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2023春のSSシナリオ

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■それぞれが向かう道

葦原島の茶屋にて。
5月の日差しの中。

冷やし白玉やあんみつを食べ、
食後のお茶をゆっくりと飲んでいる際に、
セルマ・アリス(せるま・ありす)が切り出した。

「葦原に来て、そろそろ2年になる。
ここでの生活は気にいってるけど、俺にはやりたいことができたんだ」
「やりたいこと、ですか?」
リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)が聞き返した。
「ルーマのやりたいことなら応援するよ!」
ミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)が、うなずく。

「ああ、ドラゴンの生態研究をやってみたいんだ」
エリュシオンの龍神族の谷での龍との出会いを経て、
セルマは、ドラゴンに興味を持つようになったのだった。

「でも、ドラゴンといえばパラミタでも早々お目にかかれる存在じゃない。
グレータードラゴンのティフォン学長のような存在も居るし、
空京大学に進むのが一番研究を行うのに手っ取り早いかと思ってさ」

たしかに、空京大学であれば、
嵐を起こすもの ティフォンにも直接会うことができる。

以前より、この計画のことは、パートナーたちにも話していた。
パートナーたちも、ついてきてくれるだろう。
しかし、セルマには、気がかりなことがあった。
妹のリンゼイのことだ。
「俺は空京大学に行くつもりだけど、リンはどうする?」
「私ですか……?」
リンゼイが、葦原島のことを気にかけていることを、
セルマは気づかっているのだった。
事件の収束にはまだ至っていないと、リンゼイは考えている。

少し間をおいてから、リンゼイが言った。
「何かあればすぐさま対処できるようにここに残りたいと考えています。
何かあれば必ずこちらから呼びます」
「そうか」
セルマはうなずいた。
自分と同様に、リンゼイにもやりたいことがあるのだ。
そのことが確認できて、安心したような気がする。

「うん、葦原に何か起これば俺もすぐ行くよ」
(俺に必要なのは自分の道を進む事だったんだと思う。
地に足つけて無理なく生きてれば、
リンへの嫉妬なんてなかったのかもしれない)

かつて、優秀な妹に対し、
親からの愛情を受けたいと、嫉妬したセルマは、
自ら、リンゼイを傷つけてしまった。
そして、そのために、リンゼイの憎しみを買ってしまった。
けれど、パートナーになり、
様々な出来事を経て、2人の関係は変わろうとしていたのだ。

「リンはここに残るの?
そうなると、リンとはお別れになっちゃうのかな……?」
ミリィが、寂しそうに言う。

「お別れではありませんよ、ミリィさん。
すぐに会う事になると思います。
私が居ない場所ではセルの事よろしくお願いしますね」
リンゼイの言葉に、ミリィが、声を弾ませる。
「またすぐ会えるんだね!
うん、任せて!
ルーマの面倒はしっかり見るよ!」

「あ、あれ?
ミリィと俺ってどっちが年上なんだっけ」
ミリィの発言に、セルマが苦笑を浮かべる。

一行の会話を見守っていた、
中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)は、
セルマとリンゼイの関係の変化に、微笑を浮かべた。
以前も、この場所に、セルマと来たことがあるが、
その時と、セルマの様子はだいぶ変わっていた。

嫉妬から、才能ある妹を傷つけてしまったセルマ。
その兄を恨み、パラミタに兄を追ってきたリンゼイ。

しかし、二人は、もう、過去に縛られていない。
しっかりと、未来を見据えて、歩き出そうとしているのだ。

「これからも二人の仲を見守っていくとしましょうかっ」
『老子道徳経』は、そう決意する。

初夏の風が、葦原の茶屋の4人に向かって優しく吹いてくる。
まるで、新たな決意をした、セルマとリンゼイ、パートナーたちを祝福するように。