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リアクション
第5章
敵を追い払い、部屋の奥に進んだメンバー。
彼らの前に現れたのは、囚われた瑛菜の姿だった。
「瑛菜さん!」
沙耶がすぐに、彼女のもとへと駆け寄っていく。
しかし。その行く手は、最後の誘拐犯によって阻まれた。
全身を黒ずくめでまとった犯人が、厳かに言う。
「西園寺沙耶。あなたはいつも、あたしの邪魔ばかり。妬ましいったらありゃしない」
「その声……。やはり、首謀者は貴女だったのね」
身構える沙耶の前で、事件の黒幕がそのベールを脱いだ。
現れたのは、ゴシック・ロリータの服装をまとった美少女。
「綾小路院ヶ崎 麗華(あやのこうじいんがさき れいか)。生まれた時から、わたくしをライバル視するお方です」
☆ ☆ ☆
「沙耶! あたしと勝負しなさい!」
鉄扇を構えて、宣戦布告する麗華。
だが、ふたりの勝敗は火を見るより明らかだ。いかにも健康そうな麗華に比べ、沙耶は病弱である。
「沙耶お嬢様。なぜ、あなたがここいるんです!?」
そこへ駆けつけたのは、彼女の専属執事・鏡夜だった。彼は苛立っていたが、その矛先は沙耶ではなく、彼女を危険に晒した自分自身へ向けられている。
「鏡夜。私はもう、守られてばかりは嫌なのです。自分の手で戦いたい」
彼女は、レオーナから借りたパイクを握りしめた。
しかし今の彼女に、勝ち目はない。
「沙耶! このままじゃダメ。麗華に勝つには、契約が必要だよ!」
ルカルカがアドバイスする。
契約――。
それは、特別な想いを抱くふたりが、結ばれる儀式。
沙耶の相手になりえそうなのは、鏡夜だろう。だが、ただの地球人同士では、契約ができない。
「……鏡夜さん。あなた、生粋の地球人じゃないよねぇ」
ふいに、北都が口を開いた。
相変わらずのんびりとした口調だが、眼光には鋭さを秘めている。
「強化人間。そうでしょう、鏡夜さん」
「――何故、わかったのです?」
「なんとなくねぇ」
そう言って北都は、含みのある笑みを浮かべた。
鏡夜は、強化人間。
彼がその事実を隠していた理由は謎だが、明らかになったことがある。
これで沙耶との契約が可能となった。
「鏡夜。わたくしと契約してください」
「――御意にござります。沙耶お嬢様」
彼女の前に跪く鏡夜。
この時、ふたりの関係は、運命をともにする絆で結ばれた。
☆ ☆ ☆
「すごい。これが契約の力……」
沙耶の体に、活力がみなぎっていく。
「ふっ。たかが契約したくらいで、いい気になるな。病弱のお前にできることなどない!」
麗華が吠えた。彼女の叫び声で、アジト全体が揺れる。
「沙耶! お前はもうひとりではない」
「コードさん……」
「自分を、そして、鏡夜を信じろ。それがお前の力になる!」
コード・イレブンナインの励ましが、沙耶の耳に届いた。それは鼓膜を震わし、全身を駆けめぐる。
もう、沙耶はひるまない。
(絶対に……負けない!)
身構える沙耶。
「お前など、鉄扇の錆にしてくれるわ!」
麗華が飛び出し、振り上げられた鉄の扇。
沙耶の脳天めがけて、叩き下ろされた。
――しかし。
スピードで沙耶が勝った。
決着は、一瞬。
レオーナ直伝のスイングが、鮮やかに、麗華の腹部を強打していた。
「あっ……がっ……」
悶絶するうめき声の後。すべり落ちた鉄扇の、甲高い金属音が、部屋のなかへ木霊した。
☆ ☆ ☆
「瑛菜部長。無事でなりよりです」
騎沙良詩穂が、瑛菜のロープをほどきながら言った。
「とんだ災難だったね、瑛菜」
ローザマリアが手を差し出す。彼女の手を握り返しながら、瑛菜は言った。
「詩穂。ローザ。ありがと。みんなのおかげで助かったよ」
立ち上がる瑛菜。大胆に伸びをする彼女をみながら、詩穂がくすりと笑った。
「それにしても、瑛菜部長。ロリータ・ファッション、似合わなすぎて、逆に似合ってますね」
その隣では、キールメスが安堵の笑みを漏らしていた。
「お前ら、無事だったか!」
澄香とオクトの肩を、親しげに叩いている。
「どうやら、人質はみんな無事みたいね」
「誘拐事件はこれにて解決。ってとこかしら」
敵の殲滅を終え、駆けつけてきたセレンとセレアナのコンビも、ホっと胸をなでおろす。
こうして。
瑛菜の誘拐騒動は、これといったケガ人も出さず終わりを告げた――。
ように思われたのだが。
「麗華っていったな。戦いに負けて悔しい気持ち、よくわかるぜ」
ゲブーが、うなだれる麗華に声をかける。
「落ち込んでいるときは、おっぱいも元気がない。だが安心しな。俺の店【ミード・エステサロン G.O.D】の無料券をくれてやる」
「エステサロン……」
麗華が、受け取ったチケットを不審げに見つめていた。
「いったい、どんなサービスがあるのかしら?」
「おっぱいエステだ! じっくりたっぷり舐り上げるように、おっぱい揉まれ放題だぜ! こーんな感じでな!」
「な……なにすんのよ!」
胸を鷲掴みにされた麗華が、すかさず鉄扇を振るう。
「あべしっ!」
ゲブーの頬を砕いていく、鋼鉄の扇。すごい勢いで彼は吹っ飛んでいった。
哀れなおっぱいマイスター・ゲブー。彼に不純な気持ちはない。そこにあるのは、おっぱいへのプラトニックラブだけ。
「セクハラよ。訴えてやるからね!」
しかし、おっぱいに対する彼の博愛も、法の前では、ただの性犯罪になってしまうのだった。