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―アリスインゲート1―前編

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9.みんな大好きアンダーグラウンド

【グリーク】
――アンダーグラウンド



 国境に一番近いグリークの都市部は二重構造になっている。
 上層では地上より高いところに道路及び施設ビルを配置し、文明的街並みを繁華している。統制された治安と整頓的区画整備が安定的な暮らしを実現していた。
 だが、下層は違う。
 本来は都市機能には必要でありながらも景観に配慮し見せないもの。主に配管。下水、ガス管、止水栓、電線などを集めて一括管理するために作られた場所という名目ではあるが、その実態は敵国から侵入する敵兵を上層へ行かせないための迷路だ。
 しかし今では、入り組みながらも幾らかの広い空間を居として使う浮浪者の住まう土地アンダーグラウンドという別名に変わっていた。
 上層とは違い娯楽の少ないここでの嗜好といえばやはり、賭博だ。

「フルハス……だ」

 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は賭場で荒稼ぎしていた。
 簡易酒場にボロいテーブルと椅子、電気ランプを囲んでの「ホールデム」をしていた。手札の2枚と場の共有(コミュニティー)カードを合わせて役を作るポーカーの一種だ。
 ここではディーラーがいない代わりに、親役が5枚の共有カードをラウンドごとに山から引いてオープンする。親は勝てば倍額徴収できるが、フォールドができない。役によるボーナスはなく、その手の強さだけで勝者がチップを総取りできる。
 勘五郎他席に座っているのは5人。上手に草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)と浮浪者が3人。その様子をホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)永井 託(ながい・たく)が眺めている。
 スワファル・ラーメ(すわふぁる・らーめ)は長剣に変形し浮浪者側の壁に立てかけられている。「武器を傍らに置くのは失礼だ」と勘五郎が態と離れた場所に置いていた。

スワファル:右A 3 中2 8 左 10 J
羽純:親ではあるが、わらわの手では今回は勝てそうにない。勘五郎に勝ってもらおう。

 微弱な《ヒプノシス》を使い注意が逸れている間に、羽純は勘五郎にKを渡した。共有カードと合わせて少なくともこれで勘五郎のスリーカードが確定した。
 言ってしまうと、金を稼ぐために彼らはイカサマをしている。
 羽純がスワファルと《テレパシー》で相手手札状況把握し、《ヒプノシス》によるレイズとコールを誘導。負けている感覚を麻痺させ、三人から平均的にチップを奪っていた。
 勝負をしているその間に勘五郎とホリイが情報を訊くのも負け勘定をさせないためだ。
「おじさんおじさん。さっき言ってたここに出る変な奴って何?」
 酒場には入った時に耳にした「変な化け物が彷徨いていた」という話がきになりホリイが尋ねる。
「ここに来るときにな……何かぬめぬめしたでかいタコが配管の隙間に入っていくのを見たんだよ。もともと物騒な場所だけど、化け物まで現れはじめたんじゃないかって話だ」
「オレも別の所で叫び声を聞いたぞ……なんか『ニンジャが天狗が』とか」
「もしかしたら”あそこ”から何かできているんじゃないか?」
「あそこってなんだ?」
 託が気になって尋ねる。
「ここの閉鎖区域にある、小さな次元の裂け目のことなんだけどな。たまに変なモノが底から出てくる事があるんだよ」
「そういや、あそこから足のない男が這い出してきたって話も前にあったな」
「人がか? おぬしらそいつがどこにおるか知っているか?」
 勘五郎が食いつく。もし、自分たちと同じ世界からこっちに流されてきた人間だとすれば、何らかの情報が得られると思ったからだ。
「確か、企業の『人買い』に連れて行かれたんだっけな」
「人買い?」
「若い浮浪者を狙ってノースの『ESC』ってところが『人買い』の斡旋をしているんだよ。化学兵器の実験体が欲しいんだろうな。でも自国民を実験に使うわけにはいかないから、ここに仲介役を置いて浮浪者を拉致しているって噂だ」
「ここにいるのは国境での戦争で住所をなくしたやつらばかりだからな。何人かいなくなっても、探す奴はいないからな。俺らにとってもここに来るような奴はカモだし」
 などと浮浪者たちがゲラゲラと笑う。今まさにカモにされているのはお前たちだというのに。
 その笑いに乗じて別の席から立った低身の男が彼らの後ろを通り過ぎる。
 男は立てかけられたスワファルを手に取り、すかさず店の出口へと走り出す。
「おっとそうはいかねぇよ」
 盗人に対し、託が進路に立ちはだかる。
 盗人は今持っている武器、スワファルで殴りかかり逃げようとした。しかし、
「まあこれも醍醐味ってところかな」
 鈍い剣さばきの内側に潜り込み、託は盗人の腹部にカウンターパンチを突き刺す。てから溢れる剣を取り上げ、勘五郎に返した。
「そっちからやろうとしたんだから、不可抗力ってことでよろしくねぇ」
 と呻く盗人に言い聞かせ、席の浮浪者にも顔を向けた。浮浪者たちはバツの悪そうな顔をしていた。
「なるほど……助かった。ではもう少しだけ稼がせてもらうとしようか?」
 勘五郎は託に礼を言うと、浮浪者たちからできるだけ金を巻き上げる決意をした。