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君がいないと始まらない!

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君がいないと始まらない!

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「陽太様ならこういうときどうするんだろう……」
 捜索班が出てだいぶ時間が経つ。御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は稽古場の隅で考え込んでいた。捜索班に立候補したはいいが、もう少し内部を調べてから行くと言って残りまだ行けずにいた。
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)だったら、この非常事態にどういった行動をするだろうか。皆と一緒にただ付いて行くだけ、というのはなんだか違う気がしたのだ。
「指紋……って既存データがあるわけではないし、傷口の照合はしてるみたいですよね」
 自問自答を繰り返す末、サイコメトリが使えないかと思いついた。ちょうど練習中に区切りがついた様子のキロスを捕まえて、話かける。
「あのっ、切られちゃったっていう衣装ちょっと借りてもいいですか?」
「別にかまわねぇぜ。何に使うんだ?」
「ボロボロにされちゃった衣装の記憶を辿れば、関係のある人を割り出せるかなって」
 切り刻まれた衣装は何もこの一着だけではなく、他の役者が使用するものもいくつか駄目になってしまっている。ヒロインの相手役という位置づけだからか、キロスの物が一番ひどい有様だった。
 舞花は衣装を拝借すると、サイコメトリを発動させて器物破損に至るまでの過去をたどる。衣装が出来上がって調子に乗ってるキロスの様子や、大事にクローゼットへしまわれるところ、鋭利なナイフで裂かれる瞬間が舞花の脳裏に蘇る。
「知らない人……。外部犯のようですね」
更にソートグラフィーでイメージした物を描写し、籠手型HC弐式でほかの人も見れるデータに変換する。関係者でも、学校内の人でも無いようだ。深く帽子を被っているけれど、服装は犯行を行うような黒づくめでもなく、カジュアルな普段着だ。
「なんならオレも加勢してやろうか?」
 と、キロスが言ってくれたが、丁重にお断りした。
「メインの役者さんでしょう、稽古に専念してください。私が向かうので大丈夫ですから」
 舞花はにこりと笑って稽古場を急ぎ足に退出する。もし捜索が滞っているのなら、少しでも手がかりになれば幸いだ。

「ラナさん! ……っ、やっと追いついたぁ」
 舞花は映像をラナたちに通信で送ってから捜索班がいる場所に向かい、急ぎ足で追いかけてたどり着いた。
「お疲れ様です、舞花さん。他に、何か進展は」
「怪しい行動をしている人は、稽古場にはいないようです。準備も着々と進んでいるみたいでしたから、心配は要りませんよ」
 見てきた事を舞花は報告する。どうやらエンヘドゥからラナに来た連絡と変わりない。
 舞花が駆けつけた時には、もう陽は落ちかけていた。

「今までこっちの方を探していたんだけど、美緒らしき人とか見つからなかったよ」
高崎 朋美(たかさき・ともみ)は右手で今まで進んでいた方向を指した。舞花は「ちょっと違う方かもしれません」と割り出したデータを出す。
「だいたいの方向を探していただけだからね」
 朋美はそのデータを覗き込んだ。探し回っていたところが広範囲すぎたらしい。
「お手柄です、舞花さん」
 ラナの表情に少しだけ安堵の様子が見られる。パートナーの行方がしれずの状況で彷徨うのは気が落ち着かないだろう。

朋美は紺っぽい服を来た青年を見かけた。どうやら学生ではないようだ。何かを探しているようにうろうろしていた。
「あ、そこのキミ! 髪がピンクでロングな女の子、見かけなかった?」
「いや、見てないな」
 朋美は青年の肩に何か付いているのを見かけると手を伸ばして取ってやる。地面に投げ捨てたふりをした。
「そっか。ありがとう。あ、ゴミ付いてるよ」
「ああ、どうも。このあたりは危ないから、真っ暗にならないうちに帰った方がいい」
 そう言って、青年は奥に消えていく。
 去ったのを確認すると、朋美は舞花の使っていた物でこれを割り出せないかと、先ほど捨てたふりをしたゴミ、一本のピンクの髪を渡した。
「服の色が濃かったから、これに気づいたんだ。もしかしたら、美緒のじゃないかな」
 ピンク色の髪の毛を見つけ、美緒の友達にああいう感じの人いたかな? もしかしたら……と朋美は考えた。
「わかりました。すぐに!」
 舞花は急いで解析を勧める。案外近くにいるようだ。

「ケブーさんとトメさんは今逃げた人を追ってください」
「了解だぜ!」
 ラナの指示でゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)は先ほど去っていった通行人の青年を追いかけていく。
「兄ちゃん、ちょっとツラ貸しなぁ!」
 追われていると気づいた方は全速力で逃げていこうとする。走っていると同時に、何か通信をしているようだ。仲間と連絡を取っているように見える。
 けれど一般人のようで、ケブーには足の速さでは勝てなかった。すぐにゲブーが追いついて、腕を捻り上げる。
「美緒の髪の毛が付くほどおっぱいを揉んだのかぁ? そいつは許せねぇ」
「ひぃっ! そんなことはしてない!」
 高崎 トメ(たかさき・とめ)はヒロイックアサルトを構えて脅迫する。
「さぁ、吐いた方が楽になりはりますぇ?」
 青年は何もしゃべろうとしない。蜂の巣になりたくないのなら、自分のアジトはどこなのかと誘導させることにした。

 草が生い茂っている場所をかき分けると、木造の古い小屋を見つけた。
 違うルートで髪の毛を解析してたどり着いた舞花たちとも合流する。

「この小屋の中にいるようですね。突入しますよ!」
 ラナの掛け声に、皆で勢いよくドアがぶち開けられる。古く脆いので完全に破壊された。
 中には十人ほどの男たちと、ぽつんと美緒がそこにいた。
「くぉら! てめぇら覚悟しろよ」
「大人しくしてくれないかな」
「蜂の巣ができても、蜂蜜にはなりはるわけじゃないのが残念どす」
 
 美緒は驚いた様子で、突入してきた皆を迎える。
「お姉様! 皆さん。どうしてここに?」
「良かった、無事なのですね美緒!」
「あ……ええ。そうだ、房姫様はどうしていらっしゃいますか?」
 ラナは喜んだ表情から、眉に皺をよせる。配役変更を要求するリストにヒロインとして名前が上がっていた役者の名前が出てきたのだ。
「もしかして……美緒は房姫さんに脅迫されているのですか?」
「あ、いえ。違いますわ。練習も兼ねて話したいことがあってあまり大きな口では言えないから、ここまで来て欲しいとあの方達に言われまして」
 ずっと房姫を待っているけれど、これは完全なる罠だ。
「それは、直接房姫はんから直接聞きはりました?」
トメはジャキッと男達に向けた銃を構え直す。
「その確認をしようとしたのですが、無理なようですわ」
 さっきから房姫と連絡を取ろうとしているのだが、電波妨害でもあったのかなかなか通じなかった。ラナたちの通信機は普通に使えるので、男たちは特殊な電波でも使っているのだろう。
 男たちは武装された集団に抵抗は無駄だと思ったらしく、動く様子はない。

 美緒も見つかり一件落着だ。
 そうほっとしたのも束の間、時間も無いし美緒を連れて帰ろうと小屋を出たところで、美緒は男たちに取り押さえられてしまう。
「なにをするのですっ!」
 美緒が抵抗しようとしたその時、「お前ら触るんじゃねぇ!」とケブーが男たちを殴り倒す。
「あ、ありがとうございます……」
「大丈夫だ心配ねぇ。お礼はそのおっぱいでいいんだぜ」
「えっ!?」
 むぎゅっと美緒の胸を掴んだ。やわらかくて触り心地がよくて……。けれどちょっと触れただけで、その手はラナの手によって叩き落された。
「痛って! せっかく堪能してたのに」
「お姉様……、帰りたいですわ」
「ステージに帰らないといけないですからね。大丈夫ですよ、美緒」
 ラナは冷ややかな目でケブーを見る。一方叩き落された方のケブーは美緒の胸の感触をまた味わえただけでも嬉しそうな顔をしている。

「美緒たちは早く行って! ボクたちはこいつらを連行しなくちゃね」
 朋美とトメは男たち犯人グループを拘束する。あまりにもだんまりなので、後から稽古場まで連れて行く必要があった。