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桜と料理と酔いどれゾンビ

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桜と料理と酔いどれゾンビ

リアクション



酔いどれゾンビの宴会会場



 相変らず混沌としている桜花公園。

「あらあら、口から白い液体が垂れてるわよ。いやらしいわね」
 他の酔いどれ達から離れた場所で、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)魏延 文長(ぎえん・ぶんちょう)と共にお花見をしていた。
 祥子に口移しで飲まされた甘酒が、リーラの口の端から零れる。
「そういう貴女こそいやらしい体つきしてるじゃない。特に胸の形とか」
 そう言って祥子の胸に手を伸ばすリーラ。
 酔いの勢いで親交を深めよう、とは祥子の提案であったが、これは流石に度が過ぎてるんじゃないかと傍で見ている魏延は思う。
(とりあえず巻き込まれんよう背中向けとこっと…)
 魏延は仲睦まじい二人に背を向け、静かに酒を飲み始める。
 
 しかし数口飲む間も無く、魏延の背にリーラが飛びかかった。
「魏延〜! 一人寂しく飲んでないで一緒に飲みましょうよ〜」
 リーラは魏延に抱きつくと、手に持った酒を魏延の口に流し込んだ。
「むごっ! わ、分かったから無理に飲まさんといて…!」
 酒を飲み干し咳き込む魏延。するとその顔が徐々に赤らみ始める。
「あれ…わてそんなすぐ酔わへん方やのに……?」 
 頭がぼ〜っとして思考が纏まらない。体は火照るし、しかも体中痺れてきたような気が……?
 顔を上げた魏延の前には、回り込んだリーラの笑顔が。
「さあ魏延、楽しく遊びましょうね〜?」
 笑顔が怖い。そう感じた魏延は逃げようとするが、まともに動かない体にリーラのアブソービングドラゴンが噛み付く。エネルギーを吸い取られて力の抜けた魏延は地面に倒れこんだ。
(お、落ち着け。何されても動じたらアカン。き、気丈に振舞わな…)
「あなたのもいい形してるわねぇ。祥子とどちらが大きいのかしら?」
 そう言って魏延の胸に頬擦りしたり、マッサージを始めるリーラ。
「ちょ!? やめて、セクハラだめ! 絶対!! やめ…いやぁぁぁ…!!」
 
 魏延の悲鳴が公園中に響き渡った。

「ん?」
 魏延の携帯が鳴っているのに気付いた祥子が、絶賛お取り込み中の魏延に代わって電話に出る。
 表示されてた名前は魏延の相方、夜月 鴉(やづき・からす)であった。
「魏延ー楽しんでるかー?」
「ごめんなさい、魏延は今お取り込み中で電話に出れないの。ちゃんとお花見を楽しんでるから大丈夫よ」
「ん、そうか。まあ楽しんでるならいいさ。飲みすぎて倒れないようになーって言っといてくれ」
 そう言って鴉は電話を切った。当の魏延は今まさに『お楽しみ中』である。
 リーラに体中弄られている魏延は先程から「らめぇ」とか「あひぃ」とか情けない声を上げ続けている。
 抵抗しようとしても体に力が入らずすぐさまリーラに押さえつけられる。それもそのはず。リーラが先程魏延に飲ませたお酒は桜酒。しかも、リーラはその酒に『しびれ粉』と『どぎ☆マギノコ』の粉末を混ぜていた。
「あらあら、可愛い声で鳴いてくれるじゃな〜い♪」
 魏延を弄りながら自分用の通常の桜酒を飲むリーラ。普段はいくら飲んでも顔色一つ変わらない彼女だが、今は桜酒の効果かほんのりと頬を赤らめ、上機嫌な様子である。
「リーラ、私も楽しませてちょうだいよ。見てるのも楽しいけど、でもそれだけじゃやっぱり物足りないわ」
 祥子がリーラの元へ寄ってくる。こちらも大分酔いが回っているらしく、顔が上気していた。
「あら、ごめんなさいね、一人にさせて」
 口付けを交わす二人。その隙にと最後の力を振り絞って逃げ出そうとした魏延であったが、リーラのドラゴンに捕まり抵抗虚しくその場で力尽きた。
「ねえ、あとで私の家に来ない? お花見の時間だけじゃ短すぎるわ。『お花見』もしなきゃだし…ね?」
「あら、それはどういう意味かしらねぇ?」
 満身創痍の魏延を余所に二人は抱き合い、親睦を深め合う。

「何でわてがこんな目に…わてなんも悪い事しとらんのに…グスン」


『いやー非常に百合百合しい展開になってまいりました!』
 祥子達の行動を眺め実況するキャロル著 不思議の国のアリス(きゃろるちょ・ふしぎのくにのありす)
『あ、百合百合しいってのは女の子同士のキャッキャウフフな状況の事でございます。知らない人は覚えてねっ☆』
 どこか別次元の方角へ向かってウインクをするアリス。
「これはあれですね。○○○が○○○なってますね。お、×××を×××し始めました。○○○は×××だから○○なんですよねえ」
 とてもじゃないが公衆の面前で言い放って良いとは思えぬ単語を羅列し、多比良 幽那(たひら・ゆうな)が冷静に解説を行っていた。
『仲睦まじい二人組みを眺め続けるアリスと幽那。するとその視線の先で、抱き合って何事か言葉を交わしていた二人が離れ、片方の女性が竜の頭のようなものを顕現させた』
「桜の一部を食べるとこのお酒の効果が消えるらしいわね。もしかして木その物を食べてみようってことなのかしら…って、あんな大きな頭で桜の木を齧ったら駄目でしょ! 木が倒れるわよ!? こらそこの貴女、やめなさーいっ!!」
 酔ってふらついた足取りで祥子達の元へと駆ける幽那。アリスは変わらず解説を続けている。

『幽那ちゃんは酔っ払いの暴挙を止めるため単身敵地へと乗り込んで行きますっ! 当の幽那が酔っているのは突っ込んだら負けである。全ての草を、木を、花を、愛しますと豪語する彼女であるが、果たして彼女は大切な植物の命を守れ……』
「あ〜り〜す〜たんっ! つ〜かま〜えた〜☆ シャナと一緒に遊ぼうぴょん☆」
『おわぁっ!?』
 背後からいきなり抱きつかれ力の限り抱きしめられ頬擦りされたアリスは思わず解説を止め悲鳴を上げた。
「アリスたんは可愛い! こんなにもちもちもふもふで可愛過ぎるのは大罪です☆ 可愛過ぎてもう、片時も手放したくありません☆ 判決! 極・刑☆」
 そう言ってウサギ耳を唇ではむはむと甘噛みする富永 佐那(とみなが・さな)
『え〜飛びかかってきたのはブルーのウィッグとグリーンのって止めて耳甘噛みしないでお願いだから止めちょ腕力入りすぎ貴女格闘技習ってなかったっけ痛い痛いたいたあああああああぁ!?!?』
 聞こえていないのかそもそも酔っ払って力加減が効かないのかミシミシと音が聞こえそうなほど力強くアリスを抱きしめる佐那。
「ゆ、幽那ちゃん、助け……」
 堪らずパートナーに助けを求めるアリスであったが、当の幽那はリーラと激闘を繰り広げており、こちらに気付く様子はない。
 せめてお供のアルラウネ達が気付いてくれれば…と思い視線を巡らすが、アルラウネ達はこちらも酔いが回った様子で魏延を弄ったり祥子と仲良くしたりで、全然気付いてくれない。
 その時、ぽきっ、という音。
「あふっ」
 変な声を上げてアリスの全身から力が抜けた。
「あれ〜? ありすたんどうしたのかな〜? あ、そっか! きっとシャナに甘えたいんだね! いいよ〜もっとなでなでもふもふむぎゅ〜してあげる☆」
 完全に意識の飛んでいるアリスであったが、桜酒により酔いどれ度MAXの佐那はそんなことにも気付かずアリスに頬擦りしたり撫でたり一方的に話しかけ続けていた。
 幽那は未だ戦闘中である。アルラウネやミラーイメージ、更には祥子や全身ぼろぼろの魏延まで巻き込んで皆で暴れている。アルラウネ達とリーラの竜頭が衝突する。
 アリスの危機に気付く様子は、微塵もない。


「うわぁ…何か凄いことになってる」
 桜花公園を訪れた榊 朝斗(さかき・あさと)は酔っ払い達の惨状を見て唖然とした。
「ルシェンは…っと。あ、あんなとこに」
 公園を見回していた朝斗は、酔っぱらい達の中心、メルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)とその周りを囲む一団の中にルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)の姿を見つけた。
「折角お花見に来たのになんでこういう騒動がおきるのかしら…。ほらルシェン、人様に迷惑かけない……んぐっ?!」
 酔っ払った様子で大声で騒いでいるルシェンに歩み寄り注意しようとしたアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)だったが、立ち上がったルシェンは強引に酒を飲ませてきた。
「ほらほら! 遠慮せずもっと飲みなさい!」
 完全に出来上がっているルシェンはアイビスの口に酒の入ったコップを押し付け、無理やり飲ませる。
「けほっ、何するの! 人様に迷惑かけるわけには……あれ、何だろ、なんか…凄くいい気分〜♪」
 怒るアイビスの表情が徐々に和らいでいき、終いにはにこにこと笑って幸せそうな表情に。

「え、アイビス?! 何で酔っ払って…!?」
「朝斗も飲もうよ〜このおさけすっごく美味しいよぉ〜♪」
 呂律の回っていないアイビスが朝斗にお酒の入った紙コップを差し出す。
「いや僕はいらない…ってそうじゃなくて! 何でアイビスまで酔っ払って……」
「こんにちわぁ〜ギューさせて下さいギュー♪」
「うわぁ!?」
 突然背後から誰かに抱きつかれ素っ頓狂な声を上げる朝斗。
「何故だか、分からないんですけどぉ、私今すっごくたのしー気分なんですー。幸せのおすそ分けしなくちゃですーギュー♪」
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)はそう言って朝斗を抱きしめる。
「ちょっ!? リース!! 流石にそれはまずいから!! わーわーストップ! リースストップッ!!」
 大慌てでリースに駆け寄ったマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)は後ろからリースを羽交い絞めにし、朝斗から引き剥がす。
「まったくもう…あれってただの紅茶じゃなかったの!? 何でこんな事に……ってひゃあっ!?」
「マーガレットも可愛いです〜ギューさせてくださいギュー♪」
「ちょ、やめてぇ!!」
 今度はマーガレットに抱きつくリース。完全に泥酔しているようだ。

「びっくりした…一体何なんだ? 何で皆こんな状態に…」
 安心したのも束の間、今度は別の人物が朝斗と肩を組むようにしてもたれ掛かってきた。
「おまえまだ飲んでないのかぁ〜。ほら〜遠慮せずにのめぇ〜」
 呂律が回っていない声で朝斗に酒を進めるのはこちらも泥酔した様子のメルヴィアであった。
「いやその、僕は別にいりませんので…」
「わたしのさけがのめにゃいってかぁ〜!?」
 どうやらまともに会話できる状態ではないらしい。どうすべきか思考を巡らせる朝斗だったが、突然アイビスが抱きついてきたため思考が中断される。
「朝斗〜だいすきだよぉ〜♪」
「ちょ、アイビス落ち着いて。ってか痛い、アイビス、力加減間違ってる痛い〜っ!」
 アイビスは好き好きと連呼しており、その声に反応してレゾナント・アームズがアイビスの腕の力を上げていた。しかも今のアイビスは酔いが回っていて力加減ができるわけもなく…。
「あ〜楽しそうですね〜。私もギューします〜♪」
 マーガレットの腕をすり抜けたリースが朝斗とアイビスに抱きつこうとする。
「あ、こらリース!」
 再びリースを静止しようとするマーガレットだったが、その間にルシェンが割り込んだ。
「あなた飲んでないでしょう? ほら、遠慮せずに飲みなさいっ」
「いや、私はいいから! というかそんなことしてる場合じゃ…」
「いいからほらじゃんじゃん飲めえぇ!」
「なんだ〜まだ飲んでないやつがいるのかぁ〜?」
 無理やり酒を飲ませようとするルシェンにメルヴィアが加わり、二人でマーガレットに襲い掛かる。
「ちょっと待って! お願い待ってぇぇぇっ!!」

「リース楽しそう! ラグエルも一緒にハグするっ!」
 ラグエル・クローリク(らぐえる・くろーりく)はそう言って『タイムコントロール』で体を成長させる。大人の姿になったラグエルが抱き合うリース達に飛び掛った。
「おわあっ!?」
 勢いを付けて抱きついたラグエルはそのまま全員を押し倒した。一番下になった朝斗が「苦しい〜」と呻っている。
「ごめんね。勢いつけすぎちゃった」
「いいですよ〜このままぎゅ〜しましょうぎゅ〜♪」
「うん! ぎゅ〜♪」
「朝斗〜ぎゅ〜♪」
 朝斗に抱きついたアイビスと、その二人に抱きつくリース達という現状。
 さらに。
「リースちゃん楽しそう♪ 私も仲間に入れてもらいたいわぁ〜♪」
 シートに座っていたセリーナ・ペクテイリス(せりーな・ぺくていりす)が楽しそうなリース達に混ざろうと這いよる。
「はぁ、何とか抜け出せ……っ!?」
 どうにかアイビスの腕から抜け出した朝斗であったが、その腕や足に植物の蔦が絡まりつく。
「私もぎゅ〜するんです。逃げちゃダメですよぉ〜?」
 宿木の蔦で朝斗を捕らえたセリーナが、リース達に混ざって朝斗に抱きついた。
「朝斗逃げちゃダメ〜」
「にげちゃだめですぅ〜」
「ダメだよ〜♪」
 再びアイビス達に捕まった朝斗。そこに、マーガレットに酒を飲ませ終えたメルヴィア達が戻ってきた。マーガレットは幸せそうな顔で地面に座り込んでいる。
「おらぁ〜飲めぇ〜」
「ほら朝斗、あんたも飲みなさーい!」
 アイビスやリース達に押し倒され抱きつかれ、さらに宿木の蔦で体を拘束された朝斗に抵抗などできるはずもなく……。

 数秒後、そこには大量に酒を飲まされ酔いつぶれてダウンした朝斗の姿があった。

「あらら〜寝ちゃいましたね〜。それじゃ今度はセリーナさんにぎゅ〜しますよ〜♪」
「あ、いいなー! ラグエルもぎゅーしたい!」
「ラグエルちゃんも一緒にしましょぉ〜♪ マーガレットちゃんもこっちにいらっしゃいな〜♪」
 セリーナに手招きされ、マーガレットがよたよたとこちらに近寄ってくる。
「皆一緒で幸せですよぉ〜♪」



「ん〜、うまい酒やのぉ。桜酒とかいうたか。正に花見にうってつけの酒やな〜」
 こちらもメルヴィアに酒を飲まされた被害者、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)
「花見といえば酒。とはいうても、酒を飲み、花を見て浮かれるか、憂いに沈むかは、人それぞれやな」
 今は一人離れ、静かに桜酒を飲みながら桜を眺めていた。
 はらはらと落ちる桜の花弁。それを見つめ、泰輔は呟く。
「毎年花は同じように咲く。が『同じような』であって、人々と同じく、来年の花は今年の花と『同じ』やない。散る花。でも何よりも今、咲いてる花をきちんと愛でんとなぁ。でないと花が可愛そうやて」
 泰輔はメルヴィア達へと視線を巡らす。あちらは相変らず酒をがぶ飲みしながら大声で騒いでいるようである。
「まぁ、花見の楽しみ方は人それぞれでええか」
 そう言って酒を一口。
「酒に酔うたか、花の美しさと儚さに酔うたか、わからんとこまで、おもしろい。どれ、詩吟でも一曲、うたおうかね」
 酒を下ろし、ゆっくりと口を開く。
「洛陽、城東、桃李の花、飛び來り、飛び去りて、誰が家にか 落つる」
 劉希夷「代悲白頭吟」。泰輔はそれをゆったりとうたいあげる。

「但だ看る、古來歌舞の地。惟だ、黄昏に、鳥雀の悲しむ、有るを」
 そして最後までうたい終えた直後、ぱたりと横になるや否やすぐさま眠りこけてしまうのだった。



「君の美しさに皆すっかり酔っているよ。本当に綺麗だね。白い花弁がとても魅力的だよ」
 そう言って桜の木を抱きしめるのはエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)である。
「ああ…また花を口説いてる。酔うといつもこれなんだから…」
 パートナーの行動に頭を抱えるのはリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)。エースは桜酒を飲んでしまい、完全に酔いが回っていた。
 桜の木を褒めちぎるエース。ふと、彼の視線は桜の下でお酒を飲んでいるメルヴィアの、可愛らしいピンクのリボンに。
「ピンクのリボンが桜の花みたいだね」
 イタズラ心でリボンをそっと解く。すると、怒ったような表情だったメルヴィアが突然泣き出しそうな子供のような表情になってこちらを見上げてきた。
「めるめるのリボン返してぇ〜!」
 今にも泣き出しそうな様子のメルヴィア。そのあまりの変容っぷりに驚きを隠せないエースだったが、すぐに座り込んだままのメルヴィアに視線の高さを合わせると、子供をあやすように優しく話しかける。
「ごめんね、リボンがあまりにも可愛らしいものだからつい。はい、返すよ」
 リボンを受け取ったメルヴィアは安心したのかまたもや泣きそうに。メルメルモードに加え桜酒の酔いも入っているからか、かなり泣き虫になっているようだ。
「ほらメルヴィアさん、可愛いもの好きでしょ? このキャットシーをまふってもいいわよ」
 慌ててリリアがキャットシーを差し出す。途端、メルヴィアの表情がぱあっと晴れやかなものになり、キャットシーを抱きしめるとついには笑顔になった。
「リボン取ると性格変わるのね……驚きだわ」
「確かに驚いたけど…でも、どちらのメルヴィアさんも素敵だね」
 エースはメルヴィアの隣に座るとその可愛らしさを絶賛し始める。

 そんな二人を眺めるリリアの背後に怪しい影が。
「飲んでないやつはいねかー!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はリリアに飛びかかり無理やり酒を飲ませようとする。
「ああもうまた酔っ払いね! 次から次へときりがないんだから…エースもこんな調子だし、ルカルカちゃん早く来てー!」
 吹雪をいなしたリリアがうんざりだとばかりに声を上げる。
 するとそこに、待ちわびていた人物の声が。

「エース、リリア、お待たせーっ!」
 エース達の元へと駆け寄ってくるルカルカ・ルー(るかるか・るー)。ルカルカは超加速で更に速度を上げ一瞬でエースとの距離を詰めると、手に持った桜餅をエースの口に押し込んだ。
 エースは少し驚いたものの、ルカルカが食べさせてくれた桜餅をしっかりと味わい飲み込んだ。
「びっくりしたなぁ。ルカルカ、一体どうしたんだい? って、あれ? 何だか凄く頭がすっきりしたような…?」
 首を傾げるエース。どうやら、桜餅を食べたことで酔いが醒めたらしい。
「お餅いいなぁ〜。めるめるも食べたい〜」
「え、メルヴィア少佐?! 何で少佐までここに…しかもリボン外れてる!?」
 慌ててルカルカは桜餅をもう一つ取り出す。
「少佐、今助けます」
 そしてエースの時と同じく、一気に口に押し込んだ。


 その頃、正子や他の料理をしていたメンバーも桜料理を持って公園に到着していた。
 おこわやパスタ、ケーキなど様々な料理が運ばれ、美味しそうな匂いに釣られ酔いどれ達が集まってくる。
 酔っ払い達は桜料理を美味しそうに頬張る。そして一口でも料理を食べたものはすぐに酔いが覚め、今までの荒れっぷりがまるで嘘のように大人しくなった。
 しかし、桜酒以外のお酒で酔っていた者だけは変わらず酔いどれていた。さらには、料理に一切興味を示さず、公園を訪れた正子達に桜酒を飲まそうとする者も。
「飲むであります〜!」
 依然として酔ったままの吹雪が桜酒の瓶を手に正子へと迫る。
「甘いわっ!」
 しかし正子は無駄のない動きでそれを避け、吹雪の手から酒を叩き落す。そして吹雪の口に桜の花弁の乗った肉まんを勢いよく押し込んだ。
「むぐっ」
 肉まんを咥えて仰向けに倒れる吹雪。倒れた拍子に後頭部を地面に打ち付けるが、気にしていない様子でもぐもぐと口を動かしている。どうやら肉まんをしっかり味わって食べている様子。
「む、自分は何をしていたであります? 何だか頭が痛いであります〜」
 肉まんを食べ終えた吹雪が不思議そうな顔で後頭部をさすっている。
「覚えておらんのか? おぬしらは今の今まで桜の精霊が作ったお酒で酔いつぶれておったのだ。まったく、面倒な酒を作ってくれおって」
 言われて足元を見てみれば、中身の殆どこぼれた酒の瓶が。起き上がり、ほんの少しだけ中身の残ったその瓶を手に取り、口元に運ぼうとして…。
「やめんかっ!」
 正子に後頭部をどつかれ吹雪は瓶を落とした。
「痛いであります〜」
 両手で頭を抱え恨めしそうな声を上げる吹雪。瓶は地面に落ちた衝撃でひび割れ、今度こそ中身を全て零していた。


「めるめるね〜、さっき公園のすみっこで綺麗なお花見つけたんだよぉ」
「ほう、一体どんな花だ?」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がメルヴィアの話し相手をしていた。まだリボンは結んでおらず、メルメルモードのままである。
 酔いどれ達が正気に戻り幾分静かになった桜花公園で、一同はお花見をしていた。
 輪の中心にはルカルカ特製の花見弁当が。
「まあまあだな。団長の弁当係になったのだから、これからも頑張れ」
「うんっ」
 腕によりをかけて作った弁当をダリルに褒められ、嬉しそうに返事をするルカルカ。
「この卵焼き美味しいね!」
「うん、随分料理上手になったよね、ルカルカ」
 メルヴィアやエースもルカルカの弁当に賛辞を述べる。ありがとうと礼を述べるルカルカは頬を紅く染めて照れくさそうに微笑んでいた。

 弁当が空になった頃、酔っ払って暴れていた疲れもあってか、メルヴィアはダリルの膝の上で寝入ってしまった。
「あれ、少佐寝ちゃった?」
「いつも気を張り詰めているからな。こんな時ぐらい、静かに寝させてやろう」
 ダリルはメルヴィアを起こさないようそっと上着を脱ぐと、幸せそうな顔で眠っているメルヴィアに優しく掛ける。メルヴィアは身じろぎ一つせず眠ったままだ。
「よっぽど疲れてたんだね」
「散々暴れて他の奴に酒を飲ませていたらしいからな。まったく、傍迷惑な酒もあったものだ。この騒ぎの元凶、見つけたらタダでは済まさん」
 そう言ってちらりと頭上を仰ぎ見れば、桜の枝が風もないのに大きく揺れた。

 降り注ぐ桜の花びら。すぐに散ってしまう桜であるが、散り行く様こそ、美しい。

「色々あったけど…こうやって皆でお花見できて、良かったね!」
「そうだな」



 花見は終わらない。

 桜酒の効果こそ切れたものの、殆どの者が未だ公園に残りお花見を続けていた。

 桜料理を食べながら、一同は飲み、騒ぎ、歌い、そして桜を眺める。

 正子や料理を手伝っていた者達も参加し、桜の料理を肴に、お花見は深夜まで続いたという。



担当マスターより

▼担当マスター

RED

▼マスターコメント

こんにちは、ゲームマスターのREDです。
ご参加頂いたプレイヤーの皆さん、真にありがとうございます!
『桜と料理と酔いどれゾンビ』、いかがだったでしょうか?
桜を使った料理というのは結構実在するものなんだと知ったのは、このシナリオを執筆する直前でした…。
お祝いの席で出される桜茶や、桜を練りこんだドーナツ、はては花弁をそのまま混ぜた料理など、色々存在するようでして。
いつか食べてみたいな、とリアクションを執筆しながら考えておりました!

気候が安定せず、あちらこちらで桜がすぐに散ってしまったようですが…このシナリオで少しでもお花見気分を味わっていただけますと幸いです。

それでは、また機会がありましたらよろしくお願いいたします。