リアクション
○第二十一試合 * * * この試合結果に一番文句を言っていたのは、笠置 生駒(かさぎ・いこま)とシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)だ。 「だーっ、負けたーっ!」 「何やの、えらい大損やん!」 手製の名刺サイズの紙をビリビリ破り、その二人は足元に投げ捨てた。どうやら賭けをしていたらしい。とすると、 「真柄さんに賭けてくれたんだ……」 と、シャノンはちょっと嬉しくなった。賭けがこの御前試合で許されているかは知らないが――多分、禁止されているだろう――、何となく声を掛けたくなる。 「あの」 「こらーっ、猿、空気読めーっ!」 ジョージが試合場から、怪訝そうな顔でこちらを見ている。どうやら知り合いらしい。 「せやでーっ。パートナーなんやから、しっかりしいやーっ」 「え゛?」 ――パートナーの負けに賭けたの? シャノンは呆気に取られて、ぷりぷり怒る二人を眺めていた。 勝者:ジョージ・ピテクス ○第二十二試合 北門 平太(宮本 武蔵)(葦原明倫館) 対 仁科 耀助(葦原明倫館) 「ようやく俺の出番か。待ちくたびれたぞ」 櫂を削って作った木刀を担ぎ、平太(武蔵)は試合会場に足を踏み入れた。これが一回戦最後の試合ということもあり、観客の興奮は最大限に盛り上がっている。 「――む? 俺の相手はどこだ? 遅れているのか? さては俺の真似か?」 恭也がプラチナムと何か話している。ややあって、マイクをぽんぽんと叩きながら、恭也が中央に進み出た。 「えーっと、ご説明します。一回戦最後の試合ですが、北門選手の対戦相手、仁科選手が棄権しましたので、北門選手の不戦勝となります」 「何ぃぃぃぃ!!?」 会場全体から、大ブーイングが巻き起こった。 「貴様! それはどういうことだ!?」 平太(武蔵)が恭也の襟を掴む。 「いやどういうことかと訊かれても困るんだけども、棄権しますって置手紙があってドロン……」 だってさ、と後に仁科 耀助はこう語った。 『平太を焚き付けたのはオレだしさ。これでオレが勝っちゃったらアレじゃん? 平太、「妖怪の山」に行けないかもしれないし?』 自分が負けるとは、露ほども思わなかったらしい。 『試合でわざと負けてもいいんだけど、そういうの目ざといのがいるし。なら、最初から出ない方がいいでしょ。どうせオレは、先輩命令で人数合わせで出たんだし? だから棄権――わけは何でも良かったんだけど、何だっけ? 怪我? 病気? あ、書いてなかった? それじゃみんな怒ったかなー?』 案の定、平太の中の武蔵が一番怒っていた。 「俺に戦わせろぉぉぉぉ!!!!」 不戦勝:宮本武蔵 * * * 「どうしたもんかな」 一回戦が終わり、昼休みの休憩時間になった。プラチナムと恭也は額を突き合わせてひそひそと話している。 話題の主は、武蔵だ。本来なら順当に勝ち上がったとして、二回戦でも最後の対戦となるはずだが、不戦勝だったためか「今すぐ戦わせろ」「次にやらせろ」と煩い。 下手をすると、二回戦第一試合に乱入しかねない勢いだったので、とにかく対策を練ると答えて、いったん引き取ってもらった。 「カードをずらす前例がないわけじゃないのですが」 以前の御前試合では、引き分けが立て続き、同カードの対決が並んだことがあった。それでは面白くないので、対戦相手をシャッフルしたのだ。 「でもそれは、そういう事情があったからだろ?」 武蔵のワガママを通していいものかどうか。 「総奉行に相談するか?」 「いえ、出来れば我々で解決したいです」 御前試合の公式審判として、プラチナムにはある程度の権限が与えられている。不正に関しない限り、自由に裁量できるのだ。 「二回戦のトップは、と――おお、前回の準優勝者が出るのか。俺、これ紹介したい」 「駄目です」 審判は、負担が偏らぬよう半々にすると決めてある。 「――なるほど、負担にならぬよう、ですか」 「え?」 「選手のダメージが公平になるよう、北門選手を一試合目に配置しましょう。全く戦わなかった人間と、一試合戦い抜いた選手を同列に扱うわけにはいきませんから」 何より参加人数を見ると、一人は確実に不戦勝になる。次も同じことになれば、武蔵は多分、暴れる。 プラチナムは、平太のカードをすっと移動させた。 「――なるほどね」 物は言いようだな、と恭也は笑った。 |
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