだ。買い物に食べたり飲んだりと違う事で存分に楽しんだ。そもそもこういうイベントで恋人を捜している独り身など早々いるわけがないのだ。
「……存分にお買い物をしたものね」
 魔姫は大きなため息をついた。恋人ではなく買い物を楽しむ事になったのが悲しい。
「魔姫、券は残ってる? 帰りに何か食べようよ」
 フローラがふと何か考えついたのか魔姫に券の残りを訊ねた。ちょうど夕食時なので帰宅の前に美味しい物でも食べたいと思って。
「残っているわ。恋人と食べたいところだけど、今日のところはフローラで我慢するわ」
 魔姫はため息をつきながら今日の所はフローラと祭りを楽しんだ事で満足する事にした。
「はいはい」
 フローラは適当に流し、目的の店に向かって歩き始めた。券は食事一回で無くなった。

 賑やかな祭りを散々歩き回って最後に辿り着いたのは、去年と同じ展望台。違うのは夜景ではなく夕景ぐらいだ。

「……もしかして忘れていたりするか?」
 孝高は自分達の関係を薫が覚えているか一応確認してみる。祭りを散策している間のやり取りは恋人というよりは友人といった感じだった。答えは出ているが念のため。
「何をなのだ?」
 孝高の予想通りの反応。間違いなく忘れている。
「……いや、いい。それより話そうと思っていた事がある」
 孝高は思い出させるのは後回しにして話すべきもう一つの事から切り出す事にした。
「ふに? どうしたのだ? 急に改まって」
 薫は可愛らしく小首を傾げて訊ねる。
「……お前はやりたい事を見つけたよな。お前が前を向いて歩けるようになった事は俺も嬉しい。しかし、それは本当にやりたい事なのか?」
 孝高は近くのベンチに座り、真剣な面持ちで話を始める。
「何を言われても本当にやりたい事なのだ。必ず傍にいて支え守るって決めたのだ。どうしたのだ、孝高? 今日はおかしいのだ」
 薫は孝高の隣にちょこんと座り、凛とした顔に決意強固な口調で答えた。薫が支えたいと言っている相手は翡翠の守り石「誓」の贈り主である。
「……お前がそこまでやりたいなら止めようとは思わないが、ただ覚えていて欲しい事がある」
 ここからが孝高の話の本題。
「覚えていて欲しい事って、なに?」
 薫は即訊ね。全く心当たりが無い様子で。
「……」
 孝高は答える前に少しだけじっと薫を見た。
「……俺はお前が好きだ。お前が鈍くても恋人同士の自覚を失ってもやりたい事に懸命でも、だ。むしろそういうお前だから俺は好きになった。でもな、俺だって男で、一応、お前の恋人だ。それを忘れるな……いつか必ず、お前を俺だけのものにする……天禰」
 そして本音を言葉という形にして薫に渡す。忘れられるのは嫌だが、それが薫だと知っているので孝高はそれも含めて薫を愛していたりする。正直自分以外の者のために一生懸命というのは複雑だが。
「……ごめんなのだ、しょっちゅう忘れて、今日も忘れて孝高を悲しませたのだ……ん? あっ……孝高、俺だけのってどういう事なのだ?」
 薫は祭りを楽しむ前にしていた孝高の表情の意味を知ったが、聞き返さずに意味を汲み取って欲しい言葉を聞く。
「……」
 思わず沈黙。いくら言葉を重ねても伝わるどころか混迷を極めるだけ。話すだけで夜が明ける気さえする。
「どうしたのだ? 孝高、我、また悲しませてしまったのだ?」
 薫はまた孝高に酷い事をしてしまったのかと悲しそうな表情になる。
「……いや、去年もそうだったが、言葉は本当頼りにならないな。重ねれば重ねるほど」
 孝高は去年の祭りの事を思い出して薄く笑った。意思疎通を円滑にするために言葉があるのに自分達は上手くいっていない。
「……孝高? 何か怖いのだ。肉食くまさ……んっ!?」
 薫は孝高のその笑いにいつもと違うものを感じ“肉食くまさん”と孝高を例えようとした時、孝高の噛み付くようなキスによって唇を塞がれてしまった。
 言葉が頼りにならなければ行動に頼るしかない。
 薫はこの日、自分達が恋人である事を思い出すも翌日には綺麗に忘れてしまい、孝高は再び気苦労な日々を送る事に……。それでも二人は幸せだったりする。大切な人が隣にいるのだから。

 展望台。

「……なかなか壮観ですね」
「だろう」
 夕景に魅入られている秀幸に永谷は嬉しく思っていた。
 美しい光景に感動もそこそこに二人は雑談を楽しんだ。その内容は、この地形が戦場になった場合、どんな戦いが出来るのか、有効な作戦は何なのか、弱点はどこなのかなど軍人ならではの話だった。

 雑談が一段落したところで
「秀幸、今日は俺に付き合ってくれてありがとうな」
 永谷は改めて付き合ってくれた事に感謝の言葉を述べた。
「いえ、こちらこそありがとうございます。誘ってくれるとは思わなかったので」
 秀幸はほのかに笑みを浮かべて正直な気持ちを伝えた。以前、一方的とはいえ永谷に告白されたというのに自分は相手の望む返答をせず、仲間として接しているのでまさか誘われるとは思っていなかったのだ。
「……迷惑だったなら謝る。無理に付き合わせて悪かったな」
 声の調子を落とし、申し訳なさそうに謝る永谷。
「先ほど言ったように自分がいうのは感謝の言葉だけです」
 秀幸は即永谷の言葉を否定した。
「……それなら良かった」
 永谷はほっと安心し、一つ息を吐いた。
「……今日のように誰かと一緒に過ごすのは良いものですね」
 秀幸は柔和な笑みを永谷に向けた。
「……あぁ」
 秀幸の横顔を見ながら永谷は自分をどう思っているのか気になって仕方が無い。結構奥手のため聞く事も大胆に攻める事も出来ない。そもそも攻めてふしだらと思われたら水の泡なので。ゆっくりと秀幸の思い出に自分を入れて貰い自分を必要だと実感しているのだと分からなければ前に進めない。これもまた奥手だからだろう。
「……何事も少しずつだな」
 永谷は夜景を眺める秀幸を見ながら小さくつぶやいた。
 恋もまた軍人らしく一歩一歩慌てず進むしかないようだ。

 祭りが始まってからずっと人々の様子を眺めていた狐樹廊は
「……絆」
 と小さく今日の祭りのテーマをつぶやいた。
 地祇として己が守護する土地の事しか頭にない狐樹廊は、契約すらもそのための力を得る手段に過ぎないとしか考えておらず、絆という言葉に決して良い意味を見出していない。
「しかし、多くの人が求め心の拠り所としている物」
 狐樹廊は恋人、家族、友人、皆それぞれ楽しんでいる光景に目を向けた。誰も彼も表情は明るく笑顔ばかり。悪い意味を示している者はいない。
「さて、見守るもここまでにして何かしましょうか」
 狐樹廊はふぅと息を吐き出した。溢れる絆に何かを。見守らせて貰ったお礼を。
「手前から皆へのせめてもの返礼」
 狐樹廊は空を見上げてから人々の方に視線を向けた後、『天候操作』を使い、雪を降らせた。少しでも素敵な夜をと。
 狐樹廊によって生み出された雪は呼び水となり自然の雪を呼び、お客達に寒くも温かい忘れられない思い出作りの手伝いをした。

「……さて、手前はもうそろそろ」
 役目を終えた狐樹廊は祭りから消えた。