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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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■第二幕:雪に沈む街

 山間を抜けた先にその町はあった。
 一面が雪に覆われた白一色の世界。そこにポツポツと家が立ち並んでいる。
「皆様、本日は良くお集まりくださいました」
 除雪作業の依頼を出した町役場の人が挨拶をする。
 彼の前には町の人のみならず冒険者たちの姿もあった。
「見てのとおり、深いところでは腰まで雪が積もっています。一人で活動していると遭難するおそれもありますので複数名集まってグループで行動するように心がけてください」
 彼は道具置き場、雪の投棄場所、休憩所の説明を続けた。
 一通り話が終わると集まっていた人たちが各々作業を始める。
 役場の人も除雪作業に加わるのだろう、スコップを片手に移動をしようとしていた。
「ちょっと話を聞かせてもらいたいんだけどさ」
 そう彼に声をかけたのは日比谷 皐月(ひびや・さつき)だ。
 日比谷は気になってることがあるんだが、と前置きをして続ける。
「どうしてこんな依頼を? ……人手不足ってのは分かるけど、若い衆はいねーのか?」
「いるにはいるのですが、この時期になると出稼ぎに外に行く者が多いのです。例年通りなら町の人たちだけで除雪作業は終えられるのですが……」
「なんか理由がありそうだな」
「ええ。数年に一回という程度の割合なのですが、山に降り積もった雪が風に巻かれて町に集まってしまうのです。こうなるともう手がつけられないのですよ。例年ならひざ程度の積雪で済むものが腰まで積もったりと危険なのです」
 なるほどな、と日比谷は頷いた。
「こんな依頼を出して、村の資本は大丈夫なのか」
「毎年、この日がいつ来ても良いように除雪資金を蓄えているのでご安心ください。昔は何年も起きない時期が続いたりで資金を蓄えずにいたこともあったようですが、今は保安上の理由からしっかりと管理されています」
「だが財源が豊かってほどでもないんだろ?」
「ええ、まあ……なにぶん土地が土地なものですから」
「なるほどね。ま、何はどうあれ。雪だるまでも作って、さ。雪の無い地域とか、空京の金持ち相手に商売でもするかね。何、心配すんな。これでも落ち葉拾って十万単位稼いだ事も有んだぞ? オレんとこの空港、交易もやってるし。手間賃は最小限で済む。中間マージンは幾らか貰うけど。ま、村の財源の一つにでもしてくれ」
 日比谷の申し出に彼は驚きを見せた。
「いえ、こちらとしては少しでも財源が増えるのは喜ばしいことですが――」
「それならわしらも手伝わせてもらおう」
 声をかけたのは夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)だ。
 彼の隣には阿部 勇(あべ・いさむ)の姿もある。
「こういう所だと雪は見慣れたモノですが降らない地域では、珍しいものですからね。ネットの知り合いに頼まれてまして。引き取りたいと申し出ている人たちもおられます」
「遠方の小学校まで運ぶんだそうだ。運んだついでに雪の滑り台なんかも作ってやれば子供らも喜ぶだろう」
 阿倍の言葉を補うように夜刀神が続けた。
「小学校相手ならボランティア活動になるな。宣伝効果も期待できそうだ」
 日比谷が頷く。
「それじゃあ空港にオレの船、バスターズフラッグが置いてある。そこに運びこもう」
 話がまとまったところで東雲姉弟が四人に近づく。
「何の話をしてるんですか?」
「金の話だよ」
 日比谷が一連の話をする。
 そして二人に言った。
「ま、切った張っただけが人を救う手段じゃない、と。そういう事だな」
 冒険者にも色々ある、ということなのだろう。

 こうして多くの人を巻き込んだ一大除雪作業の幕が開いた。