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第三回葦原明倫館御前試合

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第三回葦原明倫館御前試合

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二回戦


   審判:プラチナム・アイゼンシルト
○第一試合
猪川 庵(いかわ・いおり)(天御柱学院) 対 北門 平太(宮本 武蔵)

「よしっ、ようやく戦える!」
 平太(武蔵)はにやりと笑った。
「言っとくけど、そう簡単にはやられないからね! これでも前回の準優勝者なんだから!」
「それは楽しみだ」
 馬鹿にしているでもなく、平太(武蔵)は心底嬉しそうに笑む。
「行くよっ! 全力全開、紅の烈閃衝!!」
 庵の体力、気力、魔力の全てが上昇していく。だが平太(武蔵)は技の発動を待たず、彼女の眼前に木刀を振り下ろした。
 はらりっ、と庵の髪が宙に舞う。
「危なかった……」
 間合いを取った庵は、頬にじんじんとした痛みを感じ、そっと指で拭った。血だ。風圧か、直接当たったのか分からないが、今の一撃でついた傷だろう。
「強い……でも負けないっ!」
 庵は銃を構えた。平太(武蔵)がどう出るか、その瞬間を狙うつもりだった。
「いい判断だ。――が」
 にやりと笑い、平太(武蔵)は木刀を振るった。切先から迸る冷気が、銃と庵の手を凍りつかせる。
「そんな!?」
「これで撃てまい?」
 攻撃続行不可として、平太(武蔵)の勝利が宣言された。

勝者:北門 平太(宮本 武蔵)


○第二試合
戦部 小次郎 対 マネキ・ング

「我の前に道が出来るっ! 制圧前進のみ!」
 猫のように手を丸め、マネキは両手を片足を高く上げた。
「打つべし!」
「うおっ!?」
 ハリセンが外れ、胸を強く突かれた。小次郎の息が一瞬、止まる。
「打つべし!」
「何のおっ!」
 バットのようにして、ハリセンを振った。拳とハリセンがすれ違い、マネキの顔面に軽い音を立てて当たる。もちろん、痛みはない。
「打つべぇぇぇし!!」
 三発目の拳。
「つまらんわあああ!」
 ハリセンと拳が激しくぶつかり合った。もちろん、物理的に考えればハリセンが敵うはずもない。だが、小次郎の強固な意志により、その瞬間のハリセンはこの世界におけるどんな鉱物よりも硬くなっていた――らしい。
 とにかくマネキは痛みに叫び声を上げた。拳にふーふー息を吹きかけながら、
「ち、ちょっと手加減しただからなっ!? べ、別にお前が強いなんて思ってないぞ!」
と去っていく。
 一人残された小次郎は、手元でぐしゃぐしゃになったハリセンとマネキの遠ざかっていく背中を見比べながら、
「……これ、ハリセンですよね?」
と首を傾げた。

勝者:戦部 小次郎


○第三試合
ルカルカ・ルー 対 リカイン・フェルマータ

「リカイン様」
 プラチナムは、リカインに声をかけた。まじまじと彼女の頭を見つめ、
「それはカツラですか?」
と尋ねる。
「……あっ」
 リカインは自分の髪の毛を軽く引っ張った。本来セミロングのはずだが、今は腰まで伸びている。地毛ではない。カツラでもない。海月型のギフトであるシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)が、彼女の頭を気に入り、定位置としてしまっているのである。
「すみません、やっぱりこれ……駄目ですよね?」
「駄目ですね。カツラならともかく、ギフトですから。貴女が攻撃されれば、応戦するでしょう?」
 リカインの髪の毛が、ぶんぶんと揺れた。彼女の頭が動いていないにも関わらず。少々、ホラーな光景だった。
「ムーン、客席へ行きなさい」
 リカインは自分の頭に命じた。ムーンは嫌々と言うように、震える。
「私が反則負けになってもいいの?」
「……」
 一本、また一本と繊細で大量の触手がリカインの頭から離れていく。あまりにスローペースなので、プラチナムがむんずと掴まえて無理矢理引き剥がそうとしたら、手に刺すような痛みが走った。ムーンが真っ赤になっている。どうやら怒ったものらしい。
 それでもリカインに迷惑をかけまいと、海月はふよふよと観客席へ向け、飛んで行った。今度はホラーではなかったが、かなりシュールな光景だった。
「お待たせしました」
「面白い仲間がいるのね」
「甘ったれで」
 リカインは笑った。観客席では中原 鞆絵の中の木曽 義仲がぶつくさと文句を言っている。
「敵を相手に和やかになってどうする」
 その声が聞こえたのか、リカインはきりっと表情を引き締めた。
「それじゃあ、行くわよ!」
 リカインは手にしていた盾を力いっぱいぶん投げた。
「!?」
 ルカルカは咄嗟に避けた。しかし、武器でもある盾を手放しては攻撃も出来まいとすぐ地面を蹴った。
 が、盾には鎖が結びついており、まるでヨーヨーのようにリカインの手元に戻った。
「嘘!?」
「奥の手は隠しておくものよ!」
 ルカルカの木刀を盾で受け止め、すうっと息を吸った。
 まずい、とルカルカは思った。相手は歌姫だ。そしてこの技は――。
「間に合え!!」
【咆哮】が、今の今までルカルカがいた場所を通過した。
「どこへ!?」
「こっち!」
 ルカルカは地面すれすれの位置から、木刀を斬り上げた――。

*   *   *


「これで終わりか!?」
 鞆絵(義仲)ががばっと立ち上がった。
「納得いかん! わしにもう一度やらせ――」
 バチッ、と何かが弾け、鞆絵(義仲)はへなへなとその場にへたれ込んだ。気絶しているらしい。すぐ傍で、ムーンが素知らぬ顔――顔があるのかどうかよく分からないが――でふよふよ浮かんでいた。

勝者:ルカルカ・ルー


○第四試合
リンゼイ・アリス 対 レキ・フォートアウフ

 試合場へ向かう通路で、リンゼイは瞑想していた。木刀は素晴らしく手に馴染んでいた。長さ、重さ、握りやすさ、問題はない。何かあるとすれば彼女自身にだが、体調も良く、心の内はこれまでになく穏やかだ。
「――さあ、参りましょうか」
 呟き、リンゼイは立ち上がった。

 一礼の後、リンゼイとレキは相対した。レキの武器は模擬戦用ランス。先端恐怖症のリンゼイにとって、あまり相性のいい相手ではない。なるべく武器そのものは見ないようにする。
 リンゼイは正眼に構えた木刀で、レキの真正面から打ちかかった。レキはランスでそれを捌き、更にリンゼイの手首を突く。リンゼイは木刀を咄嗟に左手に持ち替え、ランスを避けるように、レキの肩を強く突いた。
 衝撃でレキがよろめく。
「今です!」
 リンゼイは木刀を振りかぶった。
 レキはとととっ、とよろめきながらもランスを突き出す。僅かな差――長さの差だった。恐怖で身が竦んだせいもあるかもしれない。木刀より先に、レキのランスがリンゼイの腰を突いた。
「しまった――!」
 プラチナムはどちらが先か、判じかねているようだった。相手がランスでなければ、後れを取ることはなかったろう。黙っていれば、或いは――と考えたのは、ほんの一瞬だった。それは、潔いとは言えない行為だ。
 リンゼイは自ら、敗北を認めた。
 中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)が拍手をすると、それは会場中に広まった。

勝者:レキ・フォートアウフ