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フィギュアスケート『グィネヴィア杯』開催!

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フィギュアスケート『グィネヴィア杯』開催!

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【3】アイスダンス(1)

 アイスダンスという種目は男女の選手が同時に演技を行い、個々の技の技術はもちろん2人のシンクロ率や芸術性も評価の対象となる種目である。
 本大会では同姓同士のペアも認められているため、女性2人がリンクに上がるという事があっても構わないのだが―――
「面倒だからね、解釈は自分たちでしな」
 リンク袖で待機中の魔王 ベリアル(まおう・べりある)が目を見開いて笑った。リンク上で演技中の中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)がジャンプの着地をわざとグラつかせて体勢を崩した。その前のステップではぎこちなく見えるようにコンマのタイミングでリズムを遅く取っていた。
「そろそろかな」
 演技はいよいよ終盤、両手を開いた状態でのスピンも大きくバランスを崩してしまうと、遂に綾瀬はリンクの中央で立ち尽くしてしまった。度重なる失敗……リタイアか、と観客たちが思い始めた時だった―――
 リンクの中央、立ち尽くす綾瀬の前に突如ベリアルが現れた。
「さぁ、仕上げといこうか」
 もちろんこれらも演出の一部、『召喚』によって移動を果たし、そのまま綾瀬を導くようにリンク上を滑りゆく。
 失敗を繰り返し、でも決して諦めずに挑戦し続け、最後には成功・完成させる。これが彼女たちの演技プランだ。
「こういうのが好きなんだろう? 諸君ら人間は」
 演じていただけの綾瀬はまるで別人のような滑りを見せた。華奢な体でも軸がブレないのは魔鎧である漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を纏っているから。落ち込んだり悔しがったり諦めかけたり、そうした感情を衣装からも表現できるようにと尽力することで演技の幅を広げていた。
 全てはベリアルのプラン通り。
 彼女の狡猾な一面は分身といえども健在のようだ。
 ●採点結果。アーサー票:7キャンドゥ票:6合計得点:13


 直前の綾瀬らの演技はセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)にある確信を抱かせた。
 それは「魔法を使わなくても点数は伸びる」ということ。そしてそれは彼女たちの背を力強く押すこととなる。
 まずは粉雪のようにひらひらと舞いながらローテーショナルリフトとストレートリフトを披露。そこからサーペンタインリフトへと繋ぎ、各種スピンへと移行する。
 元より魔法は使う予定に無い。あくまでも自分たちの素のままで臨むこと、その方が自分たちは納得できる、そんな気がしたから。
 セレンフィリティは可憐で陽気な雪の妖精、セレアナは落ち着いた大人の雪の妖精。この日のために衣装も新調したものだ。「可憐で陽気な雪の妖精が初雪の日に大はしゃぎするのを、年長の雪の妖精が窘めつつも結局は自分も楽しんでしまう」そんな優しい空間を表現してゆきたい。
 演技も終盤、最後は2人で息のあった所を見せつけるかのように舞ってゆく。ここまで大きなミスも無いが、それ以上に表現者としての満足感と充実感が2人を包み、浸していた。
「いやあ、美しいって罪よね……」
 一人悦に入るセレンフィリティ。初めこそ乗り気でなかったセレアナもすっかり雪の精霊になりきっている。
 もはやギャラリーなど見えていない。2人が全てを出し切ったとき、氷上はただ2人だけの空間となっていた。
 ●採点結果。アーサー票:7キャンドゥ票:4合計得点:11


 その演目は始まりから異質だった。
「ちょっと……何よあれ……」
 静寂と暗闇の中、リンクの中央に落とされたスポットライト。そこには巨大な氷柱が置かれていた。
 そして始まる高崎 朋美(たかさき・ともみ)高崎 トメ(たかさき・とめ)ペアの演技は―――
「氷柱と……盆踊りと……機関銃……?」
 審査員席に座るキャンドゥ 美姫が何やらライトノベルのタイトルっぽい発言を……いや違うか。やめておこう。
 呆気に取られているのは彼女だけではない、会場にいる誰もが目を疑い、それでいて釘付けになっていた。
 指先までピンと伸びた両手、枯れススキのようなしなやかさで朋美が舞い踊っているのは―――盆踊りだった。
 そして途中まではトメも同じに盆踊るわけで、むしろそれこそが本領発揮の場で良かったのだが―――氷柱に滑り寄った所でおもむろに朋美トメをリフトすると本番の始まり―――
「行くどすえ」
 構えた『機関銃』を氷柱めがけて掃射した。
 轟音が鳴り響き、誰もが顔をしかめるその中で氷柱はみるみるうちに天使の姿を象られてゆく。
「おぉ……」
 気付けばキャンドゥも見とれていた。『スプレーショット』に『シャープシューター』による正確な狙撃と、加えて『サイコキネシス』で弾丸の軌道を変えるなどして細かい修正も加えている。氷柱の弾削はトメの確かな技術があってこそなのだ。
「面白いじゃない」
 氷上で造る芸術作品とそれを称え鼓舞する盆踊り。世界の頂点に登り詰めたキャンドゥも、こんな演技は一度だって見たことがなかった。
「ただ………………フィギュアスケートではないけどね……」
 ●採点結果。アーサー票:4キャンドゥ票:6合計得点:10


 演技が始まってからの手拍子というのはよく起こりうるのだが、選手のリンクイン前に手拍子が起こるのは稀だと言えるだろう。
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)の名前がコールされると客席は一気に沸き上がった。
 ヴァーナーは少しだけ焦らせてからリンクインしてゆく。共にリンクに上がるのはアイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)である。
 声援を受けるのはヴァーナーだが、アイリスが滑り始めるとすぐに人々の目は自然と彼女へと集められていった。スケーティングはもちろん、彼女の佇まいと所作の一つ一つが美しく、鋭いジャンプと大きな滑りは正に「天空を舞う騎士」を想起させるに相応しい。
 騎士が手を引くのは可愛らしいお姫様。上品であろうとするものの、我を忘れて騎士を追いかけてしまう。あこがれのお姉様ともっとずっと一緒にいたいから。
 鋭い滑りに可愛らしい滑りが続く。ようやく追いついて抱きついて、騎士のほっぺに「チュッ」とした所で今日一番の歓声が上がった。
 ●採点結果。アーサー票:6キャンドゥ票:6合計得点:12


 華やかなステージは続く。
 スポットライトに照らされて藤林 エリス(ふじばやし・えりす)アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)が魔法少女へと『変身!』を果たしてリンクインしてゆく。
 ロシア民謡に合わせて「美魔女っ子探偵ペア」が氷上を舞う。2人が演じるのは悪の組織の実態を暴いてお仕置きをする魔法少女の物語だ。
 曲に乗って踊りを披露するリズム感やジャンプ力、それから細く長い脚を高く上げながら回転する柔軟性とバランス感覚など、エリスが得意とする新体操の要素が随所に盛り込まれたスケーティングと、一方のアイリは日々魔法少女としてパトロールを行っているだけあって、今回の演目は得意分野、というより日常そのものだ。フィギュアスケートが特別得意というわけではないがエリス同様、体捌きで表現へと昇華させていた。
 美魔女っ子探偵たちが得意とするのは潜入捜査。『愛と夢のコンパクト』で可愛らしい子供に変身したり、『アルティメットフォーム』でセクシーなオトナの女性に変身したり。終盤のフィニッシュジャンプでは会場の照明と『光術』を織り交ぜた虹色に輝く光の演出で会場を魅了した。
 エリスアイリ。息のあった2人が魅せるポップでキュートな氷上舞台。
 一瞬たりとも飽きのない。まるでイリュージョンショーを見ているかのような、そんな華やかなステージを2人は見事に完遂したのだった。
 ●採点結果。アーサー票:8キャンドゥ票:8合計得点:16