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リアクション
■午前中
いよいよ始まった恋活祭。ぼつぼつとお客が集まり出し、露店も少しずつ忙しくなっていた。
「祭りはいよいよ始まりますか。このまま様子を見させて貰いましょうか。絆を……」
狐樹廊はこれから賑やかになるだろう祭りの様子を見守り続ける事にした。見守るのは祭り、人々、絆である。参加せずとも見えるものはあるし、参加しないからこそ見えるものもあるはず。それを狐樹廊は見るつもりなのだ。
古き伝説を持つ時計塔が鎮座する中央広場。
まだまだ始まったばかりでお客はまばら。
「……アゾートさん、そのごめんね」
風馬 弾(ふうま・だん)は誘ったアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)に謝った。
「どうして謝るの?」
謝られる理由が分からないアゾートは当然聞き返した。
「……まさか、見えないとは思うけど、もしカップルに見られてたら申し訳なくて。アゾートさん、賢いし、綺麗だし先輩だし……別に僕はいつもお世話になっているお礼で誘っただけでやましい事は何も無いんだけど……」
弾は緊張しながら理由を話した。実はパートナーを祭りに誘った時にせっかくだから日ごろの感謝を込めてアゾートを誘ったらと焚きつけられたからなのだ。
「……ここで待ってて」
焦りまくる弾をじっと見つめていたアゾートは何を思ったのか弾を置いてどこかに行ってしまった。
「……アゾートさん、怒ったのかな」
自分の態度に怒ってしまったのではと弾は不安になりながら待っていた。
しばらくしてアゾートは戻って来た。手にはガレットと苺のクレープがあった。
「はい」
ガレットを弾に差し出した。
「あ、ありがとう」
弾は恐る恐る受け取った。まさかクレープを買って戻って来るとは思っていなかったから。アゾートなりに緊張する弾をリラックスさせようとしたのだ。ちなみにまだ祭りが始まったばかりでクレープ屋『天使の羽』に並ぶお客は少なかったのだ。
二人は近くのベンチに座って食べた。
「……」
弾はクレープを食べながらじっと行き交う人々を見ている。
「……どうかした?」
アゾートが視線に気付き、訊ねた。
「いえ、あの、今回のお祭りのテーマって絆だよね。僕、だいぶ前に家族を亡くしてて、パートナーやアゾートさん達友達との絆がすごく大切に思えて」
弾はクレープを食べながら友達、カップル、独り身などを観察しながらぽつり。
「……隣にいるからといって必ずしも明日もいるとは限らない。でも日々が過ぎていくとそういう気持ちも薄くなる」
アゾートはクレープを食べるのを止めて静かに弾に答えた。
「そうだね。こうしてアゾートさんと一緒にいる時間を大切にしないとだね」
そう答える二人の横をイチャラブカップルが横切り、弾を赤面させた。
クレープを食べ終わったところで
「次はどうする? 行きたい所があれば付き合うよ」
アゾートが弾に訊ねた。
「……それならアゾートさんの好きな所で、誘ったのは僕だし」
弾は今度こそしっかりエスコートするぞと意気込んでいた。
「……そう」
アゾートは緊張が少しだけほぐれた弾を見てほのかに笑んだ。
二人は、商店に立ち寄り、アゾートが興味のある書物を友人割引で買った後、展望台に行ったり特別製の空飛ぶ箒に乗ったりした。宵が始まるまでたっぷりと楽しんだ。
中央広場。
お客が徐々に増えてきている頃。
「アーデルさん、人気のクレープ屋があるみたいですよ。食べてみましょうか?」
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は想い人アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)を友人として誘って祭りにやって来た。
「ふむ、少し長い列が出来てるようじゃな」
アーデルハイトは徐々に列が出来始めているクレープ屋『天使の羽』に少々眉を寄せた。
「アーデルさんが疲れるようでしたら別の店に案内しますよ」
ザカコはアーデルハイトが疲れないようにと気遣った。
「いや、並ぶも一興じゃ」
アーデルハイトは表情をゆるめ、ザカコに答え、列に加わった。
列に加わりしばらくして、
「……アーデルさん、少し列を離れますね」
「あぁ、構わぬが」
ザカコはそう言って列を離れた。アーデルハイトは不審に思うも一人並んでおけば問題無いので行かせた。ザカコはすぐに戻って来た。
そこそこ早く並んだおかげか二人は無事クレープを手に入れた。アーデルハイトはプチロールクレープ詰めにザカコはガレットを食べながらとりあえず夜景が見られる時間まで祭りを楽しんだ。
「今回も賑やかですね」
非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は客が随分増えてきている中央広場を見ながらつぶやいた。
「あたしはクレープを食べたいですわ」
ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)は少し離れた場所にあるクレープ屋『天使の羽』を指さした。もうすでに長蛇の列が出来上がっていた。
「今回も激しいようだな。皆、はぐれぬようかたまって行動するのだ」
イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)は前回の祭りでルールを了承したベル盗りを眺めた後、仲間達の保護者に変わる。
「……『露店グルメ大食い大会』を見るでございますよ」
アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)は特設ステージの方に目を向けながらわくわくしている。
「今日は全部楽しみましょうか。確か、今年は割引があるんですよね。商店街も見て回りたいですね」
近遠はふと露店でカップル&友人割引、家族割引が適用されている事を思い出した。一部には独り身割引もあったり。
「売り切れてしまいますわ。早く並びますわよ」
ユーリカは皆を急かし、クレープ屋『天使の羽』へ急ぐも順番はかなり後ろの方で長く待つ事に。
様々な店が建ち並ぶ商店街。
「今年もこの時期がやって来たわね。ふふ、今日は遠慮無くカップルを邪魔できるイベント」
白雪 魔姫(しらゆき・まき)は行き交うカップルに邪悪な笑みを浮かべていた。
「もー、魔姫ったら。何でそのエネルギーを恋人を作る方に向けないのかなぁ」
フローラ・ホワイトスノー(ふろーら・ほわいとすのー)は魔姫に呆れていた。
「魔姫、今回は出会いを求めて参加しよう!」
突然、フローラは思い切った提案をする。
「えっ? 出会い? あのね、恋愛しようと思って早々簡単に出来るもんじゃ」
予想外の提案に魔姫はフローラに聞き返した。
「そういう事ばっかり言ってたら何も出来ないよ。魔姫はすっごく美人なんだから。邪魔なんかしなくても良い人すぐに見つかるって」
フローラは頬膨らましたまま文句を続ける。
「本当にそう思う?」
魔姫は鋭くフローラを見た。もしフローラの言葉通りなら今頃ロンリーではないはず。
「思うよ。魔姫は美人でスタイルも良いしツンデレだし優しいし本名を忘れた私に名前を付けてくれたし」
素直なフローラは魔姫の良い所を次々と列挙。一部首を傾げるものもあるが。
「……」
じっと聞いていた魔姫は何を思ったのか露店に行き、フローラが好きそうな甘い砂糖菓子を買って戻って来るなり差し出した。
「あ、ありがとう。もしかしてこれ去年、貰った券を使って買った?」
フローラは受け取るなり砂糖菓子に食いつきながら訊ねた。魔姫は去年のベル奪取の優勝者で賞品として『露店無料券(50枚綴り)』を貰ったのだ。魔姫の凄い物かもという期待を裏切ったが。砂糖菓子については聞かなくても分かる。魔姫なりのお礼だと。人に褒められて嫌な気はしないもの。
「……そうよ、持っているのなら使った方がいいでしょ。それより今回はフローラに合わせてあげるわ」
魔姫はため息混じりに折れた。
「うん。それで魔姫の好きなタイプは? 私は一緒に旅行に行ってくれそうなアウトドア派だったり面白そうな事が好きそうな人とか。後は博識な人かな」
フローラはにっこり笑い、好きなタイプを列挙。
「……そうねぇ。自分の事を理解してくれる男性かしら」
魔姫は砂糖菓子を食べるフローラを眺めながら自分の好みを話す。
「それじゃ、行こう」
フローラは魔姫を引っ張って恋人捜しへと繰り出した。
やはり、ロンリー者は少なく恋人捜しは曇りの予感。ついでに二人は『露店無料券(50枚綴り)』を使い切る勢いで楽しむ事も忘れなかった。
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