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―アリスインゲート1―前編

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―アリスインゲート1―前編

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5.さて、なぜ君たちは異世界の言語がわかるのだろうか?

【グリーク】
――商業施設


アサト:おい、”また”アリサの奴が迷子だとよ。

「どうかした?」
 空を見る榊 朝斗(さかき・あさと)アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が尋ねる。天蓋には広告と販促ムービーが流れる。サインカラーが目を誘う。
 しかし、朝斗の目はどこにも止まっていなかった。
「ああうん。アサトがね、アリサさんのこと言ってて、また迷子だってさ」
「またって……そういや、あの娘、列車も間違ってたらしいわね……」
 ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)が呟く。
「とは言え、今では世界単位で迷子なのよね」
「街中で迷子になるなんて今更ですね……」
と、アイビスも頷く。
 
朝斗:アリサさん、大丈夫ですか〜?
アリサ:迷子になんてなっていません。ただ、ここがどこだかわからないだけです!

「駄目だこの人……早くなんとかしないと……」
 テレパス会話にため息が出る。アリサの近くにいないので朝斗にはどうしようもないのだった。
 今彼らが居るのは、鉄の壁よりも向こうの国、【グリーク国】内の総合所業施設。つまりショッピングモールだ。吹き抜けの建造物の側面に幾つものテナントが組み込まれている。衣服店から食品店、本屋によくわからないものまでなんでもある。
 そのぶん人の出入りも多く、賑わっているのだが、ルシェンが【吸血聖女の修道服(吸血貴族の法衣】を着ているのが原因で、ナンパが断続的に寄ってくる。その度にアイビスが装飾花壇の砂利石をつまみ上げては砕いて「潰しますよ」と威圧していた。
「異世界にきてもたくましいねぇ〜」
 本らしい本が一つもの置いていない書店らしきところからミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が出てきた。なぜ、書店とわかるかって? そう読めるから。
「あら、可愛い子……」
 ルシェンの視線がミルディアにロックされる。
「やっほーあさにゃん♪」
「ミ、ミルディアさん……何か買ったの?」
 彼女の手にあるビニル袋の中身を朝斗が尋ねる。書店で買ったのだから本なのだろうけど。
「歴史の本なんだけどね……紙のがなかったからこんなのなんだけど」
 まずは歴史的見地からこの国を知ろうとしているミルディアが「ぼくらの国の歴史Inぐりーく」とどう見ても子供向けのゲームパッケージのような箱を袋から取り出した。対象年齢10歳と書かれている。
 パッケージの中にはメモリーカードが入っていた。
「店においてあるのはこれだけって言われたんだよね。でもどうやって読めばいいんだろう?」
 他にもあっただろうに、店員はなぜこの本を選んだのだろう?
 ミルディアの取り出したカードをアイビスがじっと眺める。これ単一では中身を見ることはできないようだ。しかし、何かに挿し込めるようにはなっていない。
「どうすればいいんでしょうねこれ?」
「パッケージには何かにかざすとそれにインストールされるって書いてあるんだけど、あたしこんなの持ってないのよね」
「それってこれじゃないかしら」
 ルシェンが胸元のブローチを外す。先ほど買っておいたこの国の電子端末接続装置で「AirPAD」と言うらしい。使用者の脳波を読み取り、空中に画面を展開するとのことだ。この国の公共端末を使うにはこれが必要とのことだ。形状はこの他にもブレスレッド型や指輪などもあった。
 言い寄ってきたナンパをひねって聞き出しておいてよかった。
 早速ミルディアはブローチにカードをかざした。ブローチ内部が電子的に赤点滅し、緑へ変わる。
 空中にディスプレイが展開され、本の中身が現れる。
「おおーすごいすごい!」
「ふふもっと褒めてもいいんですよ……」
 ルシェンがうれしそうで何よりである。
「ここで立ち読みするのもアレだし、どこかの店にはいらない?」
「そうですね。次の不埒者が来ないうちに」
 朝斗の提案になどとアイビスが賛同し、彼らは飲食テナントへと入っていった。