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悪戯双子のお年玉?

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悪戯双子のお年玉?
悪戯双子のお年玉? 悪戯双子のお年玉?

リアクション

「クスクス、ここがハツネの夢の中」
 夢札を使用した斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)の周囲には老若男女様々な人が取り囲んでいた。中にはハツネの仲間までいた。
「みんないる」
 ハツネは天使を思わせる無邪気な笑顔で自分を取り囲む人を見回す。
「ハツネの楽しい愉しい悪夢の時間、開幕なの♪」
 ハツネは笑顔のままギルティ・オブ・ポイズンドールの烈風の能力で取り囲む人々を細切れにしてしまう。
 しかし、ここは夢の中、次から次へと人は現れ、ハツネを取り囲む。
「ねぇ、ハツネ、皆の事愛してるよ。愛してるから壊してしまいたいの……でも壊れたら褒めてくれないでしょ?」
 ハツネは自分が作り出した仲間達に可愛らしい笑顔を向けながら話しかける。しかし、仲間達は声を上げない。いや、ハツネ以外の人々は誰も話さない。ただ突っ立っているだけ。
「……でもここはハツネの夢、だからみんな壊すの。今日会った人全員壊すの」
 ハツネはくるりと見回した。ハツネは「壊す」事を最上とするように教育された壊れた改造人間。そのため常時破壊衝動を感じており、仲間さえも壊したいという思いを押さえ込む日々を送っていた。そのストレスが夢で爆発しているのだ。
「……大丈夫なの。みんな残らず壊すの」
 ハツネは『パイロキネシス』を使い仲間を燃やし尽くす。
「クスクス。皆ハツネが壊すの」
 ハツネは愉しそうに消し炭になった仲間達に視線を注いだ後、周囲に向けた。
 すると、明らかに自分の夢の住人ではない者達を見つけた。
「あれ? お客さんが来てるの?」
 ハツネは動き回る者達、双子に気付くなり、ゆっくりと近づいた。

「……何だこの夢。不気味だな」
「ヒスミ、ここにいる奴らピクリとも動かねぇぞ」
 恐々と周囲を見回す双子。微かに悪い予感が胸にうずく。植物世界から逃げた先がここだ。

「……ハツネの夢にようこそなの。ねぇ、ハツネと遊ぼうなの♪」
 ハツネは双子に近づき、純真無垢な笑顔を向ける。

「……遊ぶ?」
「……何して?」
 ハツネの笑顔に先ほど感じていた悪い予感に目を逸らす双子。

「壊すの♪」
 ハツネはそう言うなり双子に向かってハツネの精神力で具現化した刃、アーム・デバイスを突き出した。

「うぉっ!?」
 双子は慌てて避けた。突き出された刃は双子の背後にいた人に食いついた。

「……ちょ、壊すって何だよ」
「危ねぇだろ!?」
 ヒスミはハツネに言葉をかみつかせ、キスミは背後で串刺しになっている人を見ながら怒る。
「大丈夫なの♪」
 ハツネは悪意の欠片の無い可愛い笑顔でギルティ・ポイズンドールを繰り出す。

「ちょ、待てって」
「ヒスミ、逃げるぞ!!」
 細切れになる周囲の人々を見て夢ながら身の危険を感じ、双子は逃走。
「待つの」
 ハツネは逃げていく双子の背中に声をかける。

「誰が待つかよ」
「オレ達、捕まったら殺される」
 足を止める気など全く無い双子は走り、ハツネの夢から脱出を試みる。

 しかし、『ポイントシフト』を持つハツネは双子の背後に詰めていた。
「逃げるのだめなの。ハツネと遊ぶの」

「ぎゃぁっ!!」
 双子は背後からするハツネの声に驚き、思わず足を止めてしまった。

 その隙に
「はい、さよならなの♪」
 ハツネは『パイロキネシス』を双子に向けた。

「ちょ、やめろぉぉぉぉぉぉ」
 双子は悲鳴を上げながら燃やし尽くされるもこのままで終わる双子ではなかった。
「……いなくなったの」
 ハツネは少しつまらなさそうにした。なぜなら燃え尽きる瞬間に双子が夢から出たのを見たから。
「違う子と遊ぶの」
 ハツネは興味を双子から自ら作り出した人に向け破壊を始めた。起こされるまで。

 恐ろしい目に遭いつつ何とか脱出した双子は
「……すげぇ、怖かったな」
「オレ達、燃えてたぞ。あのままいたら」
 夢である事に胸をなで下ろしていた。

「夢から覚めてたな」
「……それだけは嫌だよな」
 双子は無事だけでなく遊び回れる事に感謝しつつ周囲を見回した。

「何だここ」
「平和だな。羊がいるぞ」
 双子はいつの間にかもこもこの羊達が遊ぶ平和な夢に入り込んでいた。

 未来の白狐の里。いつもは平和な里が今は様変わりしていた。家々は赤々と燃え上がり、傷つき命を失った住人達があちこちに倒れている。ここは未来人天神山 清明(てんじんやま・せいめい)がいた場所。

 燃え崩れようとする一軒の家に清明がいた。
「……父様……ハツネお姉ちゃん」
 焼かれ灰と化した父親を見た後、近くで倒れ伏したハツネに視線を向けた。
「お姉ちゃん、ねぇ、お姉ちゃん、どうしてこんな事になったんですか」
 清明は倒れたハツネを抱き起こし、聞く。
「……清……明……」
 ハツネは清明の頬に触れ虚ろな瞳で清明を見つめながら自分達の仕事の報復で引き起こされた里の惨状、自分達の裏の顔と過去の罪を話してからハツネは目を閉じ、清明に触れていた手は力なく落ちた。
「お姉ちゃん、起きて下さい、お姉ちゃん、死なないで……独りにしないで……」
 清明はハツネの体を揺すり必死に呼びかけるが、答えて返って来ない。
「嫌だよ、この里は父様と亡くなった母様が頑張って再興した家、お姉ちゃんも優しくしてくれた、そんな大事なものを……失いたくないです。だから、だから死なないで、清明の側にいてよ、お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
 叫ぶ清明の目には涙が流れていた。
 涙で視界は歪み、夢から現実へと引き戻した。

「……お姉ちゃん」
 惨劇を追体験した清明の目には涙が流れていた。目覚めたのにまだ夢にいる気がして不安でたまらない。
「お姉ちゃん!」
 ぐしゅりと涙を拭いた後、隣で寝ているハツネを揺すった。悪夢を見てしまったから清明の未来の出来事をハツネの死を見てしまったから確かめたかったのだ。まだハツネが生きている時代にいて隣にいる事を。
「……ん、清明どうしたの?」
 清明に揺すられてハツネは夢から現実に帰還した。
「お姉ちゃんですよね。死んでいないですよね」
 清明はすがるようにハツネを見た。
「……大丈夫、ハツネはここに居るの」
 ハツネは優しく言い、怖がる清明を優しく抱き締め、頭を撫でた。
「……残念、いい夢だったのに逃がしちゃったの」
 ハツネは清明の頭を撫でながら小さくつぶやいていた。
 ハツネは清明が落ち着くまでずっと宥め続けていた。

「……夢札を使っても俺の夢は変わりないな」
 河上 利秋(かわかみ・としあき)は暗闇の中、一人立っていた。
 殺人鬼、“人斬りクリム”として斬った有象無象の衆、悪として斬った者、狂気に堕ちて斬ってしまった者、そして最愛の女を殺した仇共の怨嗟の声が途切れる事なく続き、反響する。
「…………」
 利秋は怨嗟の声を気にする様子はなかった。なぜならいつも耳に入れ続け聞き飽きていたから。

 多くの怨嗟の中、
「……クリム」
 嘆く女性の声が響く。他の怨嗟の声は波のように引き自分の本当の名前を知る女性の声だけが木霊する。クリム・ファナティック、ハツネに利秋を貰い匿われる前に名乗っていた名前だ。
「……」
 闇の中からぼんやりとハツネに容姿がよく似た女性が利秋の前に現れた。彼女は悲しそうに利秋を見つめている。
「……嗚呼、お前が居たな……オネット……我が最愛の恋人……」
 利秋の生気の無い目がますます昏い目に変わる。
「……お前の嘆きだけが、罪深き俺の良心を苦しめる……いつかそっちに逝けたらどうか俺を罰してくれ……オネット・ピュニシオン」
 利秋は目を逸らす事なく亡き恋人をじっと見つめていた。唯一自分の心を苦しくする存在。彼女の内面は伏見 さくら(ふしみ・さくら)と似ていた。笑顔を絶やさない温和で明るく人の幸せを願う女性だった。だからこそ堕ちた自分を見て嘆いているのだろうと。それもまた利秋が思っているだけなのかもしれないが。
「……オネット」
 利秋は悲しげな笑みを浮かべながら消える恋人を静かに見送っていた。
 恋人が消えると共に暗闇は白み、現実の薄闇へと利秋を引き戻した。

「……覚めたのか」
 目覚めた利秋は今居るのが護衛役としてさくらと同居している家だと確認した。
 それからゆっくりと活動を始めた。

「……(ここどこ? このドレスは何? これがあたしの夢? でもあたしこの場所知らない)」
 夢札を使用したさくらはドレスを着せられてどこかの研究所にいた。発する声はなぜだか音にはならず心の声化し、内側から眺めているような状態。

 ふと目の前に見知らぬ眼鏡の男が立っていた。
 その男は不愉快そうにさくらをにらんでいる。
「なんでお前は“桜”として振る舞えない! そんな偽物の笑顔で僕の前に立つな!」
 男の怒気と苛立ちを含んだ声に立ちすくむさくら。
「……(この人は誰? 私、この人知らない)」
 不安に声を上げるも声は一向に言葉にならない。なぜだか笑顔を作らされていたさくらの顔が恐怖に強ばり瞳には平手を振り上げる男の姿が映る。
「……!!(やめて!!)」
 何をされるのか分かったさくらは悲鳴を上げるが、口は動かない。
 男の強烈な平手がさくらの頬に飛んで軽いさくらの体はバランスを崩し、その場に崩れ落ちた。
「僕を“柘榴兄様”となぜ呼ばない!」
 男は怒りが収まらないといった感じで頬の痛みに涙を浮かべるさくらの前に立ち、再び手を振り上げていた。
「……!!(ぶたないで! こんな記憶知らない! あたし知らない!)」
 逃げたくても逃げられず、恐怖の目を男に向けるさくらの奥で必死に声を上げぶたれる自分を見る夢見るさくら。早くこんな夢など終わって欲しいと思うも夢は続き、何度も何度も頬を叩かれる。

 とうとう、
「……柘榴、“私”は“桜”じゃない!(知らない、あたしこんなの知らない、知らない)」
 追い詰められたさくらは立ち上がり悲痛な声と共に男に向かった。その手には『光条兵器』の桜花が握られていた。心はかき乱され、恐怖の絶頂だった。
 さくらをにらむ男の顔は突如恐怖に変わり、一瞬にして勢いよく赤い桜を咲かせた。

 眼鏡の男が散った後、立っているのは男の返り血を浴びたさくらただ一人。
「……あ……あぁあ(何これ、どうして、あたしが……この人を……あぁ)」
 恐怖に震える外と内の声が重なり、一つとなる。

 そして、
「うわぁぁぁぁぁぁ」
 悲痛な叫びが周囲に響いた。
 さくらの意識は悲鳴と共に夢から離れた。

「うわぁぁぁ」
 夢での悲鳴は現実にまで響いていた。
「……ここ……今のは夢……あれは……」
 自分の悲鳴で起きたさくらは今いる場所を確かめようと薄暗い部屋を見回した。
 見覚えのある部屋、動く体、間違いなく現実。だけど、見た夢は頭にこびりついている。
「あたし……あたしが……あの場所もあの人も記憶に無い」
 血塗れで倒れている眼鏡の男、それを見下ろす自分、男の血で汚れた桜花。怖くてたまらない。ちなみにさくらはハツネと契約する前の記憶を喪失しており、前契約者がいるらしいという。

 ふと自分が一人である事に気付き、
「……利秋さん、利秋さん」
 同居している利秋の名前を呼び始めた。
「……さくら、どうした? 悪い夢でも見たのか」
 さくらよりも一足先に起きていた利秋がさくらの声を聞きつけ部屋に来た。
「ふぇええぇぇぇん」
 さくらは利秋の姿を見つけるなり利秋にすがり付き、泣き始めた。怖かった事と現実に戻った事に安堵した涙。
「……しょうがないな」
 利秋はため息を吐きつつさくらの頭を撫でながら泣き止むのをじっと待っていた。