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彼女は氷の中に眠る

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彼女は氷の中に眠る

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 「ほらよ」
 みのりへと暖かいシチューを差し出した。
「あり……がとう……」
「この村はどうだ?」
「……ん」
 人との接触をあまり好まないみのりは一歩引いた所からずっと村人を観察していた。
「人……生きて……いない……みたい」
「ああ、まるで人形が生活しているような村だぜ」

 「まったく、北都は何処に行ったんだ?」
 村をたった一人、ソーマは歩いていた。
「……妙な村だな」
「お♪」
 ソーマの前を都合良く青年が通り掛る。
「ねえ、そこのお兄さん」
「ん、どうしたんだい?」
 近づいてきた青年を『吸精幻夜』でそっと血を抜く。
「……ごめん。人違いだったみたいだ」
「そうか?何かあったら、また呼んでくれよ」
 青年は耕具を担ぎ直すと、角を曲がっていく。
 青年が見えなくなるのを待って、ソーマは水を吐き出した。
「ぐぁ、血の味がしない……てか、こいつ人間じゃないのか?」
 何処にいるか分からない北都を思う。
「北都……大丈夫か?」

 「ここみたい……ですね?」
 加夜は洞窟を見つめ、立ち止まった。
「ジョーイお爺さんは何処に?」
「居ませんね」
 教えられた通りに歩くと、確かに其処には洞窟があった。ただ、肝心のお爺さんが見当たらなかった。 
「お前さん達!」
 声を聞いて某達は振り返った。村のおばさんに教えられたジョーイお爺さんが此方に歩いてくる。
「話は聞いとるよ」
「あの、氷結晶について何かご存知でしょうか?」
「待って、加夜さん!」
 ジョーイお爺さんへと近寄ろうとする加夜を某が止めた。
「どうしたんですか?」
 止めた某を加夜は尋ねるように見た。
「……どうやって?」
「え?」
 加夜の前へと某達が歩み出る。
「どうやってその話を聞いたんだ?」
「君は、何を言っとるのかね?」
「俺達はあんたの足跡をも見ている。残念ながら、あんた以外の足跡一つしか洞窟へ続いていなかった」
「……」
「あんた誰からその話を聞いたんだ?」
 カクッとお爺さんの首が力なく折れた。
「お爺さん?」
 加夜達の前で、お爺さんの身体の中身が暴れるようにグズグズと動いている。
「……存在ノ理由ヲ否定。ハンスノ邪魔ヲシテハイケナイ。排除スル」
 グシャリと人の形が崩れ、異形へと変貌する。
「ハンスの奴が仕組んでいたか」
「ハンスノ邪魔ヲシテハイケナイ」

 持参していた『ギャザリングへクス』を口の中へと流し込む。
「『火術』」
 掌で火球を生み出し、雪人形へと撃ち出した。
「吹き飛べ!」
 火球は容易く雪人形の脚を溶解、吹き飛ばした。
「やったか?」
「まだ、ですよ!」
 雪人形は残る上半身の腕を使い、ズルズルと下肢を引きずり此方に近づいてくる。
 加夜が『怯懦のカーマイン』を抜き、『爆炎波』を撃ちだす。
 ガガガッと上半身を吹き飛ばし、意思を失った雪が空に散る。

 「っ、罠だったのですか」
 綾耶が動かなくなった雪の塊に恐る恐る触れていた。
「ハンスの奴……」
 悔しそうにフェイは歯を軋ませる。
「とにかく一旦村へ戻るぞ!皆が心配だ」
 某が村への帰還を提案する。
 「待って下さい……」
「加夜さん?」
「この洞窟……中を少しだけ見ても良いですか?」
 躊躇うような顔で洞窟の奥を見ている。
「何か……あるような気がするんです」
 「ちっ……」
 舌打ちを和輝はしていた。
(このまま帰れば良い物を……)
「中を……調べましょう」
 某達を伴い、加夜は洞窟へと足を踏み入れようとしていた。
「勘が良過ぎるのは、時に損となるぞ」
「!」
 突然、後ろから声を掛けられた。
「悪いが、此処から逃がす訳には行かないな」

 「うわ、始まったよ」
 アニスは食べていたシチューの皿を置くと、慌てて駆け出した。
「ん?」
「何処に行くんだ!?」
 三月は声を掛けたが、アニスには聞こえていないようだった。
「三月ちゃん、どうしたの?」
「女の子が一人で村の中へ走って行ったんだ」

 ソーマの予想は直ぐに現実の物となった。
「っ、こいつら何なの?」
「ハンスノ邪魔ヲシテハイケナイ」
 正体を見破られた雪人形達は、矛盾を作ろうとするマリリン達を排除しに掛かっていた。村人としての擬態を捨て、人型の異形へと変わっていた。
「あいつら雪だったのか!どうりで!……えーと、何したかったんだか?」
 戦闘態勢をとるが、マリリンは次に何をするかが閃かない。
「雪の自立人形……すごい魔術です。私にも使えるでしょうか?ってそんな場合では無いです。マリリン、寒いから早く思い出して!」
 ジョヴァンニがそっとマリリンへ耳打ちする。
「ご主人様、相手は熱に弱いのですよね?では、ファイアストームなんていかがでしょう?」
「そう、それだ!それが言いたかった。よし、パメラ、『ファイアストーム』だ!」
「は、はい!」
 マリリンはパメラと手を重ね、魔力を二人で練り上げる。
「ダブル『ファイアストーム』」
 ゴウと火柱が立ち上がる。その熱気は自らの皮膚を焼くような勢いで拡散する。
「焼き払うよ」
 炎は雪人形を飲み込み、存在を散らしていく。
「効いてますよ、ご主人様」
「……待てよ?この魔法はどうだ」
「どうしたの、マリリン?」
「『アシッドミスト』」
 酸の霧が雪人形を覆い尽くすが、霧は瞬く間に氷結し、効果を成さなかった。
「ぬぐ、ダメだった!」
 魔法を『ファイアストーム』に構築し直し、再発動させる。
「『ファイアストーム』」

 「北都、無事か?」
 立ち上った火柱を見て、ソーマが駆けつけていた。
「ソーマもね」
「さっさと片付けるぞ」
「そうだね」
 ソーマが雪人形に向かって駆け出す。
「ォオオ……」
 大振りな雪人形の攻撃を半歩身体をずらして避ける。肩へと僅かに手を触れさせ、ソーマは『サイコメトリ』を発動させる。
(「……ハンスノ邪魔ヲシテハイケナイ」)
「何だこいつら?」
「それしかこの人形達は喋らないんだ」
 『アルテミスボウ』で射られた矢が、ソーマの隣にいる雪人形を吹き飛ばす。北都は『行動予測』で雪人形達の動きを読んでいる。
「焼き払う、離れろ北都!」
 魔力を迸らせ、『ファイアストーム』を放つ。
「燃え散れ!」 

 「『ホワイトアウト』」
 アニスの詠唱によって、広場が吹雪で包み込まれていく。
「ふふん、お腹も一杯になったし任務続行だよ。あれ……」
 楽しげなアニスの思惑とは別に広場を包んでいた吹雪が直ぐに消えた。
「おかしいな、『ホワイトアウト』」
 もう一度、アニスは魔法を発動させるが結果は同じだった。
「どうして……?」
 うーんと考えるアニスの隣にいた『賢狼』が吼えた。
「グルル……」
「お仕事中ごめんねー」
「嘘……」
「三月の『殺気看破』が広場から去っていく君を捉えていたのだ」
 アニスの目と鼻の先にルカ達が立っていた。ヒラヒラと挨拶する様に手を振っている。
「君の魔法は『雪使い』で解除させて貰ったから」
「っ、行って『飛装兵』!」
 アニスに命じられた騎兵がルカへとチャージする。
「む……諦めないの?」
「俺が行こう」
 ブンと虫の羽音を立て、左腕から『光条兵器』が現れる。
「はぁ!」
 左腕を振りぬき、正面から騎兵を両断した。
「っ……まだだもん」
 『機晶妖精』と『賢狼』が同時にダリルを襲う。
「『捌きの光』」
 空を埋める光源の雨が二体へ襲い掛かる。
「うー、『レジェンドレイ』」
「『ヴォルテックファイア』」
 アニスとルカの魔法同士が衝突し、対消滅を起こす。
「もう諦めなよ」

 「今だ!柚、三月」
 海の『奈落の鉄鎖』が雪人形を動きを鈍らせる。
「『火術』」
「『則天去私』」
 火球が雪人形を打ち抜き、三月の拳が雪人形を粉砕する。
「次を片付けるぞ!」
「うん」
「今度は僕が行くよ!『闇術』」
 雪人形を闇黒が包み込む。
「ぉおおおお」
 海の『妖刀村雨丸』が閃き、雪人形の足を斬り払う。
「上を潰せ!」
 尚も上半身だけで動く雪人形。
「『サンダークラップ』」
 柚の『フロンティアスタッフ』から雷光が奔り、雪人形へと破壊の牙を剥く。
「オオォ……」
 小さな断末魔を残し、雷光が雪を破壊した。